業務渡航の世界大手「FCMトラベル」が日本に本格進出、急回復する需要で「次は日本」、責任者に取り組みを聞いてきた

業務渡航の世界大手、FCMトラベル(フライトセンター・トラベル・グループの業務渡航部門)は2022年6月1日付けで東京オフィスを開設した。

同社アジア担当マネジングディレクター、バートラン・サイエ氏(写真左)は、「シンガポールやオーストラリア、米国では、業務渡航需要はすでにコロナ以前のレベルに急回復しており、今はむしろ航空座席などの供給不足が問題となっている。次は日本だ」と日本市場の今後に期待を示す。サイエ氏とFCMトラベルジャパンのゼネラルマネジャーの白石憲一氏に、業務渡航の市場展望と日本市場での取り組みを聞いてきた。

フライトセンター・トラベル・グループの世界全体での取扱い規模は、コロナ以前は年間売上2兆円、従業員2万人。本社は豪州ブリスベン。同社の業務渡航部門であるFCMトラベルは、フォーチュン100企業やFTSE100企業など、数千社のクライアント企業を持つ。

日本市場への期待と、需要が戻らない3つの共通点

サイエ氏によると、出張需要が戻っていないマーケットに共通している3つの問題は、「(出入国の)規制、複雑で分かりにくい状況、そしてコロナ検査」。その一例として、シンガポールが辿った経過について話し、「2021年秋、訪問客受け入れ再開へと方針転換した際、まずはVTL(ワクチン接種済み旅行者専用レーン)を開設したものの、利用状況は芳しくなかった。そこで入国時の検査はやめて、出国時のみの実施としたが、それでも反応は鈍い。出国時に検査で陽性になると、帰国延期などのリスクがあるからだ」。その後、出国時の検査も廃止すると、一気に旅行者数が戻ってきたという。

FCMトラベルの取扱い規模は、シンガポール、米国、オーストラリア市場については、「今年4月時点でコロナ以前と比べて90%、5月には100%に届いた」(サイエ氏)。同社の場合、欧州の多くの地域でも同様の回復状況となっている。ただし、パンデミック期間中に、大規模な従業員削減を余儀なくされた航空各社が、従業員数や使用機材のキャパシティを元に戻すのに時間がかかっていることが、今後の懸念材料と話す。

「アムステルダムやダブリンなど、世界の主要空港では、旅行者があまりに急激に戻ってきたため、セキュリティ検査などのスタッフ数が追い付かず、利用者が長蛇の列を作っていた。チャンギ空港でも数千人の募集をかけている。ところが今回、東京の空港に到着したら閑散としていて、むしろ驚いたぐらいだ。業務渡航マーケットは回復基調にあり、次は日本の番だと我々は考えている」とサイエ氏は話し、日本での事業拡大の好機到来との見方を示した。

危機管理と最新モバイルアプリが強み

FCMトラベルでは2012年以降、業務渡航を扱う日系大手旅行会社とパートナーシップを通じて、日本市場での事業展開を進めていた。2021年秋には、ソニーグループの業務渡航などを扱うNSFエンゲージメント社との間で、合弁事業を設立することで合意。ソニーに30年以上勤務し、ソニーエレクトロニクス・アジアパシフィックの役員兼最高財務責任者(CFO)などを務めた白石氏が、新組織「FCMトラベルジャパン」のゼネラルマネジャーに就任した。

現時点でのクライアント企業は、ソニーグループ約80社に加え、FCMトラベルの既存顧客である日本国内の外資系企業など計160社。今後5~7年以内に、コロナ以前の2~3倍となる300億円の取扱規模を目指す。

白石氏は「インハウス系旅行会社の悩みは、おそらくどこも同じ。トラベルマネジメントには、より進化したツールが欠かせないものの、その開発に必須となるIT投資をする余力がないこと」。すでに秀逸なツールを持っているグローバルTMC(トラベル・マネジメント企業)と組むことが、クライアント企業にとってコスト的にもメリットが高いと判断。また、より充実したサポート体制を提供することは、コロナ禍で冷え切った業務渡航マーケットが再び動き出すきっかけにもなるとの考えだ。

グローバルTMCと日系大手旅行会社がタッグを組んで、業務渡航マーケットを攻略する動きはこれまでにも多い。インハウス旅行会社では、2019年に日立トラベルビューローが世界大手のBCDトラベルと提携した。こうしたライバル各社と比較して、FCMトラベルが特に強い領域として、白石氏が挙げたのは、世界116カ国を網羅する危機管理と最先端のビジネストラベル・テックだ。

「例えば、ジャカルタに出張中、現地で爆発事件が発生すると、出張者のスマホに、プッシュ通知でアラートが入る仕組み。事件発生から、連絡が入るまでにかかる時間は、平均40分ほど」(白石氏)。同じことを企業の総務部などが社内ネットワークでやるより、ずっと正確で早く、企業側の負担も少なくなる。

また、移動が多い出張者にとって、使い勝手がよいツールの一つが、スマートフォンですべての情報を管理できるモバイルアプリ「FCMモバイル」だ。予約や旅程の変更・キャンセル、各種アラートなどリアルタイムのコミュニケーション、経費管理まで、出張の前から帰国後までに対応している。出張者からの質問には、AIのチャットボットが回答。ボットが対応できない内容については、オペレーターがリアル応対する。競合他社でも、自社システムと連携したアプリは提供しているが、これだけ充実した内容は、現時点でFCMのみとしている。

日本の業務渡航の実情として、白石氏は「スマホで完結するサービスを利用している出張者は、ほとんどいないのではないか。弊社のサービスで最も優れているところは、PCでもスマホでもタブレットでも、シームレスに同じサービスが利用できるところだ」と話した。

一方、課題の一つは言語の壁。現在、電話での問い合わせには、日本語で1日24時間、年中無休で対応しているが、日系クライアント企業向けに、きちんとした日本語でオペレーターがチャットに回答するサービスも、今後、整えていく方針だ。

日本に商機、出張管理「利用している」が12%

FCMトラベルジャパンが昨年12月、日本企業の経理・総務部門などの出張管理者800人以上を対象に実施した調査では、全体の88%が出張手配のデジタル化を進めることが急務であると回答、また81%に人がリスク管理を重視していることが明らかになった。ビジネストラベルマネジメント(BTM)を「すでに利用している」のは約12%、「利用していないが検討している」は約32%。こうした数字から、日本マーケットにおける商機はまだ充分にあると同社では見ている。

「BTMを利用している、または検討している理由」で最も多かった回答は、「出張者各自がバラバラにチケットを手配しても、手配内容を把握できるから」、「出張者が対応する仮払い・立替清算処理、経理担当者が対応する出張者への振込処理の負担が減らせるから」でいずれも5割以上だった。

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