北海道で「アドベンチャートラベル」世界大会が開幕、64か国・地域から750人が参加、アイヌ文化にも高い関心

アドベンチャートラベル・ワールドサミット2023(ATWS2023)北海道が2023年9月11日に開幕した。ATWSは、「アドベンチャー・トラベル・トレード・アソシエーション(ATTA)」が主催するアドベンチャー・トラベル(AT)に特化したBtoB商談会。アジア初となる開催に向けて、ATWS北海道実行委員会会長を鈴木直道北海道知事がつとめ、道、北海道観光振興機構、運輸局、事業者などが「オール北海道」で準備を進めてきた。

アクティビティ、自然、文化体験のうち、2つ以上で構成される旅行形態であるATは、欧米豪の富裕層を中心に年々拡大している。アクティビティは目的ではなく手段であり、アクティビティを通じて自然や異文化体験するのが特徴だ。

開幕前には、北海道以外の地域を含む22コースのプレ・サミット・アドベンチャー(PSA)が行われ、11日には北海道内の視察ツアー「デイ・オブ・アドベンチャー(DOA)」を実施。12日から14日までは札幌コンベンションセンターで商談会などがおこなわれる。今回、初めて日本を訪れる参加者も多く、会場内では熱心に情報交換やネットワーキングをする参加者の様子が見られた。

今年のテーマは「調和」。コロナ禍を経て、人と人と、文化的なつながりに焦点を当てる。

ATは持続可能な地域づくりに貢献

ATWSがアジアで開催されるは初めてのこと。参加チケットは完売し、日本を含め64カ国・地域から約750人が参加している。このうち、ジャーナリスト及びインフルエンサーは17カ国・地域から約50人、バイヤーの旅行会社が21カ国・地域から約100人。

ATTAのシャノン・ストーウェルCEOは会見で、「北海道には、アドベンチャー・トラベル(AT)における3つの重要な要素である文化、自然、アクティビティがあり、いずれも質が高く、多様性に溢れている」と話し、北海道開催の意義を強調した。

また、コロナ後の旅行市場についても言及。「今後、スロートラベルがますます求められてくる。その意味で日本は最適な旅先」と話したうえで、「今後は旅の仕方が変わる。より時間をかけて、滞在も長くなり、その旅先の精神を学ぶような機会が求められるようになる」と見通した。また、ストーウェルCEOは、ATによる地元コミュニティへの経済貢献は旅行者の消費額の65~70%。マスツーリズムによる15~20%に比べるとかなり大きく、「持続可能な地域づくりにも貢献できる」と続けた。

会見には北海道観光振興機構会長でATWS北海道実行委員会で筆頭副会長を務める小金澤健司氏も登壇。「北海道には独自の文化、食の豊かさなど観光のポテンシャルは高いが、それをポテンシャルだけに終わらせるわけにはいかない。今後の北海道の観光産業の発展にとって、今回のATWSは大きな契機になる」と話し、サミット参加者とのネットワークを活かして、ATを浸透させていくことに意欲を示した。

(左から)ATWS北海道実行委員会幹事の水口猛氏、ATWS北海道実好委員会副筆頭副会長の小金澤氏、ATTAのストーウェルCEO、ATTAアジア太平洋リージョナル・ディレクターのハンナ・ピアソン氏オーバーツーリズムや気候変動に責任を

会見に先立って行われたウェルカムイベントでは、日本政府観光局(JNTO)の蒲生篤実理事長が挨拶に立ったほか、斉藤鉄夫国土交通大臣がビデオメッセージを寄せ、ATWS開催を歓迎した。また、リナ・アナブ駐日ヨルダン大使が登壇し、ストーウェルCEOとの対談で、「日本の多様性はすべてがアドベンチャー。すべてにユニークなストーリーがある」と強調。また、「東京は日本ではない。日本を体験するなら地方に足を伸ばしてみるべき」と話した。

リナ・アナブ駐日ヨルダン大使(左)がストーウェルCEOと日本の潜在性について対談

さらに、ストーウェルCEOは基調講演で、AT業界に求められるものとして、AI、オーバーツーリズム対策、気候変動対策の3つを挙げた。AIについては、「デジタル技術の進歩で旅行流通は大きく変化してきたが、AIはさらにその効率性を高めるもの」と位置づけ、今後の展開に期待感を示した。

また、パンデミック後、世界各所で問題が顕在化しているオーバーツーリズムについては、「懸念している」とし、地域の受け入れで持続可能性な取り組みの必要性を訴えた。そのうえで、「私たちにも責任がある。ATは地域コミュニティにとって健全な旅行になりうる」と付け加えた。

さらに、気候変動対策については、「ATTAのメンバーは100%サステナビリティへの取り組みを重視している」と強調。ATTAとしてもCO2削減に積極的に取り組んでいく姿勢を明確にした。

鈴木知事、「北海道の宝を探してほしい」

オープニングセレモニーは1972年の冬季オリンピック会場「大倉山ジャンプ競技場」で開催。ジャンプ台での選手の滑空からセレモニーがスタートした。アイヌの人々によるパフォーマンスなど北海道らしい演出で会場を盛り上げた。

セレモニーには、ATWS北海道実行委員会会長を務める鈴木直道北海道知事が登壇。「北海道は、雄大な自然、多様なアクティビティ、アイヌをはじめとする独自の文化、良質の食がある。ATWSを通じて北海道の宝を探してもらい、新しい旅先として、北海道、日本を選んでもらえるように、世界中の人たちに発信してほしい」と来場者に呼びかけた。

大倉山ジャンプ競技場で開催されたオープニングセレモニー。アイヌ文化に高い関心

11日実施されたDOAでは、トラベルボイスは旭川市にある「川村カ子トアイヌ記念館」へのツアーに同行した。このツアーに参加したのはATWS参加する14人。伝統家屋では、焚き火を囲み、ランチをとりながら、アイヌ文化についての話を聞き、館内では伝統楽器「ムックル」にも挑戦した。

参加者の一人、スウェーデンから参加したハーケン・ステンランドさんは初めての北海道。記念館の印象について、「スウェーデン北部にも先住民コミュニティがあるが、遠く離れた場所にもかかわらず、似たような風習があるのには驚いた」と話す。また、先住民観光が盛んなカナダから参加したデボラ・カンパニャーロさんは、「旅行者に対して先住民観光に関する教育を進めて、地域にお金が落ちるようにしていくべきでは」と提案した。

また、参加者からは、アイヌの人たちの死後の世界観、言語が失われていった経緯など深い質問も投げかけられ、アイヌ文化に対する関心の高さを垣間見ることができた。

食事の前に火の神に祈りを捧げる

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