間もなく始まる春節、その意味を知れば中国人旅行者の「爆買い」と「プチ買い」の違いがわかる【コラム】

こんにちは。日中ビジネス・コンサルタントの林一周(りんいっしゅう)です。

中国人旅行者の「爆買い」という言葉はご存じだと思いますが、「プチ買い」という言葉は聞いたことありますか? この言葉は昨年の10月の国慶節で来日した中国人観光客の買い物の様子を表す言葉として注目を浴びました。本コラムでは、春節の「爆買い」、国慶節の「プチ買い」が示す、ふたつの休暇の違いと特徴をお話したいと思います。

これまで皆さんの脳裏に浮かぶ彼らの買い物の姿は、きっと大きな紙袋やスーツケースを複数持ち、ラグジュアリーブランド品から生活必需品まで境目無く買っていく現象でしょう。しかし、昨年の国慶節では「調味料セットしか買いません」(年配の女性)、「服に数万円しか使わなかった」(中年男性)という人も少なくなかったようです。

統計データから、その傾向を見てみましょう。日本政府観光局(JNTO)によると、中国人旅行者数は「春節」(2015年2月18日から24日)のあった2月は35万9000人、「国慶節」(2015年10月1日から7日)のあった10月は44万5000人で国慶節が1.25倍という結果でした。しかし、消費額では逆転現象が起きます。中国最大のOTAシートリップの推計によれば、「春節」の消費額は全体で約1300億円を超えますが「国慶節」では約1000億円と「春節」の77%に当たる低い結果となっています。

さらに、1人当たりの総消費額は「春節」では平均約38万円に対して「国慶節」は約25万円とやはり低くなっています。結果として、どちらも日本経済や多くの企業には大きなインパクトを与えているとは言え、中国において二つしかない大型連休に何故「買い物」においてここまで差が出てしまったのでしょうか。そもそも春節と国慶節とは何かを文化的背景から説明することで解明できます。


「春節」は旧暦のお正月、主体は「家族」

「春節」をインターネットで検索すると「旧暦のお正月」と出ます。これは日本のお正月もそうであるように主体は「家族」です。中国人の思想に影響を与えている儒教には人が大切にすべき徳目に「仁義礼知忠信孝梯」があり、その中でも「孝」という漢字は「親孝行」を指します。

昨年中国の大手の旅行会社が定期的に打ち出しているプロモーションの1つに「親を連れて行こうキャンペーン」というのがありました。こうして旅行の商品も親孝行の手段の一つとして捉えているのです。従って、この考えが買い物にも反映され、自分の両親を始め、年配の親戚にも「孝行の想い」を伝えるべく沢山の買い物をして持ち返るのです。

こうした背景をサービス現場で活かすこともできるのではないでしょうか。例えばホテルにはマッサージチェアの置いてあるお部屋があります。これをデラックスルーム「素泊まりプラン」とするよりも「素泊まり親孝行プラン」として名前を変更することで目を引くこともできるかもしれません。

また、かつて日系のあるホテルに宿泊した際に、客室備え付けの電話機の横にあったメモパッドには「今日はあなたの大切な人にご連絡しましたか?」というコメントが書かれており、飛行機を降りてからまだ家族に連絡していなかったなと気付き、すぐに連絡しました。親孝行とはちょっと違う家族想いの一例になりますが、日本のおもてなしとはちょっとしたサービスにも温かな配慮を感じさせることができ、結果として中国人観光客をリピートさせることに繋がっていくことと私は思います。


「国慶節」は建国記念日、主体は「自分」

さて、国慶節はというと1949年9月に中国人民政治協商会議において10月1日を「国慶節」と定めたことに由来し、いわゆる建国記念日なのです。日本で言うゴールデンウィークに近い休暇と思っていただければ結構です。

従って、この長期休暇の主体は「自分」。自分が主役であるので他人への買い物というよりは例えば日本文化を楽しむ「体験」に注力する傾向が強いのです。尚、余談ですが面子という視点から見ると、見栄を張りたい中国人の心理においては、日本に行けたということが富裕層への仲間入りを果たしたことにより、できるだけお土産を沢山買って周りの方に配ることを通じて自慢したいという欲求を持っている方も多いようです。

このように、文化的な背景により買い物に傾向が表れると説明してきました。今年も春節と国慶節がやってきますが、訪日中国人観光客は一体どのような買い物をするのか私はとても興味を持っています。

越境ECなどにより、最近では中国でも日本と同じ製品がほぼ同じ値段で買えるようになってきました。これまで「モノ」を買うことに軸足を置いてきた彼らが次には「体験」のフェーズを求めて進むことと思います。その中でも「学び」がキーワードだと注目を集めています。『爆買いの後、彼らはどこに向かうのか?』の著者である中島氏によれば、例えば年収30万元~50万元(約570万円~950万円)のそこそこの富裕層は名パティシエに学ぶマカロン教室や、着物の着付け、さらには三味線を習うなどの「学びの旅」も人気があるのだと言います。

いずれにしても、私は最終的にお料理教室でも工場見学でも日本人と中国人がお互いにコミュニケーションを交わす場自体がもっと増え、そしてそれを通じて日本文化に触れてもらうことこそが最高の「体験」になればと願っています。



林 一周 (りん いっしゅう)

林 一周 (りん いっしゅう)

日中ビジネス・コンサルタント。中国北京生まれ。10歳より日本で教育を受け、日中両国の文化を理解し、中国人のマネジメントのノウハウを持つ。日系大手ホテルチェーン本部でブランドマネジメント、経営戦略、中国最大のオンライン旅行サイトCTRIP日本法人のディレクターを経験。中国人を対象としたファシリテーションスキル研修講師も行う。

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