旅行分野で急加速する「決済」テクノロジー、Visa(ビザ)ジャパン安渕社長に「市場の変化」から「UX重視の視点」まで聞いてきた

テクノロジー変革の影響が今後、最も大きいと予測されている旅行関連分野が決済だ。訪日インバウンド旅行の主要送客市場である中国では、プラスチックのクレジットカード時代を飛び越えて、一気にモバイル・アプリ決済が浸透している。ICチップが搭載可能で、身に着けることができるデバイスは、今や無限大。

決済テクノロジーの世界的ブランド「Visa」でも、腕時計や指輪などのウェアラブル機器、IOT、生体認証など、あらゆる可能性を試しながら「世界中、いつでも、どこでも、誰からも選ばれる決済手段」を追求している。ビザ・ワールドワイド・ジャパンの安渕聖司代表取締役社長に、同社の取り組みを聞いた。

重視するのは決済手段の「ユーザーエクスペリエンス(UX)」

クレジットカード決済の歴史とは「まさにセキュリティ強化の歴史でもある」と安渕社長は話す。磁気ストライプが、より安全でデータ容量も大きいICチップに替わるなか、日本政府は2020年までの完全IC化を国の方針として決定。とはいえ、未来型決済の完成形が見えているわけではない。今も日々、声紋や顔を使った生体認証など、より安全で精度の高い認証技術の研究が進んでいる。「過去2年くらいを振り返っても、当時、予測していた以上のスピードで、テクノロジーが進化している。まさに予測不可能な時代の中にいる」(安渕社長)。

ビザ・ワールドワイド・ジャパン 安渕聖司代表

最新技術に目を奪われがちだが、安渕社長はテクノロジーと同じくらい重要なのがユーザーエクスペリエンス(UX)だと考えている。「UXが進化しないと、せっかくのテクノロジーも無駄になる。使うのは人間だから、人間的な要素も考慮しないと、広い支持は得られない」と話す。

「例えばスマートフォン。様々な設定機能を100%活用している人が、果たしてどれだけいるのだろうか。あるいは音楽を聴くとき、あらゆる音の設定を自分で細かく調節できる方がよい、という人ばかりではないだろう」と指摘。「シンプルで使いやすく、安全であること」が目指す理想の形だ。

また、決済を含めたあらゆるツールをすべて一つのデバイスにまとめて持ち歩くことが、ユーザーにとって、将来のベストな選択肢になるのかについても、現段階では疑問視している。「携帯端末を紛失したときなど、万一の場合のリスクが大きすぎる。プラスチックカードを含め、複数の支払い手段を確保しておきたいと考えるだろう」との見方だ。

安渕社長自身は、最近、腕時計でVisaのタッチ決済機能を搭載した「Garmin Pay」を使い始めたところだ。今年5月末に開始されたサービスで、GPSウォッチのメーカー、ガーミン社の腕時計に、Visaが提供するタッチ決済機能が搭載されている。例えばジョギングに行くとき、あるいはコンサートやイベント会場などで、お財布やカード、スマホを取り出す必要がなく、腕時計をかざすだけで、キャッシュレスで買い物できるのが利点だ。

もう一つの大きなメリットはセキュリティだ。Garmin Payでは、利用者のカード番号をトークン(デジタル識別子)に変換して端末に載せているので、万一の場合も、不正アクセスなどによるカード番号の流出が防げるという。

「デビットカード」の需要も拡大、海外では「タッチ決済」が浸透

最近の日本市場に目を転じると、ここ数年で特徴的な変化は、Visaデビット利用の急拡大だ。過去10年の平均成長率は、年率70%増となっている。

「支払った後にすぐメールで残高確認ができるなど、銀行口座に直結しているため、安心感があり使いすぎを防げる点が支持されている」(安渕社長)。現金支払いに比べて、レジでの待ち時間が短縮できる、現金取扱いの手間が軽減できるなど、店側のメリットも多い。昨今は、P2Pテクノロジーを活用した各種機能が人気だが、同社では、ユーザー間で割り勘の精算にも使えるVisaデビットのP2P機能も開発中だ。

とはいえ、日本は海外諸国と比較して、まだ圧倒的に現金支払いが多く、特に5000円以下の少額決済では91%が現金支払い。これに対し、例えばオーストラリアでは対面販売の9割以上が非接触のタッチ決済となっている。さらに世界全体では、五輪開催を迎える2020年までに、発行カードの半分が非接触対応タイプになることが予想されている。日本でも、今年3月にはマクドナルド、さらに来年3月からイオングループ傘下の店舗で、Visaのタッチ決済が導入され、徐々に広がりつつあるが、依然として、決済における国内外の乖離は大きい。

こうした違いは、訪日外国人旅行者が日本滞在中に感じるストレスに直結する。

「日本を訪れる外国人客の消費額は、どんな決済手段が利用可能かによって、実際に変わってくる。同じ地域でも旅行者に選ばれる店と、そうでない店があり、その要因の一つは決済手段。我々は、観光素材を提供する立場にはないが、利用者データ等で、訪日旅行市場の振興にも貢献できると考えています」(同社長)。

Visaでは、京都市と「地域活性化包括連携協定」を結び、今春には、桜の季節にやってくる観光客を対象に、ウェアラブル端末をデモ体験してもらうPRイベントを二条城「桜の園」で開催した。非接触ICチップを搭載したピンク色のリストバンドをかざすと、花びらが舞い上がる「SAKURA FUBUKI MAKER(桜吹雪メーカー)」を設置。SNS映えする動画が撮影できるというもの。

旅行者が実際にウェアラブル端末を体験する姿を、地域の人が目にすることで、こうした技術が、もはや遠い未来のSFではないことを実感してもらう機会にもなる。決済手段はインバウンド促進による経済振興の重要なカギを握る要素の一つ。Visaの取り組みが、地域活性化の一助につながれば、と考えている。

オンライン旅行業界の国際会議「WIT Japan2018」登壇した安渕代表。インタビューはイベント会場で行った。

聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫

記事:谷山明子


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