世界で使われている観光地域診断ツール「D-NEXT」とは? 地域診断ツール開発会社トップに聞いてみた

DMO (観光地域づくり法人)の課題は世界共通だ。その課題を客観的評価で洗い出し、自らの立ち位置を把握することは、将来の施策策定向けた重要なステップとなる。パンデミックを経て、世界のDMOが、新たな観光マネジメントのあり方を模索している。

観光地域診断ツール「DestinationNEXT(D-NEXT)」を開発したカナダの観光地域コンサルティング会社「MMGY Next Factor」社長のポール・ウイメット氏に、DMOに今必要な取り組みを聞いてみた。

最新の診断方法に見る、観光地域の評価軸

同社が提供するD-NEXTとは、行政、事業者、住民など地域関係者に対してオンラインアンケート調査を行うことで、観光地としての今後の方向性や観光地や観光推進組織を評価するもの。「観光地域としての強み(Destination Strength)」を表す項目と「観光への支援の強さと連携(Community Alignment)」を表す項目について、5段階評価を実施する。

ウイメット氏は、この評価によって「他のデスティネーションとの比較で相対的な立ち位置を把握することが可能になり、DMOの強さと弱さが一目瞭然となる」と説明する。

「観光地域としての強み」には12項目、合計約60問の質問を設定。コロナ禍の2021年には新たに公衆衛生や清潔さを評価する「健康と安全」の項目を加えた。一方、「観光への支援の強さと連携」も12項目、合計約60問。ここでも、社会情勢の変化を踏まえて、「観光地域の持続性と回復力」「公平性・多様性・インクルージョン」「緊急対応」が新たに加えられた。

ウイメット氏は、「観光地域としての強み」は、「商品の観点からDMOがどれほどの力を持っているのかを明らかにするもの」と説明。また、「観光への支援の強さと連携」からは、「地域の官民組織、コミュニティとどれほど連携が取れているかが分かる」と話し、「地域の競争力を向上させるうえで最も重要なこと」と位置付けた。

報道資料より

報道資料よりD-NEXTの診断結果では、「シナリオモデル」というフォーマットで地域の現在地の立ち位置が可視化される。このモデルに、世界の観光トレンドを把握するために2年に1度世界のDMOに対して行われる調査「Future Study」の結果を加味することで、地域の強みや弱みを炙り出し、改善点を見出す。それをもとに、地域の持続可能な戦略を策定してもらうという流れになる。

この「Future Study」は、世界の700のDMOが参加する国際組織「Destination International」との連携で実施される最大級のDMO調査。その結果は「今後DMOがすべきことについて、さまざまなインサイトが詰まっている」(ウイメット氏)。2021年に続き、今年は7月の年次総会で発表。日本のクライアントも多いことから、その結果は日本語にも翻訳されるという。

D-NEXTを説明するウイメット氏

日本のDMOの潜在力と課題とは

MMGY Next Factorは現在、米国、カナダ、日本など世界12カ国で事業を展開。日本では、日本観光振興協会との連携で11地域でD-NEXTを実施してきた。2022年度は、小樽、白神、郡山、山陰などの各DMOが参加。日本観光振興協会では、2023年度も調査DMOを広げていく計画だ。

ウイメット氏は、総論として、「世界のさまざまなデスティネーションを見ているが、その中でも日本は文化、芸術、歴史など多彩な観光コンテンツに溢れている。また、最も安全で、衛生水準の高い国の一つでもある。観光の潜在力は非常に高いと思う」と評価した。

一方で課題も指摘。その一つがブランディングだ。

ウイメット氏は「世界中で日本のことは知られているが、どのような特別なことが体験できるのかはまだ知られていない。特に地方においては」と話し、ブロモーション予算を拡大し、SNSも含めさまざまなメディアでストーリーテリングの機会を増やす必要性を主張した。

ただ、そこで課題となってくるのが資金調達だ。他国の地域DMOは、公的資金の導入、ホテル税の活用、企業スポンサーからの支援など多様な予算モデルを持っている。一方、「日本は地域DMOの数が多いため、資金調達で競合してしまう」と分析。そのため、日本で必要になるのは「広域でのコラボレーション」と強調した。また、旅行者の関心を惹くために、「共同でイベントを仕掛けていくことも必要ではないか」との考えも示した。

世界のDMOトレンドは「地域マネジメントの重視」

このほか、ウイメット氏は世界のDMOのトレンドについても言及。「多くのDMOが、セールスやマーケティングよりも地域のマネジメントに重視するようになっている」と話した。

例えば、ニュージーランドでは、地域の団体とのパートナーシップで環境問題に対する新しい観光戦略を立てた。シドニーのMICE誘致団体「ビジネス・イベンツ・シドニー」は、地域コミュニティのリーダーを交えて、MICEや観光を超えた取り組みを進めている。ハワイ州観光局の「マラマ・ハワイ」プロモーションについて、「環境保全や地域コミュニティとの共存の面で参考になるケーススタディになる」との考えも示した。

観光が世界的に回復していくなか、多くのデスティネーションでは、オーバーツーリズムを繰り返さないために、ピークシーズンのプロモーションは控え、需要の季節分散化に力を入れている。求められているのは、旅行者の満足度と地域コミュニティの満足度とのバランスだ。

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