三菱地所が推進するワーケーション事業とは? 企業を対象に提案する新たな働き方から地域との連携まで聞いてきた

WORK×ation Site 軽井沢

リモートワーク浸透を機に働き方が大きく変わる中、新たな働き方・休み方として大きく注目が集まるワーケーション。コロナ禍以前、社会的に注目されるよりも前から事業化に取り組んでいた企業のひとつが三菱地所だ。東京・丸の内エリアを中心に国内外で不動産事業を展開する同社は、2019年に南紀白浜、2020年に軽井沢に企業向けワーケーション施設を相次いで開設した。

観光事業者でない同社が、なぜ、ワーケーションに着目したのか? 現在までの取り組みと今後の展望、ワーケーション誘致を行う地域への提案などを担当者に聞いてきた。

休暇ではなく業務がベースの「WORK×ation」

現在、三菱地所は国内2か所でワーケーション施設を運営している。ターゲットは個人ではなく、企業や団体など法人に特化。1社が1室(棟)を専有する形で1日単位の貸し出しをしている。

2019年5月に開設された第1号の「WORK×ation Site 南紀白浜」は和歌山県白浜町が管理するサテライトオフィス用貸事務所の1室で、海のそばにあり最大16名の収容が可能。2番目の「WORK×ation Site 軽井沢」は緑に囲まれた一棟建てのレストランを改装し、2020年7月に開設された。軽井沢の物件は3室あり、各20〜30人程度収容可能で各室を個別に利用することも、全室まとめて一棟を借り上げることもできる。いずれも、周辺の宿泊施設に滞在して利用することが前提だ。

WORK×ation Site 南紀白浜

当初、三菱地所のワーケーション事業は都心部に展開するオフィスビルのテナント企業向けサービスとしてスタート。オフィスを提供する顧客企業の課題解決を目指して展開してきた。「現在はテナント企業にとどまらず、規模も業種も多様な企業が利用している。チームビルディングや機密性の高い取締役会議、新規事業の開発合宿など用途は幅広い」と三菱地所ビル営業部グローバル営業室統括の三澤圭乃氏は語る。固定のオフィスを離れて業務を行うニーズは様々だ。

三澤氏は「当社におけるワーケーションは休暇ではなく業務がベース。『働く場所を非日常空間に変えることで、普段生まれないコミュニケーションやイノベーションを起こすための新しいワークスタイル』と捉えている。例えば課内でアイデアに行き詰まったとき、新たな発想を促すロケーションを提供することが当社の役割」と説明する。

三菱地所ビル営業部グローバル営業室統括 三澤圭乃氏

増える自治体からの相談、企業の課題解決が重要

最初にワーケーションに着目したきっかけについて、三澤氏はこう振り返る。「2000年代のITバブルの頃から欧州でノマドワーカーが増加し、働き方の変化はいずれ日本にも波及すると注目していた。それを受け、仕事ができる場所(ワークプレイス)を提供する事業者として、2017年頃から新たな需要を取り込む検討を始めた」。

そして、同時にこの頃、ワーケーションという言葉も登場してくる。フリーランスを始め個人ベースでは自然に普及していくことが予想された。「しかし、日本の文化的背景を考えると、企業や団体が動かなければ、社会全体に行き渡ることは難しい。そこで、法人向けに新しい働き方を提案するための施設を作ろうということになった」(三澤氏)という。

具体的な施設候補を探し、勉強会などに参加する中で和歌山県と出合ったことが、「WORK×ation Site 南紀白浜」の開設につながった。和歌山県は交流人口の拡大を目的に、IT企業を中心としたサテライトオフィスの誘致を積極的に行うほか、自治体の中でいち早くワーケーションに着目して、2017年度から取り組みを始めていた。

「県から白浜町にサテライトオフィス用貸事務所があると聞き、交通アクセスや立地などから、ここが最適と考え、約2ヶ月後には和歌山県及び白浜町と協定調印を行った」(三澤氏)。双方のアンテナとベクトルが同じ方向を向いていたことが、スピード感ある連携につながった。

そして、和歌山県との連携事例を受け、三菱地所には日本各地の自治体からワーケーションでの既存施設の活用に関する相談が数多く寄せられている。だが、実際には可能性のある施設は非常に少ないという。

「利用期間は2泊3日が主流なので、移動時間は公共交通機関を使って都心から約1時間半以内が望ましい。南紀白浜は羽田から空路で1時間15分の南紀白浜空港から車で5分、軽井沢は東京から新幹線で約1時間のJR軽井沢駅から徒歩14分と、今運営する2施設は条件をクリアしているが、そうした物件は非常に限られる」と三澤氏は語る。

こうした点を踏まえ、自治体などのワーケーションを軸にした誘客や施設活用は、どのように展開すべきか。三澤氏に尋ねると、このような答えが返ってきた。

「三菱地所が最も重視してきたのは、需要側である在京企業が何を求めているか。そのニーズを満たすためにワーケーション施設を提供している。地域の課題解決を期待して相談される自治体も多いが、まず在京企業の抱えている課題について学び、それらの解決につながるような具体的な提案をすべきではないか。」

「畑違い」のコンテンツ開発や手配、JTBとの連携で 

第1号施設の「WORK×ation Site 南紀白浜」では、熊野古道を保全するボランティア団体、地元農家や事業者との交流など、地域に密着したアクティビティが用意されている。これらのソフトコンテンツ開発は旅行会社などに外注せず、三澤氏をはじめとした三菱地所の担当者たちが自ら携わった。

「まさに手探り状態で、まずは地域の関係事業者への挨拶回りから始め、協力いただける人や事業者探しを手分けして行った。ワーケーション施設が開設した後は、第2種旅行業に登録している南紀白浜エアポートの協力を得つつも、旅行業に抵触しない範囲で人的交流の手配などを行っていた」(三澤氏)

だが、自分たちでそこまでやっていると、パンクしてしまうと限界を感じたという。「不動産開発会社なので大きな面的開発などは得意だが、こうしたきめ細かい業務は決して得意ではない。自分たちで継続して行うのは無理と感じた」。

「WORK×ation Site 軽井沢」の開設と合わせ、2020年7月に三菱地所ワーケーションポータルサイトがオープンした。南紀白浜と軽井沢の2施設の予約に加え、周辺の宿泊施設やアクティビティも含めた現地滞在プランのオーダーメイド手配をワンストップで行うことができる。これらの手配業務はJTBに委託しているが、三菱地所にとっては自ら手を動かして「畑違い」の業務を経験したことが、こうした異業種連携の価値の再発見につながったと言える。

異業種連携のプロダクト開発も

昨年11月、三菱地所は同社主催でワーケーションに関するウェビナーを行った。三澤氏のほか、ポータルサイトで連携するJTB、日本航空、博報堂、スノーピークの4社がワーケーションの課題やそれぞれの取り組みを討論。闊達な意見が交わされたイベントは、約200名が視聴した。

三澤氏は「各社の課題感や立ち位置がそれぞれ違うので、ディスカッションを通して、お互いにとって多くの気づきが生まれた」と話す。終了後の視聴者アンケートでも「今後は1社による利用だけでなく、このような異業種交流をワーケーションサイトで行いたい」という意見も少なくなかったという。

「ウェビナーに参加した5社の間ではこの半年間で、ワーケーション推進に向けて協調していこうという共通意識が一気に強まった」。三澤氏はワーケーション事業に携わった3年間を「正解がなく、自社の取り組みだけでは成り立たないと痛感した」と振り返り、今後はポスト・コロナの働き方を見据えながらこうした異業種間の連携をさらに強める考え。ワーケーション施設の利用者に対しても、異業種連携につながるプロダクト開発を検討している。

昨年開催したワーケーションがテーマのウェビナーの様子

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