沖縄観光コンベンションビューロー会長に聞いてきた、観光復活への道筋、日本の観光復興モデルに

2018年度に、ハワイを超える1000万人超の観光客数(入域客)を迎え、新たな観光のステージに入った沖縄県。県内総生産(GDP)の実に2割を観光が占める観光県だ。県の観光振興計画で、2021年度までに観光客数1200万人、観光収入1.1兆円を目指していたが、コロナの影響で今年度上期(4月~9月)の観光客数は前年比81.8%減の97万3100人となった。

沖縄県では「観光客を戻すときには、コロナ以前と同じようにしない」(沖縄観光コンベンションビューロー会長の下地芳郎氏)と、新たな誘致方針に舵を切った。沖縄の観光振興を担う広域DMOである沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)会長の下地氏に、沖縄の課題と新時代への挑戦を聞いてきた。

県民の豊かさに繋がる観光を

沖縄県では、観光客数の著しい成長が続いていた2017年と2019年、県民を対象にした「沖縄観光に関する県民意識の調査」を実施した。下地氏によると、沖縄県の県内総生産(GDP)に占める観光消費額の割合は20.9%に及び、これは2番目に大きい山梨県の10.1%と比べても突出している。東京都や神奈川県、愛知県を除いた各道府県の平均的な割合は5~10%程度。観光が沖縄県の経済、つまり県民生活に与える影響度は他県に比べて高く、同調査の重要性がうかがえる。

意識調査の結果でも、回答者の86.4%が沖縄の発展における観光の重要性を認識していると判明。ところが「観光が発展すると生活も豊かになると思う」の回答は33.8%に留まり、観光への期待と日常生活での実感に乖離があることも明らかになった。下地氏は、「沖縄は、観光客には総じて満足度が高いが、県民にも納得される観光を目指す必要がある。これが沖縄観光の大きなテーマになった」と現状を話す。

沖縄観光の推移を見ると、2019年度の観光客数は約947万人で、前年度よりはやや減少したものの、2018年以前の4年間は10%~5%程度の伸長率で、2021年度の目標1200万人が目前だった。一方、観光収入は約7047億円で、「目標の1.1兆円には程遠いという実感があった」(下地氏)。観光客1人あたりの消費額では、2015年度、2016年度は7万5000円台から2017年には7万2000円台、2018年には7万3000円台など減少。観光客数が増加しながらも、それが経済的なプラスとならなかった状況がうかがえる。

沖縄県の入域観光客数&観光収入の推移(出典:沖縄県)

住民生活の視点で見れば、県民所得は全体的に上がっておらず、観光産業の社会的地位や労働環境の改善も十分ではないと感じることも多いだろう。下地氏は「今後、観光客が増えていくプロセスの中で、いかに県民が豊かさを感じられる仕組みを構築できるか。これを産業界と連携して実現していくことが、今年度以降の大きなチャレンジだった」と説明する。

実は、今年度と2021年度は現行の「沖縄県観光振興基本計画(第5次)」の集大成となる2年間になるはずだった。同時に、2022年度から始まる新計画に向け、今後の目指すべき姿を固める大切な期間でもある。これに向け、観光振興の方向性を、「量から質への転換」「県民の支持を得られる観光」「経済効果の波及」へと、本格的に舵を切ろうという矢先に、新型コロナが発生。ニューノーマル時代の生活に即した観光対応が必要になった。

「安心安全」が最大の誘客策

OCVBでは、国内での感染が散見しはじめた1月末から、県内の観光事業者との協議を開始。この未曽有の危機下で事業を維持するための意見交換を行ない、県や国への要請を繰り返してきた。観光事業者の最優先事項は当然、経営維持だが、下地氏によると、同時にウィズコロナ時代に応じた「防疫型観光」を並行で行なうよう、要望が寄せられた。「資金的な支援と、ウィズコロナでの需要創出を両面で動かすことが必要」という声が多かったという。

これを踏まえ、OCVBが6月に発表したのが沖縄観光回復プロジェクト「憩うよ、沖縄。」。従来の課題である「観光客の消費単価向上」に、「防疫型観光」をあわせた2つの方針が大きな柱だ。医療資源の限られた島嶼県である沖縄は感染防止対策への意識が高く、ガイドラインの遵守や対策を徹底する「防疫型観光」の推進は、観光客はもちろん、県民の安心安全にも繋がる。加えて、開放感やリフレッシュといった沖縄の持つ魅力を最大限に発揮でき、大きな強みになるとも考えたのだ。

具体的には、県と国、OCVBと賛助会員が感染防止で連携した受入れ体制を構築。県内4空港でのサーモグラフィによる検温や、那覇空港の旅行者専用相談センター「TACO」、LINEを活用した沖縄県の新型コロナ対策パーソナルサポート「RICCA」など、水際から市中まで対策を講じた。特にTACOは6月19日の設置以降、問い合わせが500件超に上っており、「この存在が旅行者の安心材料になっているのは間違いない」(下地氏)と、さらなる機能強化に取り組む方針だ。

那覇空港の国内線到着エリア。サーモカメラでの検温を実施

一方、観光客の消費単価向上では、自然や文化など沖縄の長所で一人一人に深い感動を与えるような商品開発を促進する。30分で流れ作業のようにこなす消費型ではなく、それぞれの体験にじっくり向き合える本物志向の商品提供を目指す。「これからの時代、1か所に大人数を収容できないのであれば、高単価で提供できる体験が必要になる」と、量から質への転換が、防疫型観光の観点でも合致していると見る。

さらに、今後の防疫型観光のポイントとするのが「デジタルホスピタリティ」だ。沖縄はホスピタリティの評価が高いが、それは人の温かさによるソフト面のおもてなし。ウィズコロナの新しい日常では、非接触や混雑回避などを助けるデジタル活用が必要になる。下地氏は、「これまで力を出せていなかったデジタル面のホスピタリティのあり方を強化する時期にある」とし、「人とデジタル、2つのおもてなしが防疫型観光の方向性。安心安全を多方面から提供する施策が、最大の誘客手法に繋がる」と話す。

あえて今年度の目標を設定、日本の復興のモデルに

OCVBは10月下旬、2020年度の目標観光客数(入域数)を前年比60.9%減の370万人に設定した。沖縄県の観光目標は毎年、県が発表しているが、コロナ禍の今年は目標設定ができなかったため、OCVBが今後の活動をする上で、航空やホテルの予約傾向から算出した見通しに“意欲”を上乗せした、独自で設定した目標値だ。

「まずはしっかり、需要の回復をしなくてはいけない。経済を何とか回復させなければ」と、下地氏。観光の落ち込みが県経済に与える影響は大きい。「観光が牽引役となり、農業や製造業など他産業を活かし、県内GDPを上げていくことも沖縄の観光に必要な視点」という。すでに沖縄では特にMICEを経済成長の基盤と位置付け、産学官と連携した「MICEネットワーク」を形成し、取り組みを進めている。今後は、防疫型観光の観点でリアルとバーチャルを組み合わせたハイブリットMICEも推進する方針で、ビジネス連携の幅も広がりそうだ。

また、目標の370万人には、外国人客3000人も含まれており、国際観光も今年度中の再開を目指す方針。コロナで、観光客数の3割を占めていた外国人観光客が一気に消えたが、下地氏は「沖縄には、4時間圏内に日本を含むアジアの20億人マーケットがある。この地理的優位性は何があっても変わらない。まずは台湾からしっかり再開し、その上で世界との交流拠点を目指す。これが沖縄の方針だ」と言い切る。

OCVBオフィスに並ぶ沖縄県に就航する航空会社やクルーズ。国際間の往来はコロナの影響でゼロに

コロナで世界が一変しても「沖縄の魅力が消えたわけではない」と下地氏は続ける。沖縄では、来年の世界自然遺産(奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島)登録が見込まれるほか、2025年には宮古島の下地島空港での宇宙旅行や、本島北部でアドベンチャーがテーマのテーマパーク、さらなるホテル建設などの計画も進んでいる。2026年には昨年災禍に見舞われた首里城正殿も復元される予定で、今後、さらに観光の力が増強する予定だ。

先ごろ、沖縄で初開催された「ツーリズムEXPOジャパン2020」の基調講演で下地氏は「沖縄観光の復興が日本の観光復興のモデルになるのだという意志を強く持っている」と述べた。コロナ禍の対応で新たな強さを手に入れた沖縄の今後の展開に注目したい。

取材・記事:山田紀子

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