エヴァンゲリオンとAR(拡張現実)で観光促進、「箱根補完計画ARスタンプラリー」を体験してみた -観光ITレポート

箱根町観光協会は2014年12月~2015年3月末まで、人気アニメ「エヴァンゲリオン新劇場版」とコラボレーションし、AR(拡張現実)を掛け合わせた「箱根補完計画ARスタンプラリー」を実施する。ARとは、ITを活用して、現実の風景に画像や音などデジタルの情報を追加する技術。スマートフォンの保有率拡大とともに、アプリ化などがすすみ、観光分野でも活用が進みつつある。こうした中、誘客力の強い「エヴァンゲリオン」を起用し、実施エリアとスタンプポイント、ARの数が「世界最大規模」、かつ、搭載技術が「世界最先端」という触れ込みのスタンプラリーを先行体験してみた。

ソフトバンクモバイルの観光案内アプリ「ふらっと案内」で展開するもので、「日本を代表するコンテンツ『箱根』と『エヴァンゲリオン』で、新しいもてなしと観光スタイルを作る」(ソフトバンクモバイル永瀬淳氏/システムサービス事業統轄部新規事業準備室室長)という通り、強力なコンテンツを利用しつつも、それ頼みのAR集めで終わっていないのがこのプロジェクトのポイントだ。

▼規模、技術、コンテンツの力で圧倒

「箱根補完計画ARスタンプラリー」は「エヴァンゲリオン新劇場版」の舞台となり、ファンの間で“聖地”といわれる箱根全域を対象に、全11コース、100以上のスタンプポイント、50以上のARマーカーで展開する。

ARコンテンツも多様で、2D(2次元)をはじめ、3D(立体)のほか、景色の広範囲に映し出すパノラマAR、360度すべての視界をカバーする360°ARなどを設定。すすき野原や箱根湿生花園に約80メートルの実物大エヴァンゲリオンが出現したり、芦ノ湖の500メートル上空に映し出したキャラクター「第6使途」を箱根全域のどこからでも見られるようにするなど、大きさや距離感にも変化を付け、エヴァンゲリオンの世界に入り込める体験を意識している。

左:実物大エヴァンゲリオン零号機の3DAR。その大きさが分かるように足のみのカット。 中:箱根神社では人気キャラクターが出現(当日は日没により視認できず) 。 右:芦ノ湖上に浮かぶ「第6使徒」を探す参加者たち。空間認識なので直接マーカーは見えず、自分のいる位置によって見える角度も変わる。

さらに技術面では「スマートフォンで一般消費者が利用するのは、おそらく世界で初めて」(永瀬氏)という最新技術(シチュエーション評価アルゴリズム)で、場所や方向、時間や天候などの変化を認識し、ARコンテンツを出し分ける。今回の先行体験では見ることはできなかったが、例えば大涌谷で映す、アニメの架空の都市「第3新東京市」のパノラマARでは、昼間と夕方で表示するARの画像も変える。芦ノ湖では湖上ですれ違う船を認識して、船舶爆破シーンを映す動体認識の活用も検証しているという。

残念ながら筆者はエヴァンゲリオンを視聴したことがないので、その世界観が理解できていないが、それでも一見何もない空中に浮かぶ実物大のエヴァンゲリオンを前後左右、真下からと多方面から距離を変えて見られる体験ははとても面白く、ヴァーチャルなのに不思議なリアリティも感じた。エヴァンゲリオンのファンなら、ARにあった関連ストーリーが想起され、エヴァンゲリオンの物語を追体験できるスタンプラリーになるのではないだろうか。

上:箱根水族館の大水槽観覧席では、右の「エンちゃん」がマーカー。 下:スマホをかざすと、アニメのシーン「海洋研究所」が画面いっぱいに360°ARでオーバーレイ。水族館のほの暗い雰囲気がアニメの世界感を助長。

▼技術はあくまでもインフラ、大切なのは企画力

もっと注目したいのは、コンテンツの力や先進技術に甘えず、それを基盤に「ゲーム要素を高め、参加者を巻き込む」(永瀬氏)と、仕掛けづくりに注力していること。スタンプラリーではスコアをつけて競争を誘い、フォトコンテストも実施。早朝のスタンプ取得や写真撮影で規定のスコアに追加する“レアポイント”も設け、全コース達成者には修了証もプレゼントする。FacebookやLINEなどとも連動し、「どこでどのように撮影するとスコアが増えるのか」などの情報交換を促していく。スタンプやARは参加者の反応を見ながら追加することも予定している。

また、コースは箱根町観光協会が厳選し、箱根の歴史・文化に触れられる5コースと美術館めぐりや公共交通機関で行くなど目的別6コースを用意。しっかり箱根観光が楽しめるコースを企画した。各コースの所要時間は半日を想定しており、日帰りや短期旅行では全コースを終了させることは難しい。延泊やリピートしても参加したくなる、そんな魅力付けを考慮したという。

左:「ふらっと案内」は位置情報に連動しているので、箱根で立ち上げると各コースが上位に表示される。 中:コースを選択すると、近くのスタンプポイントやARマーカーを探索。 右:進行状況やスコアを示す「ステータス」や「スタンプ台紙」などを表示。SNSとも連動

現実世界に起こりえないモノを観光資源にできる、それが観光産業にとってのARの魅力のひとつだが、もはや技術を利用するだけでは目新しくない状況になってきた。ARのスタンプラリーでは、画像を映し出し、記念撮影をするのが定番だったが、今回のプロジェクトはコアファンのみならず幅広い層が楽しめるプログラムに仕上げ、リピートも促せる工夫に富んでいる。ARをはじめ新しい技術やデバイスでのスマート観光が振興しつつある中、それを基盤にした企画力の重要性を改めて感じた。だからこそ旅行を知る、旅行会社のアイディアが求められているのだろう。

ちなみに、「箱根補完計画ARスタンプラリー」に参加するには、ふらっと案内をダウンロードするだけ。38.8万PV・3万UU(各1日あたり)のユーザー数を抱えていることも、ふらっと案内を利用する利点だそうだ。あと必要なのは電源。本格的に参加するなら、スマートフォンの充電器は必須アイテムだ。個人的にはスマートフォンを充電できるスポットの案内や設備の用意もほしいところだった。

大涌谷ではアニメの舞台「第3新東京市」をダイナミックにパノラマARでオーバーレイ。時刻によって出現する画像を出し分ける。上が昼間、下が夕方の様子(先行体験時では訪問していません)

▼観光地プロモーションでのエヴァンゲリオン効果は

エヴァンゲリオンは世界的にファンが多い。パンフレットも日本語と英語の2種類

箱根町観光協会では2009年から、「エヴァンゲリオン新劇場版」とのコラボレーションを実施している。年間2000万人の観光客が訪れる一方、若年層の取り込みを課題としており、エヴァンゲリオンによる新規顧客開拓の効果を見込んでの決定だ。

箱根町観光協会専務理事の高橋始氏によると、2009年にコラボ第1弾として、作品の舞台となった場所を表示した「エヴァンゲリオン箱根補完マップ」を作成。当初用意した4000部が3日間で完配となった。翌年の「第3新東京市上映会」には2日間で1400名が来場。同年にローソンが仙石原店を「ローソン第3新東京市店」に改名すると、訪問者で車が動かなくなる大渋滞が起こったほどで、エヴァンゲリオンには「非常に大きい反響がある」と認識。

プロモーションは毎年、期間限定で実施しており、2011年と2012年には紙の台紙を使うスタンプリーも実施した。これまでの成果を問うと、具体的なデータは公表しなかったものの「目に見えて若い観光客が増えたのが分かる」と強調。今年も集客目標は設けていないが、オフシーズンの底上げに期待している。また、「クールジャパン」の有力コンテンツでもあるエヴァンゲリオンは、それ目当ての訪日客も増えているという。



ARマーカーに近づくと「周囲上空を見渡そう」など、ナビゲーションが表示される

エヴァンゲリオン側にも、箱根とのコラボレーション効果があるという。ライセンスを管理するグラウンドワークス代表取締役の神村靖宏氏によると、来年20周年となるエヴァンゲリオンは現在、「エヴァンゲリオン新劇場版」の映画での展開のみで、次回作の公開が予定されているもののその時期は決定していない。それでもファンの興味が続いているのは、「各地でのイベントや今回のようなキャンペーンがあるから」といい、一般客層にも響く企画によって、若い世代のファン創出にもつながっているという。

過去のプロモーションでは地域の旅館やホテルなどが関連の宿泊プランを出し、旅行会社による関連ツアーも実施されるなど、経済効果も高かったという。今回は現在のところ宿泊プランやツアーは作られていないものの、ツアーを検討する動きもある。5年目を迎えた連続プロモーションで進化を余儀なくされるなか、箱根町観光協会として初のARプロモーションとなる今回のスタンプラリー終了時の成果に注目したい。

箱根を象徴する名所のあちこちに、エヴァンゲリオンのキャラクターや世界が出現。看板や立像などを設置せずに新しい箱根の見せ方ができるのが、ARならではのポイント(ソフトバンクモバイル提供)

▼参考>>ARスタンプラリー、最近の実例3つ

東京メトロ×「宇宙兄弟」ARラリー/2014年7月1日~25日

  • 「宇宙兄弟」初の劇場版公開記念でタイアップ。専用アプリを用意し、6つのポイント駅のポスターにスマホのカメラをかざすとARスタンプを入手できる。3つ以上獲得し、応募した人の中から抽選で賞品をプレゼント。
  • リンク:東京メトロプレスリリース(2014年6月23日)

ナンジャタウン「ARラリーツイッターキャンペーン」/2014年11月1日~12月25日

  • ナンジャタウンのクリスマスイベント「ナンジャ☆クリスマス2014」の一環として実施。施設内にラリーコースを用意し、ARアプリ「POP UP CAMERA PLUS」で3か所のAR画像を撮影。揃えたキーワードをサイト上から送信するとプレゼントがダウロードできる。ツイッターとも連動。
  • リンク:ナンジャ☆クリスマスARラリーARラリーツイッター投稿キャンペーン

ハワイ州観光局×「ウルトラマン」ARツーショット/2014年10月1日~12月31日

  • スタンプラリーと銘打っていないが、近い感覚のプロモーション。ハワイ州観光局が円谷プロとコラボして展開する「ウルトラハワイ」の一環で、ARアプリ「junaio」を利用し、ハワイ州内の対象スポットでARのウルトラマンキャラクターと記念撮影ができる。写真を観光局に送ると、全員に賞品をプレゼント。出現するキャラクターをランダムで変え、出現率の低いシークレットキャラクターも用意する。
  • リンク:ハワイ州観光局「ウルトラハワイ」サイト

これまでの記事

取材:山田紀子(記者/観光ITレポーター)

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