HIS・楽天など旅行4社トップが海外旅行市場を展望、現状分析から未来に向けた提言まで -JATA経営フォーラム

毎年恒例となっている日本旅行業協会(JATA)主催の「JATA経営フォーラム2016」が今年も行われた。業界が抱える様々な課題を議論する基調講演と分科会では、業界のリーダー達が本音の議論を展開。会場は、厳しい環境に直面する旅行業で、今後の経営のヒントを探ろうとする熱気に包まれていた。

ここでは、「海外旅行の未来展望を語る」と題した分科会でH.I.S、JTB、クラブツーリズム、楽天トラベルのトップが語った内容をまとめてみた。海外旅行市場への見解・業況・今後の方針・提言など、各社の特徴が際立つ内容となった。

HIS代表取締役社長 平林 朗氏 -「いい夏になる気配」

IMG_2063平林氏は、今年の海外旅行者数が燃油サーチャージのゼロ化・円高などの好材料によって「若干上回る」と予測する。同社では、2月からの出国者数が前年超となり始めているとという。円高・燃油ゼロの海外旅行での良い材料で「いい夏になるかもしれない気配を感じている」。

ただし、平林氏は、ISの問題が長引くとの見方も示す。このことから、全体的にみると「そんなに強い需要は見込めない」というのが総論のようだ。

このほど開始したフランス・パリへの旅行キャンペーンでは、「正直厳しい」という販売状況だという。こうしたことから、昨年のテロ事件の影響で落ち込んだ欧州への旅行需要の回復は、「ひとつの旅行会社の力では難しい」として業界全体で底上げをしていく動きを呼び掛けた。

また、平林氏は、躍進するオンライン旅行会社(OTA)の台頭にも言及。HISのウェブサイトとともに、旅行者が閲覧しているサイトの1位がブッキング・ドットコム、2位がJTBとなっていることを明かし、日本の流通がネットにシフトしている「流れにあらがえない」として、大胆なビジネスモデルの転換の必要性を示した。

【海外旅行復活への提言】

平林氏は、新たなムーブメントを作り出すことの重要性を指摘。例えば、「人生終わりの旅、死ぬ前に一度は海外旅行に」という流れを業界で作り出すことを提案。古希の旅、喜寿の旅などで、ウェディングやハネムーンのような流れを作り、思い出の旅行を葬儀でビデオ放映するなど、アイディアを披露した。

クラブツーリズム代表取締役社長 小山 佳延氏 -10年後には強みのシニア層が減少

IMG_2113海外旅行2000万人の目標は、「今のままの業界では無理。考え方をガラっと変えていかなければいけない。」と語る。魅力的な観光資源が豊富な国内旅行が、大きな競合となる要素も指摘した。

今後の海外旅行商品としては、従来の大衆ウケする安い価格で勝負する商品ではなく、「内容価値を高めること、企画力が重要となる」との考え。「価格で強い人は価格で負ける」という事例を引き合いに、ツアーの価値を高めることができる人材確保や教育の重要性を訴えた。

クラブツーリズムでは、シニア層に多くの顧客を持ち、強みともなっている。一方で、小山氏は旅行にアクティブな64歳から74歳の高齢者が、10年後には減少することに危機感を示す。こうしたことから、テレビCMなどを積極的に展開し、新たな顧客層をつかんでいく活動も行っている。

また、メディア販売では紙をどうするかが課題となっているという。紙はなくならないものの、紙の価値が変わっていくとの考え方。さらにウェブだけでも完結しないとみており、今後の展開を模索しているという。

【海外旅行復活への提言】

同社では、国内旅行の利用者(顧客)を海外旅行に参加してもらうアプローチを積極的に行っている。小山氏は、初めての海外旅行に踏み出してもらう活動では「高い成約率がある」ことを明かし、市場があることを指摘。国内旅行顧客を海外旅行顧客に育てていくことを提案した。

JTBワールドバケーションズ 代表取締役社長 井上 聡氏 -2000万人時代は必ず来る

IMG_2074井上氏は海外旅行2000万人の時代は「必ず来る」との考え。その根拠として、JTB総研のデータから「リピーター増加」「FITの伸び」「目的意識の高い渡航の増加」、またTPP協定による域内の交流増加をあげた。こうした要素を活かし、需要喚起を進めるうえでカギとなるのが企画力。「旅行会社における企画力は、製造業における技術力」との考え方強調し、「行って何かをする意味を問う時代」が来ていることを強調した。

井上氏は、流通の変化と販売店の価値向上の必要性を感じているという。具体的には、ホールセラーの紙パンフレットの役割を変えていくことを指摘。紙はなくならないものの、「紙にかける比率を変えていく必要がある」との考えで、IT・ウェブの活用にシフトしていく方向性を示した。販売では、店舗とウェブとの連携が欠かせないとみている。

【海外旅行復活への提言】

井上氏は、若いうちに海外旅行の経験をしてもらうことの重要性を指摘。18歳未満のパスポート取得無料化や修学旅行や語学研修の参加者増加への働きかけを今後もしていく考え。

楽天 執行役員トラベル事業長 山本 考伸氏 -海外旅行の満足度にスマホが影響

IMG_2070海外旅行の大きな競合として国内旅行があるのではないかと考えている。その要因として、旅行者が生活者として日々触れているスマホ利用を指摘。海外旅行中にスマホを活用できない不自由さが、海外旅行の満足度を下げているのではないかという仮説だ。

ネット環境が整っている国内旅行では、当たり前のように日常と同じ地図アプリやソーシャルメディアを利用して感動や体験をシェアする。しかし、海外では状況が異なり、特に、レジャー旅行者はネット環境が限られている傾向が顕著ではないかとみている。

そこで、楽天としては、パッケージツアーにWi-Fiルーターを無料で提供する考えもあるという。ルーター保有でネット環境にある海外旅行者と、ネット環境にない旅行者の行動を追跡調査することで、影響を計る。山本氏は、こうした行動は1社ではインパクトが小さく、業界としてやってみてはどうかと提案した。

また、山本氏は海外旅行販売の難しさを「価格の分かりにくさ」と指摘する。特に燃油サーチャージの有無や海外諸税などで旅行者の理解を得ることは難しい。こうしたことを解消するため、また台頭する外資OTAとの差別化を図るために電話サービス(コールセンター機能)を向上させていく考え。事故対応やトラブル発生時に「つながっている」安心感を提供したいという。

【海外旅行復活への提言】

山本氏は海外旅行復活に向けて「出張+ワン」を提案。これは、業務渡航とレジャーを分けるべきでなく、業務後にレジャーを楽しんでくるという考え方だ。欧米では、一般的になっている行動で、「出張に行って、遊んで帰るのは当たり前」という風潮を業界全体で作ってはどうかと提案する。

そのために、まずは旅行業界関係者が積極的に実行し、経営者も後押しする文化が広まるべきとした。業界スタッフがFacebookやインスタグラムのタイムラインで、海外旅行の体験を拡散させていくことが海外旅行復活への第一歩との考えだ。

トラベルボイス編集部 山岡薫

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