観光の現場が変わるデジタル活用手法、情報管理の変革で観光の質と生産性を上げる -トラベルボイスLIVE開催レポート

観光産業では、今、業務のデジタル化が生産性向上を推進する一手として大きく期待されている。これまで、その中心はバックオフィス業務だったが、最近では人の対応力が求められる観光の現場でも、デジタルを活用する動きが始まっている。そのカギとなるのは、現場の業務に必要な情報管理の変革だ。

トラベルボイスでは先ごろ、ワークスモバイルジャパン(LINE WORKS)と「観光の現場力を最大化するデジタル活用の秘訣、最新トレンドと課題解決」をテーマにしたトラベルボイスLIVE特別版をオンラインで開催。ワークスモバイルジャパン地方創生担当アーキテクトマネージャーの廣瀬信行氏が、様々な仕事の現場におけるデジタル活用の最新動向とその考え方を説明した。今回はそのなかから、観光現場に関係する事例をまとめた。

情報共有の活性化で地域の魅力向上へ

観光現場の仕事は、多岐にわたる場所で同時進行し、それぞれに人の対応力が求められる。廣瀬氏によると、こうした仕事の現場でビジネスチャットのツールを活用し、対応力を上げようとする取り組みが増えてきた。1つの企業や組織内にとどまらず、観光地の各事業者間で地域の魅力向上を目的に、共同で取り組む例があるという。

その1つとして例にあげたのが、景観と歴史ある寺社仏閣が人気の観光地「A」。飲食店や土産物店などを含めると地域全体を回遊できる観光地だが、その魅力が知られておらず、代表的なスポットだけで観光が終了し、再訪が少なかった。観光客に「もっと観光をしたい」「また来たい」と思われるような情報提供をするにはどうすればよいか。この課題解決のために、地域の事業者がビジネスチャットでの常時情報共有を始めた。

具体的には、神社のお神楽や縁日で出すメニューなど地域のイベント情報から、各店舗での観光客の問い合わせや要望などを共有し、それに対応するための相談や提案などをビジネスチャットで行う。今まで、電話やメールで行っていたことをビジネスチャットに変えることで、全員が同じ情報を同時に受発信できる。「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」の時間を圧縮して情報量を増やし、観光客の満足度向上と地域や自店舗への親近感を醸成して、再訪に繋げる取り組みをしているという。

乗り合いタクシーや送迎車も地域で運行

また、廣瀬氏は事業者がビジネスチャットで、消費者がプライベートで利用するコミュニケーションツールを連携することで、消費者のリアルタイムのニーズを把握し、必要なサービスを提供する方法も紹介。観光では、空港の乗り合いタクシーなど、地域の足回りの利便性向上に繋げる取り組みへの問い合わせが増えているという。

乗り合いタクシーを効率的に運行する場合、数日前の事前予約が必須だ。そのため、時間の読めない人などは予約が間に合わず、その結果、活用度が上がらない課題がある。しかし、リアルタイムに需要を把握し、必要な運行台数を管理運用できれば、出発時刻に近い時間まで予約を受けることも可能になる。廣瀬氏によると、この事例は空港の乗り合いタクシーだけではなく、温泉地で各旅館が行っていた送迎サービスを巡回的に共同運行する取り組みでも利用が進んでいるという。

(右)ワークスモバイルジャパンの地方創生担当アーキテクトマネージャー廣瀬氏、(左)トラベルボイス鶴本CEO

ヒヤリハット予告・事故防止の可能性も

さらに廣瀬氏は、IoTセンサーを活用した店舗運営の効率化の事例を紹介。例えば、トイレ清掃は定時に実施する事業者が多いが、清潔を保つことが目的であれば時間に関係なく、汚れたら清掃するのがベストだ。そこで汚れ度合を使用回数で閾値化し、その回数をIoTセンサーで数えて、設定数に達したら清掃のタイミングとして自動通知する。これにより、効率的かつ効果的にトイレの清潔感を保つことができるようになる。

セミナーの最後のQ&Aでは、参加者からIoTセンサーを活用したヒヤリハット対策の可能性を問う質問があった。これに対して廣瀬氏は、ビジネスチャットでヒヤリハットに関する簡単なデータベースを作成したことがあるほか、ヒヤリハットになりそうな状況を数値化することで、IoTセンサーを活用した自動通知で警告を出せることも説明した。

これに対してトラベルボイス鶴本CEOは、「ヒヤリハットの見える化ができることになる」と述べ、デジタル活用の新たな可能性を示唆した。

デジタル活用の方向性と目的

廣瀬氏はセミナーのなかで、労働集約型産業のデジタル化の方向性と目的について、「誰が担当しても結果が同じになるような仕事は、デジタルに移行する。人でなければできない業務に、人のパワーや英知を使う。それがDXの基本的な考え方」と説明。単なる効率化ではなく、効率化した時間で人が生み出すものに集中させ、業務の質や価値を上げることを目指すと話した。

さらに、DXで業務が変わったとしても、「投資対効果で財務にプラスにならなければ意味がない」と強調。デジタル活用で商品やサービスの質の向上で消費者に良いサービスを提供する。それによって「企業の業績が上がり、就労者の収入増に繋がることが、デジタル化・DXの最終的な目的」と述べた。

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