「トラベルバブル(近隣の域内旅行)」構想は成功するか? 世界各国での旅行再開のリスクを考えた【外電】

海外旅行が再びできるようになるのはいつなのか、誰もが注目している。だが「トラベルバブル(近隣の域内旅行)」構想に見られるように、再開の動きは世界同時ではなく、地域によってかなり差があるかもしれない。最初に旅行者を迎えられるのはどこなのだろか――?

最近、明るい兆しを必死に探している旅行観光産業界で、注目を集めているのが、いわゆる「トラベルバブル」構想だ。

トラベルバブルとは、社会的、経済的に結びつきの強い隣国が、ひとつの大きなバブル(泡)の中に入り、その枠組みの中で新型コロナ感染を防止しつつ、旅行の選択肢の幅を広げること。

ニュージーランドとオーストラリアの間で検討中のアイデアで、要は、隣接する国や地域どうしがどちらもコロナ感染者数を抑え込めている、もしくは最初から感染拡大がなかった場合に限り、国内旅行に続き、相互の国境をまたぐ往来も認めるというものだ。到着後の隔離義務は不要で、自由に旅行できるようになる。

両国の場合、タスマン海をまたぐ「トランス・タスマン・バブル」を形成することになるが、同じような動きが欧州でも始まっている。オーストリア、イスラエル、チェコ、デンマーク、ギリシアの間で、同様の安全圏を設定する話が進んでいるほか、バルト3国のリトアニア、エストニア、ラトビア間では、すでに5月15日にバブルが設定された。

理論上は、理に叶っているが、実際にこのアイデアを現場で運用するとなると、おそろしく複雑そうだ。政治的な思惑に左右されるリスクもはらんでいる。バブル圏を形成する国の間には、お互いの仕事ぶりに対する非常に高いレベルでの信頼関係と、警戒を怠らない姿勢が必要だ。うまくいかなかった場合、国境開放による感染の第二波とロックダウンを招き、経済回復とは程遠い状況に陥ることになる。

最初に動くのは誰か?

アジア情勢に詳しい観光・消費者アナリストのギャリー・バウアーマン氏は、旅行のリバウンド需要が「政治と密接に絡んだ問題」になると指摘している。以下は、同氏がLinkedInで公開した内容だ。

「今のところ、お互いの状況を注視しつつ、誰かが動き出すのを待っている国がほとんどだ。オーストラリアとニュージーランドは、比較的、導入の条件が整っていると言える。どちらも(他の大陸から)遠く離れた島国なので、相互に限定して国境を開放しやすい」とバウアーマン氏。だが「他の国々の場合、状況を慎重に見極める必要がある。ウイルス感染拡大が最初に起きたアジア太平洋地域から、まず動き出すのではないか」(同氏)との見方だ。

過去にSARSやMERSを経験しているうえ、もともと信頼関係や緊密なつながりがあること、世界の他の地域と比較すると、感染拡大における危機管理について全般的に政府がうまく対処したことも理由に挙げている。SARS流行時と比べると、現在はアジア域内における観光目的の旅行やビジネス渡航は格段に増えた。よって、ロングホール(長距離)の旅行がしばらく難しい場合でも、近隣域内での旅行が可能になるなら大きな前進だ。

「ロングホールの旅行については、現段階では未知数だ。消費者が安心して長時間のフライトに乗り、遠くまで旅行したいと思うかどうか、まだ分からない」とバウアーマン氏。「一部の国では、国内旅行が解禁になるので、まずそこで問題が起きないかどうかが重要だ。その後、バブルとか地域間の戦略的パートナーシップとか、エリアを限定するという選択肢を検討するのが、これから数か月間の動きになると思う」。

勝者と敗者

PATA(太平洋アジア観光協会)のマリオ・ハーディCEOにも話を聞いた。WTTC(世界旅行ツーリズム協議会)やUNWTO(国連世界観光機関)との定例ミーティングでは「国境の再オープンは、段階的に少しずつ進むという点で、全員の意見が一致した」。だが一斉ではないということは、取り残されてしまう国、回復が遅くなる地域も出てくるということか?

「取り残される? 短期的には、そうしたケースもあるだろう」とハーディ氏。「感染拡大を封じ込めるのに必要な対策を整えるのに、他の国より時間がかかるところもあるかもしれない。その場合、状況をコントロールできるようになるまで、(旅行再開が)遅れることになる」。

例えば米国は、政権トップがウイルス対策に本腰を入れるのが遅かったうえ、最近では、人命へのリスクより経済回復をますます重視しているように見える。ヨーロッパの状況は、地域ごとにばらつきがある。EU当局は、域内の自由な移動再開について、統一基準をまとめ、加盟国が一斉に制限を解除するのが望ましいとしている。だがバルト海沿岸諸国は、独自のバブル圏をさっさと作ってしまった。前述の通り、ギリシアとオーストリアも、非EU加盟国であるイスラエルを交えた連携に向けて動き出しており、EUの一致団結は揺らいでいる。

ヨーロッパ観光の需要回復をより広範囲で進めるためには、バルト諸国以外の各国にとっても、バブル構築は効果がある。ただし一部の国がバブル圏外に孤立することは避けられないとノルディック観光連合(NTC)のディレクター、アンディ・フェアバーン氏は危惧する。

「"トラベルバブル"モデルは、他の地域から遠く離れている複数のデスティネーションで、コロナ感染抑制もほぼ同じレベルというケース向き。同時に渡航制限を解除できるし、うまく機能するだろう。だが、状況の差が大きいエリアでは難しい」とフェアバーン氏。「例えばヨーロッパの場合、明らかな負け組は英国だ。同政府の危機対応はひどいというのが、欧州各国では共通認識なので、英国がどこかのバブル圏内に入れてもらえるのは最後の方になる。一方、ノルウェーとデンマーク(スウェーデンは別)は状況が似ているので、北欧バブル的なやり方は検討に値する」。

フランスとイタリアも状況は似ており、一緒にバブル圏を作りたいと思う国は限られるだろうと指摘する。

旅行を阻む要因になるリスクも

様々な議論があるなかで、ハーディ氏が懸念しているのは、トラベルバブルや戦略的パートナーシップが、官僚組織にありがちな迷路にはまり込み、むしろ旅行需要の回復を妨げる状況につながることだ。

「各段階へのステップや手続きにおいて、統一したアプローチがあることが望ましい。訪問先の国によって、あれこれ異なる手続きが必要になると、旅行者も旅行会社も、調べるだけで疲れ果ててしまう。非常に混乱するし、難解になる」と同氏は指摘する。

こうした戦略が奏功するかどうかは、政府の手腕にもよっても左右されるだろう。政治家には、自分が語り、約束したことを、本当に実行できるのかが問われている。同時に、友好国や近隣諸国との外交関係も重要だ。そして最後に、今回の危機は、超大国と呼ばれる国々に、必ずしも人々が期待するほどの実力はないことを知る機会にもなった。

※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:Who Will Come Last in Global Travel’s Staged Recovery?

著者:ロージイ・スピンクス(Rosie Spinks), Skift

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