UNツーリズム、「女性起業家らが観光産業の変革を担っている」、国連フォーラムを取材した

国連世界観光機関(UNツーリズム)は、2025年4月末に大阪・関西万博の会場内のカルティエ・ウィメンズ・パビリオンで「女性の起業家精神と観光イノベーション・フォーラム」を開催した。女性起業家を支援し、観光分野におけるイノベーションを促進するために開かれたもので、国内外の女性経営者らによるパネルディスカッションや、先進的な取り組みの発表などがおこなわれた。

「女性起業家が観光産業の変革を担っている」

フォーラムでは、UNツーリズムのイノベーション・教育・投資ディレクターのアントニオ・ロペス・デ・アビラ氏が「イノベーションに力を:観光の未来を切り開く」と題して講演。アビラ氏は「私たちは若い世代が既成概念にとらわれず、観光分野で新しい技術を開発、発展させるのを支援する必要がある」と話し、UNツーリズムが資金面や教育面で起業家やスタートアップを支援していることを説明した。

「女性起業家らが観光産業の変革を担っている」とアビラ氏。世界の技術系ワークスペースにおける女性の割合は28%で、人工知能(AI)分野では22%、技術部門でリーダー的役割を担っているのは15%から25%であることを示した。さらに、2022年、女性だけで設立された企業への投資は、世界のベンチャーキャピタル全体の投資額のわずか2%だが、女性主導の企業は男性主導の企業よりも35%高い投資収益率を生み出しているとし、「この(女性起業家を取り巻く)状況を変えなければならない」と強調した。

基調講演をおこなうUNツーリズムのアントニオ・ロペス・デ・アビラ氏

アンコンシャス・バイアスやロールモデルの少なさが課題

続いておこなわれたパネルディスカッション「女性イノベーター:テクノロジーと変革的インパクトの架け橋」には、JTB常務執行役員でDEIB・人財開発・働き方改革担当(CDEIBO)の髙﨑邦子氏、デジタル観光プラットフォームの運営などを手がけるWAmazing代表取締役社長の加藤史子氏、中国有数のホテルグループ、Dossen国際事業開発担当SVPのアンジェラ・チェン氏が登壇。女性が起業やキャリアアップする際の障壁や、官民連携の重要性、社会における観光産業の貢献などについて意見交換した。モデレーターは、日本経済新聞社シニアプロデューサーの高橋香織氏が務めた。

登壇者の自己紹介の後、最初に議題に上がったのは、女性が起業し、規模を拡大していく際の障壁だ。髙﨑氏は、JTBの社員の女性比率が62%であることを踏まえた上で、役職における女性比率は40%、役員は13%であることを指摘。「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)がどうしてもある。トップが(現状の打開に)コミットメントしていくことが重要」と話した。また、希望する部署にチャレンジできる同社の「人財交流共通制度」を活用して、女性9人がIT部門の社員に登用された事例を紹介した。

加藤氏は、リクルートで管理職を経験した後、2016年にWAmazingを設立。コロナ禍でコスト削減のためにオフィスをなくし、全社員がリモートワークに移行した。リクルート時代は出産や育児で働くことを諦めてしまう女性社員が多かったと振り返り、起業して良かったこととして「スタートアップの世界は実力社会。性別はあまり問われず、事業が伸びているなどアウトプットが物を言う」ことを挙げた。「原則フルリモートワークのため、女性社員らもフレキシブルに時間と場所をコントロールして成果を出している」と強調した。

Dossenのチェン氏は、女性起業家らが直面している課題として、ジェンダー・バイアスにより男性起業家と比べて資金調達が難しいことやワーク・ライフ・バランスへの要求度が高いことを挙げた。また、AIやブロックチェーン、データサイエンス分野への女性の参画が限定的であるとした上で、「テクノロジー業界における女性のロールモデルが少ないことも問題だが、成功する若い女性起業家が出てくるなど状況は変わってきている」と述べた。

パネルディスカッションの登壇者。左から、モデレーターの日本経済新聞社の高橋香織氏、JTBの髙﨑邦子氏、WAmazingの加藤史子氏、Dossenのアンジェラ・チェン氏

国内外の女性起業家5人が取り組みをアピール

続いて、UNツーリズムなどに求めることとして、Dossenのチェン氏は「女性起業家への支援だけでなく、指標を作ってプログラムを評価する仕組みを立ち上げること」、WAmazingの加藤氏は女性起業家のネットワークや男女関係なく起業家が情報交換できる環境を増やしていくことを提言。JTBの髙﨑氏は、同社が日本で展開している、自分が支援したい自治体に寄付金という形で納税する「ふるさと納税」のシステムを例に挙げ、課題と解決策をマッチングするプラットフォームの重要性を訴えた。

また、3人とも官民連携の重要性を強調。チェン氏は中国や香港における官民連携の状況について、大学卒業後の15年前にスタートアップ企業を立ち上げた際は、政府などから十分な支援を受けられなかったことを振り返り、現在の中国では性別を問わず起業家を支援する環境が整ってきていることを説明。中国政府は多額の支援金を投入し、世界中の起業家が技術分野でのスタートアップ展開のために香港に集まっているとした。

観光産業の社会貢献についても意見を交わした。髙﨑氏は、JTBの社内スタートアップが開発したシステムが熊本県小国町の観光名所、鍋ヶ滝周辺の混雑解消に役立った事例を挙げ、「観光産業が地域課題の解決や定住の促進につながる非常に大事な産業であり、平和をつくる産業であるということをもっと伝えていきたい」と意気込んだ。加藤氏は「技術でリアル世界の交流を促進できるのが観光産業の魅力」と主張。デジタルの力でオーバーツーリズムを解消し、インバウンドで得た利益を地域に還元する仕組みづくりを提案した。チェン氏は、DossenのホテルでAIなどによる効率化が従業員の負担軽減につながっていることを紹介。「観光産業を効率的で便利にすることで、人間同士の交流を促進できる」と述べた。

フォーラムの最後には、インバウンド向けのグルメプラットフォーム「byFood.com」(日本)や女性の一人旅をサポートするアプリ「NomadHer」(韓国)、ホスピタリティ産業向けに学習管理システムを展開する「Xenios Academy」(アラブ首長国連邦)、中国人観光客向けに世界の観光情報を発信する「Shake to Win」(中国・香港)、女性旅行者と観光地(目的地)にいる女性とをつなぐアプリ「Greether」(アメリカ)を運営する女性起業家らが、自社の取り組みについて発表。IT技術やAIなどを活用して先進的なビジネスモデルを展開していることや、女性が安心して旅行できる世界を目指していることなどをアピールした。

UNツーリズムから表彰を受けた女性起業家ら

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