カナダ南ケベックの知られざる魅力とは? 地元で愛される食、土地に根ざした文化を体験取材した

カナダ・モントリオールの北部、モントランブランをはじめとするローレンシャン高原は、紅葉シーズンには「メープル街道」として日本人にも人気のデスティネーションだ。一方、南から東にかけては、秋になると同じく色鮮やかな紅葉が広がるが、あまり知られていないのが現状だ。観光地モントランブランと比較すると、ローカル色が強いが、それだけに新たなケベックの発見もある。地域の土地に根ざした文化と風景。その魅力を体験してみた。

南ケベックの食の恵み、メープルシロップ、チーズ、ビール

ケベックを象徴する土地の恵といえばメープルシロップ。ケベック州で産出される量は世界の80%を占めると言われている。毎年3月~4月にかけてカエデから一滴一滴大切に収穫される。その土地の文化を体験できるのがシュガーシャック(砂糖小屋)。州内には数々点在するが、今回訪れたのはモントリオールから車で1時間ほどの距離にある「シュクルリ・デ・ラ・モンターニュ(Sucrerie de la Montagne)」。山の製糖工場という意味のシュガーシャックだ。

広い敷地内には、メープルシロップの精製工場のほか、ダイニング施設、宿泊コテージ、ウェディング施設まである。文化体験施設として四季を通じて内外から観光客が訪れ、ケベックの恵みを楽しむ。オーナーの息子ステファン・ファウチャーさんに施設を案内してもらい、ケベックにとってメープルシロップがいかに大切かを教えてもらった。ファウチャーさんは言う。「メープルシロップはケベックそのものだ」と。

メイプルシロップについて熱く語るファウチャーさん。

ダイニングでは、ケベックでの伝統料理を味わった。えんどう豆のスープ、サラダ、オムレツ、ソーセージ、ミートパイなど。いずれもメープルシロップが使われた素朴な味だ。その素朴さに飽き足らない地元の人たちは”追いメープルシロップ”をかけるという。テーブルにはゴールデン、アンバー、ダークなど違う種類のボトル。ファウチャーさんは「ケベックの人はカロリーは気にしない」と笑う。

シュガーシャックでは食体験も醍醐味のひとつ。南ケベックは、そのテロワールから良質なワインの産地でもある。イースタンタウンシップスのマゴグ湖に辺りにある「ビグノーブル・ル・セップ・ダルジャン(Vignoble Le Cep d’Argent)」は、スパークリングワインが有名なワイナリー。グループ向けに、製造過程の見学を含めたテイスティングツアーも提供している。サーベルでスパークリングワインの封を切るアトラクションの後、5種類のワインを味わう。

ワインはケベック土産にも最適。ワインといえばチーズ。実は、ケベックは、カナダきっての酪農州で、チーズも特産品の一つとなっている。特にチェダーチーズが有名。ケベックのB級グルメ「プティーン」にも欠かせないものだ。イースタンタウンシップスの中心都市シャーブルックから北に車で1時間ほどヴァルヴィックという小さな町にある「プレスビテリー・チーズ工場(La fromagerie du Presbytere)」に立ち寄り、さまざまなチーズのテイスティングをワインとともに堪能した。同じ文化圏のフランスのチーズと比べると、どれもクセの強くない味わいが広がる。口にふくむと、ケベックの人たちの人柄が表れているような気がした。

チーズ好きにはたまらないテイスティグ体験。ここは、使われなくなった教会をチーズの熟成庫として使用している変わったところだ。教会の前の広場では、地元の人たちやバイカー、サイクリストなどがピクニックを楽しむ。通りを挟んだ教会の向かい側には、各種チーズや地元食材を扱うストアがある。ケベックらしいお土産を探すには最適な場所だ。

旧教会内部は熟成環境に優れているという。ヴァルヴィックの町の近郊、ハム・ノールという長閑な村の外れにはブリュワリー「ラ・グランジュ・パルデュー(La grange pardue)」がある。ラガー、IPA、スタウトなど数種類のビールを醸造しているが、責任者のフィリップ・ラングロワさんは「フレーバーはつけず、ビール本来の味を追求しています」と自信を示す。

このブリュワリーの最大の特徴は、フォーム・トゥ・グラス。ホップなどの原材料は全て自家栽培。

建物も地元から直接調達した木材を活用して地元の人たちの協力で建てられた。また、ビールの製造過程で出る残り滓は農場の肥料に循環させるなどサーキュラーエコノミーにも気を配っているという。ラングロワさんは「地域コミュニティとともにあるブリュワリー」と胸を張る。

緑の森の先にハム・ノール村。屋外のベンチでビールを楽しんでいると、その村から教会の鐘が聞こえてきた。このベンチも週末には地元の人たちで賑わうという。

土地の恵みで作り上げるビールに誇りを持つラングロワさん。

南ケベックの豊かな文化、修道院から先住民施設まで

南ケベックのイースタンタウンシップスは、米国バーモンド州との国境に近い。この地域は、フレンチ・カナディアンが開拓したが、アメリカ独立戦争当時、英国王室に忠誠を誓った王党派(ロイヤリスト)が逃れ、この地域には多様な文化が融合した。それでも、やはりフランスの影響は色濃く残る。

それを感じさせてくるのが、メンフレマゴク湖のほとりに立つベネディクト派の「サンブノワデュラック修道院(Saint-Benoit-du-Lac’s Abbey)」。1912年にフランスから来た修道士が小さな農家を買い取って開いた。1935年に現在の姿に改修。20人ほどの修道士が敬虔な日々を過ごしている。修道院は一般開放されており、誰でも見学が可能。中に入ると、モザイク模様の回廊がひときわ目を引く。ミサも毎日おこなわれており、修道士たちの荘厳な讃美歌を聴くことができる。

修道院の周辺にはリンゴ畑が広がり、そのリンゴを使ったシードルもこの地域の名産。また、修道士たちが作るチーズも評判で、売店では各種チーズやシードル、アップルサイダーなどをお土産として購入する人も多い。

美しい自然の中に溶け込む修道院。モザイク回廊は修道院の象徴的な存在。

モントリオールからセントローレンス川を渡ったモン・サン・ティレールには、先住民の家と呼ばれる博物館「Maison des peuples autochtones」がある。この博物館が珍しいのは、ケベックらしく、ファーストネーションのメープルシロップの歴史を展示しているところだ。欧州人が入植するずっと前から、彼らはカエデの樹液をエネルギー源とし、メープルシュガーをお祝いの儀式や食事に使用していたという。

この施設では、当時の遺物が常設展示されているほか、先住民アートの特別展示も定期的におこなっている。また、周辺の森ではメイプルシロップの起源がわかるガイドツアーも提供。このほか、美食体験としてシュガーパイやハーブティー、秋には名物のカスレ(煮込み料理)を楽しむことができる。

先住民とメープルシロップの関係性を展示。旅の最後に宿泊したのは、モントリオールとケベックシティーとの中間、アパラチア山脈の麓のウィリアム湖に面した「マノワール・ドゥ・ラック・ウィリアム(Manoir du Lac William)」。邸宅スタイルのブティックホテルで全56室。湖でのアクティビティのほか、スパも充実しており、リトリートという言葉が相応しい宿泊施設だ。

湖畔のベンチに座り、湖を眺めているだけで時間を忘れる。対岸には緑の森。秋になると一面が紅葉するという。次は、観光ルートのメープル街道を離れて、暮らすように南ケベックの紅葉を楽しむ旅もいいかもしれない。

リトリートという言葉がピッタリのホテル。トラベルジャーナリスト 山田友樹

みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…