新型コロナの難局に対応する支援策をまとめた、観光産業はSARSはるかに上回る危機、インバウンド消費は月間3000億円減少

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、観光産業は今までに経験のない状況に見舞われている。インバウンド、アウトバウンドともに出口の見えない旅行者減少が企業の業績を直撃。政府は2020年3月10日、個人事業主を含む中小・小規模事業者を対象に実質無利子、無担保で融資する新制度創設を発表したが、いま、この状況で観光産業に具体的な打ち手はあるのか。

消費、企業経営への影響とともに、経営相談窓口、政府の補助事業、金融機関による特別融資など、難局を乗り切るための支援策、すぐにでもできることをまとめた。

インバウンド消費、月間3000億円減少の試算

2020年東京オリンピック・パラリンピックを目前に、インバウンド消費に支えられてきた日本だが、ウイルス流入阻止に向けた水際対策として、政府は2020年3月9日に中国(含む香港・マカオ)・韓国からの入国を制限する措置を発動。2019年にかねてからの目標だった日本人出国者数2000万人達成が確実となったアウトバウンドも、ヨーロッパでも感染が拡大したことで、ミラノ、ベネチアなどを擁するイタリアの一部に感染症危険情報レベル3(渡航中止勧告)が発出され、旅行各社は募集型企画旅行の催行中止に追われている。

とりわけ、インバウンド消費への影響は甚大だ。観光庁による2019年の訪日外国人消費額は4兆8000億円で、このうち中国・香港・韓国で53%、これに台湾、タイを加えると68%のシェアを占める。日本総研は、中国・香港・韓国の訪日客が9割減、台湾・タイを7割減、さらにその他の国・地域からも訪日客が3割減少すると仮定したうえで、インバウンド消費は月間約3000億円減少すると試算。また、地域別では、中国人客の比率が大きい中部・近畿や、韓国人客の比率が大きい九州で深刻な打撃を被ると予測している。

エイチ・アイ・エス(HIS)は、2020年10月期の連結業績予想を下方修正。旅行、ハウステンボスグループ、ホテル事業中心に新型コロナの影響が7月まで続いた場合を想定し、最終損益を従来の110億円の黒字から11億円の赤字に、売上高も9000億円から7750億円に落ち込む見通しを発表した。

経営破たんに追い込まれた観光関連企業も出ている。関西で新型コロナ関連倒産となったのは、神戸港クルーズ船「ルミナス神戸2」を運航するルミナスクルーズ。3月2日に民事再生法の適用を申請しており、帝国データバンクによると負債額は約12億4300万円。インバウンドへの依存度は低かったものの、台風、燃油費の高騰で業績が悪化していたところ、今年1月以降、新型コロナの余波で多数のキャンセルが発生したことで自主再建を断念した。

また、愛知県西浦温泉の旅館「冨士見荘」は近年、中国人ツアーの受け入れに注力していたが、春節の大型連休と重なることもあって、盛り上がりを見込んでいた需要が確保できず先行きの見通しが立たなくなり、2月中旬に事業継続を断念。患者数が100名を超えた北海道では、「くりやまコロッケ」を販売する北海道三富屋が相次ぐイベント中止で、2月25日に破産手続き開始決定を受けた。

セーフティネット保証5号に旅行業ら追加

こうした経営悪化を受け、政府全体では、新型コロナで影響を受ける事業者に対し、資金繰りについて5000億円規模の支援、サプライチェーンの毀損への対応、経営相談窓口の設置などの各種施策を取りまとめたのに続き、3月10日に第2弾となる緊急対策を発表。厳しい状況に置かれている中小企業の事業継続に向けて実質無利子・無担保の融資を行うなど、個人向け緊急小口資金の特例、雇用調整助成金制度の拡充と合わせ、総額1兆6000億円規模の資金繰り支援を決定した。

経営相談窓口については中小企業関連団体、政府系金融機関など1050拠点に設置している。具体的には、観光バス事業者からの資金繰り相談に対し、日本政策金融公庫の貸付制度や信用保証協会の保証制度を案内するとともに、従業員給与関連では、雇用調整助成金の特例を提案。インバウンド向け免税店を展開する事業者には、今後の経営の相談先として、よろず支援拠点を紹介した例があるという。観光産業には下請け事業者も少なくない。取引上のしわ寄せ防止の要請文も発出されている。

経済産業省は3月3日、感染拡大の影響で業績が悪化している中小企業の資金繰り支援措置として、信用保証協会が一般保証とは別枠で融資額の80%を保証する制度「セーフティネット保証5号」の対象業種を追加指定することを決定。重大な影響を受けているとして、旅行業者代理、旅館・ホテル、簡易宿所、飲食店、テーマパークのほか、小売業など40業種が追加指定された。

地方自治体単位での支援策も相次いでいる。愛知県は2月18日に県融資制度の拡充を実施したが、一層の資金繰り悪化に対応するため、「新型コロナウイルス感染症対策緊急つなぎ資金」を3月4日に創設し、金融機関に運転資金として最大5000万円を融資するよう要請している。新型コロナの影響を受け、直近1カ月の売上高が、前年または前々年同月の売上高に比べ減少している中小企業が対象で、契約時の信用保証料は県が全額負担する。

また、旅館業、飲食業に特化した施策が「衛生環境激変対策特別貸与」だ。こちらは直近1カ月間の売上高が前年または前々年同期比で10%以上減少し、かつ今後も減少が見込まれること、中長期的に業況が回復・発展することが見込まれることを条件に、旅館業者には別枠3000万円、飲食店および喫茶店営業者には別枠1000万円を融資する。基準金利は1.91%で、振興計画の認定を受けた生活衛生同業組合員についてはさらに0.9%を割り引く。

2003年に拡大をみせたSARSをはるかに上回る未曾有の危機。拡充された融資策を活用できても、中長期的な再生の計画が不可欠だ。地域、DMOと一体になった戦略、インバウンド依存からの転換など、日本の観光の未来が問われている。

経産省:新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ(PDFファイル)

政府や各都道府県の相談窓口、補助事業、金融機関による特別融資など

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