旅行業界の多くの機能がAIエージェントに置き換えられていくことに議論の余地はない。それは、すでに始まっている。AIエージェントを主体とした新たなエコシステムの到来が迫るなか、ビジネスリーダーの多くが未来を見据えて、この新しい世界で自社が優位に立つにはどうすればよいのかと自問しているところだ。
AIエージェントとは、特定の目的を達成するために、人の介在なしに複数のタスクを考え、実行する自律型のシステムのこと。フォーカスライトの調査によると、欧米からの旅行者の3人に1人が旅行の計画や充実に生成AIを利用。そのなかで、新たなAIエージェントの市場が生まれている。
エージェントAIを支える技術基盤、旅行業界では?
この進化を支える重要な要素のひとつが、MCP(Model Context Protocol)だ。これは、AIが外部のツールやシステムと接続し、実際の処理を実行するための枠組み。従来のAIは、情報を生成することはできても、外部システムと連携して処理を完結させることはできなかった。しかし、MCPのような仕組みによって、AIは外部の予約システムや在庫管理システムにアクセスし、ユーザーの代わりに処理を実行できるようになる。
旅行業界では、航空会社、ホテル、レンタカー会社などが保有する在庫や価格情報が、API(外部システムと連携を橋渡しする機能)を通じて提供されている。AIエージェントは、これらのAPIと連携することで、リアルタイムの情報に基づいた意思決定と実行が可能になる。
さらに、AIは複数のデータソースを横断的に参照し、その中から最も信頼性の高い情報を選択する。このため、どの企業のデータが優先的に採用されるかは、そのデータの質や更新頻度に大きく依存する。
必要となる条件と、現在の課題
AIエージェントが十分に機能するためには、いくつかの条件が満たされる必要がある。
ひとつ目は、AIがアクセス可能なツールやシステムが整備されていること。具体的には、外部から利用可能なAPIの提供が不可欠だ。
2つめに、提供されるデータが正確であり、かつリアルタイムで更新されていること。古い情報や不正確なデータは、AIの判断を誤らせる要因となる。
3つ目に、検索や提案だけでなく、実際の予約や変更といったトランザクションを実行できる仕組みが整っていることだ。
しかし、現時点では多くのトラベル企業がこれらの条件を満たしていない。業界には依然としてシステムの分断が存在しており、GDS、OTA、直販システムなどが個別に運用されている。また、APIの整備が不十分であるケースも多く、外部からのアクセスが制限されている場合もある。
さらに、データがリアルタイムで更新されていない、あるいは構造化されていないといった問題も、AIの活用を妨げる要因となっている。
競争環境の変化、データと接続の重要性
AIエージェントの普及は、旅行業界の競争環境にも大きな変化をもたらすはずだ。従来は、ユーザーが検索エンジンやOTAを通じて情報を比較し、最適な選択肢を選ぶというプロセスが一般的だった。しかし、AIエージェント時代には、ユーザーはAIに対して要望を伝えるだけでよくなり、AIが最適な選択を行い、実行するようになる。
この結果、企業はユーザーに直接選ばれるのではなく、AIに選ばれる存在となる。こうした環境においては、企業の競争力はユーザーインターフェースの優劣ではなく、データの質とシステムの接続性によって決まる。
信頼性が高く、リアルタイムで更新されるデータを提供し、かつAIがアクセス可能な形で公開している企業は、AIによって優先的に選ばれる可能性が高くなる。
逆に、これらの条件を満たさない企業は、AIの選択肢から排除されるリスクがある。
今後の展望
旅行会社にとって、AIエージェントへの対応は避けて通れない課題となる。APIの整備、データ品質の向上、トランザクション機能の強化、そして外部ツールとの連携といった取り組みが求められるだろう。これらを実現することで、企業はAIエージェントと協働し、新たな顧客体験を提供することが可能となる。
AIエージェントは加速度的に発展し、旅行業界は新たな競争フェーズに突入している。今後は、ユーザーに直接アプローチするだけでなく、AIに選ばれるための基盤整備が重要となる。
その意味で、旅行会社の将来は、「AIとどのように接続し、どのようなデータを提供できるか」に大きく左右されることになる。
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営する「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との正式提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:HOW READY IS YOUR TRAVEL COMPANY FOR AGENTIC AI?
著者: Nezasa共同設立者兼CEO Manuel Hilty





