
全国47都道府県、約12万件の地域観光情報を集めた日本最大級の「全国観光情報データベース」。運営する日本観光振興協会は、同データベースを活用した観光DX事業に取り組んでいる。
今春からは、同データベースに登録された内容が検索条件に合致すると、グーグルマップやグーグル検索上で表示される仕組みが始動。画像はグーグル検索、その他の情報は各事業者の同意を得た上で、グーグル・ビジネスプロフィール経由で表示される。地域の集客や売上につながるデータ・インフラ整備を進める同協会に話を聞いた。
観光DXの起点、「全国観光情報データベース」とは?
観光産業における旧来のプロモーション手法が、さまざまなところで限界を迎えている。時代の転換期のなかで、同協会がここ数年、力を入れてきたのが地域のデータ整備だ。「地域情報データ」と「観光マーケティングデータ」の2つのデータを一か所に集め、「日本観光振興デジタルプラットフォーム」を構築した。地域の主体的な観光地経営を目指し、観光庁の観光DX事業に採択された事業である。
同協会理事長の最明仁氏は「コロナ禍で観光産業を離れた離職者が戻らないまま、海外からの訪日旅行者は急増し、アナログな業務の進め方は限界にある。これからの観光地経営にはデータ・ドリブンな仕組みが必要で、そのまとめ役が我々の使命になる」と考えている。
47都道府県のほか、市区町村、観光協会、DMO(観光地域づくり法人)、観光関連事業者、学術研究機関など、約700組織が加盟する非営利の公益社団法人であるからこそ、あらゆるステークホルダーをつなぐ場が提供できると、最明氏は話す。
日本観光振興協会 理事長の最明仁氏「日本観光振興デジタルプラットフォーム」を構成する大きな柱のひとつ「地域情報データ」にあたるのが、「全国観光情報データベース」だ。47都道府県・1741市区町村に関する基本情報のほか、桜や紅葉、花火大会、イルミネーション、伝統芸能のお祭りなど季節性のある動態情報が約1万件、交通、宿泊、食、特産品、神社・仏閣、歴史建造物などの静態情報が約11万件登録されている。
データベースの情報は、地域の自治体や観光協会の担当者が更新をおこない、同協会が統一整備、外部企業に提供している。同協会が運営する一般向けサイト「JAPAN 47 GO」でも日本語および英語で閲覧が可能。幅広く情報発信することで、地域観光の活性化に寄与することを狙う。
同データベースはもともと運輸省観光部受託事業として同協会が着手、1974年に書籍からスタートしたもので、2000年にデータベース化、2005年にウェブサイト更新システムを導入した。現在は旅行関連サイトやアプリを中心に約15の外部サービスと連携している。各観光施設や事業者にとっては1つのデータベースを管理するだけで、連携サービスに一括で最新情報を発信できるようになった。
外部サービスとの連携が進んだ効果もあり、ウェブサイト更新システム導入時は3割ほどだった情報の更新率は、徐々に上がり、現在は7割に向上。「情報更新率が上がると提供数が増え、良い循環が回りだした。当協会の活動への理解も深まり、自治体、観光協会との間で協働体制ができてきた」と事業推進グループ観光DX共創部長の森岡順子氏は振り返る。
日本観光振興デジタルプラットフォームの全体像
グーグル経由で国内外の旅行者へ直接アピール
2025年に入り、全国観光情報データベースの活用領域はさらに拡大中で、2月からはグーグルへの観光関連情報の提供がスタートした。
その具体的な仕組みの一つは、グーグル上のビジネス情報を事業者が管理するためのツール「グーグル・ビジネスプロフィール」と、全国観光情報データベースとの連携だ。各事業者の同意を得たうえで、同データベースに登録した住所、営業時間、サービス説明文などの情報を、グーグル・ビジネスプロフィールに連携。検索条件に合致した場合、登録情報を世界20言語以上でグーグル検索やグーグルマップの検索結果に表示できるようになった。
該当する情報は毎日、同データベースからAPI経由でグーグル・ビジネスプロフィールに自動的に取り込まれるので、同データベースの登録内容を更新すれば、グーグルでの表示内容も自動的に更新されていく。
なお、グーグル・ビジネスプロフィールの登録は、各事業者がそれぞれおこなうこともできるが、日本観光振興協会では、会員の手間を最小限に抑えつつ、サービスの利便性を高めるため、希望する会員には同協会が代理店としてグーグル・ビジネスプロフィール設定を代行する形を整えた。
もう一つの仕組みは、グーグル検索結果での全国観光情報データベース内の画像の表示だ。データベースに登録された観光施設、イベント、季節の風景などの画像が、検索内容に合致した場合、表示される。これにより、世界中の検索ユーザーに対し、より強く、視覚的に各地の魅力を伝えられるようになった。画像は、同データベースからグーグルの画像データベースへ、API経由で取り込まれる。
グーグル検索の画像最適化のイメージ。全国観光情報データベースの画像が、APIでグーグルの画像データベースへ取り込まれ、検索結果に表示されるようになった
観光情報のグーグル掲載の重要性と効果
「国内外を問わず、旅行の計画を立てる際にはグーグルのサービス、特にグーグルマップを利用する頻度は非常に高い。グーグルマップや画像検索結果への情報掲載は、重要な発信手法の一つ」と森岡氏は話す。形がない観光の魅力をアピールしていく上で、画像や利用者のクチコミが与えるインパクトも大きい。
森岡氏は、日本の地域観光が抱える課題は、発信する情報の「精度」と「鮮度」だと感じている。「グーグル・ビジネスプロフィールは、事業規模を問わず、事業者が世界に直接情報を発信することができるツール。課題解決の一歩として、サービス内容や場所、画像、クチコミまで一括管理できる本ツールは有益だと考えた」。自治体や観光協会が管理・運営する施設や道の駅、観光案内所はもちろん、ローカルな体験ツアーや観光商品を販売する地域事業者やDMOにとっても、海外向けに直接販売できる機会になるからだ。
最明氏は「使いやすい仕組みができあがったので、ぜひ積極的に活用してほしい」と話す一方、「情報が拡散できるようになればなるほど、発信する情報や画像の質がこれまで以上に地域観光の明暗を分けることになる」とも指摘する。同協会では今後、グーグルの協力を得ながら、グーグル・ビジネスプロフィールを有効活用するための勉強会などを全国各地で開催し、地域観光の情報発信をサポートしていく予定だ。
観光情報データとマーケティングデータとの連携と相乗効果
「日本観光振興プラットフォーム」では、観光情報データのほか、公的機関の各種統計データや民間企業のビッグデータなどを「観光マーケティングデータ」として搭載している。その統計データ提供元のひとつである内閣府の地域経済システム「RESAS(リーサス)」上に、2025年3月から、全国観光情報データベースと連携した観光地分析メニューが追加された。
具体的には、全国観光情報データベースに登録された座標情報を活用したもので、地域の特定の観光スポットに焦点を当てた人流分析が可能になった。同データベース内の地図は、国内のマップ・データ事業者と連携できる座標情報を採用しており、これが昨今、様々な人流データ分析で活用されているという。
「日本観光振興デジタルプラットフォーム」では、各種データの分析だけでなく、その分析結果を活用した広告配信も可能だ。自治体の中には、人流データ分析をもとに、旅行者のスマートフォン向けにターゲティング広告を打つなど、具体的な購買行動を促す取り組みを展開しているところもあるという。
「日本観光振興デジタルプラットフォーム」の強みは、マーケティングデータと観光情報データを掛け合わせた分析やアプローチが可能なことだ。例えば、ゴルフ好きの米国からの訪日旅行者を選び、空港近くのゴルフ場情報を配信したり、渋滞する高速道路にいる国内旅行者向けに、近くの道の駅にあり、すぐ入れる温泉パーク情報を配信したりするなど、様々な提案が可能だ。
こうした手法においても、魅力的な体験や商品に関する情報が充実したデータベースは、「必要なタイミングで、必要な情報を、必要な人に配信する」(森岡氏)上で、ますます不可欠になっていくと見ている。
日本観光振興協会 事業推進グループ観光DX共創部長の森岡順子氏
データ・ドリブンな観光地経営に向けた人材育成へ
観光DXについて、最明氏は地域の遠くない未来を左右する課題であり、「特に今、DMOは、緊張感をもって進むべき曲がり角にある」と話す。今年、観光庁によるDMOの登録要件が見直され、データ・ドリブンな地域観光経営に至っていないDMOは要件を満たさないと判断されることもあり得るという。
最明氏は「様々なデータを取捨選択しながら活用し、地域住民や企業をまとめ、計画を作り、実施して効果測定する流れをつくる主役がDMOである」と説くと同時に、そのようなデータ分析・活用ができる観光デジタル人材が不足していると課題を口にする。
同協会では、今後、地域の人材がデータの活用方法を学ぶ場がより必要との考えから、2025年後半には観光DXデジタル人材育成を支援するためのオンライン研修、12月には「地方創生データサイエンティスト検定(観光DX検定)」を実施する予定だ。さらに来年度は、DMOなど観光産業に従事する人はもちろん、小学校から高校までを含む幅広い年齢層を対象に、未来の観光DX人材を育成する事業を本格化していく。最明氏は、「観光地経営に必要な人材育成や、使い易いツールを継続的に提供していくことが当協会のミッションと考え、進めていく」と力をこめた。
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記事:トラベルボイス企画部