タイ政府が推進する「ウェルネスツーリズム」、世界2位の成長率、その戦略と現地の体験を取材した

タイ国政府観光庁(TAT)は、ヘルス&ウェルネス・ツーリズムを観光戦略の重要な柱のひとつに位置付け、その魅力を発信している。2025年4月下旬にはバンコクで世界の旅行業界向けに「ヘルス&ウェルネス・トレードミート2025」を開催。さらに、各地域のウェルネス商材を案内する視察ツアーも実施した。世界有数の成長率を誇るタイのウェルネス市場の潜在力を現地取材を通して探ってみた。

タイのウェルネスツーリズム成長率は世界2位

ヘルス&ウェルネス・トレードミート2025で、TAT国際マーケティング担当副総裁(欧州、アメリカ、中東、アフリカ地域)のチラヴァディー・クンスブ氏は、世界のウェルネスツーリズムの成長に触れたうえで、「タイには質の高い多様なウェルネス体験がある。事業者とともに、旅行者の生活を改善する体験を旅行者に提供していく」と力を込めた。

また、ウェルネス体験を求める旅行者は、通常の旅行者よりも現地消費額が高いという調査結果があることから、「タイ政府としても国の政策としてヘルス&ウェルネスツーリズムを積極的に支援していく方針」と付け加えた。

商談会では、バンコク・デュシット・メディカル・サービス社BDMSウェルネス・クリニック/BDMSウェルネス・リゾートCEOのタヌポン・ヴィルンハガルン氏が、世界のウェルネス市場について説明した。

世界のヘルス&ウェルネス市場は拡大を続けており、その市場規模は2023年の6.3兆ドル(約926兆円)から2028年には8.9兆ドル(約1308兆円)に成長する予測。そのなかで、ウェルネスツーリズム分野は、年約10%の成長率で2023年の8300億ドル(約122兆円)から2028年には1.35兆ドル(約198兆円)に拡大すると見込まれているという。

ウェルネスを目的とした旅行者は、体験や食を重視することから、現地消費額も大きい。2022年の調査では、海外ウェルネス旅行者の1回の旅行あたりの消費額は1764ドル(約26万円)で、通常の旅行者よりも41%多い結果が出ている。そのなかでも、ヴィルンハガルン氏は、通常の旅行とウェルネスを組み合わせた旅行者層(Secondary Wellness Traveler)に注目。更なる消費額の拡大が期待できるとした。

(左から3人目)BDMSウェルネス・リゾートCEOのヴィルンハガルン氏、(左から4人目)TATクンスブ氏

そのうえで、タイのウェルネス経済について言及。2023年の市場規模は405億ドル(約6兆円)となり、2022年から2023年にかけての市場成長率は28.4%で世界トップと説明した。そのなかで、最も市場規模が大きいのがスパや温泉施設なども含めたウェルネスツーリズムで約123億ドル(約1.8兆円)。その割合は、世界やアジア太平洋の国々と比べても大きな割合を占めているという。

タイのウェルネスツーリズム市場は世界15位にとどまっているものの、2022年から2023年にかけての市場成長率は、119.5%で中国(477.5%)に次いで2位となっていることから、今後の成長にも期待は大きいとした。

ヴィルンハガルン氏は、タイのウェルネスツーリズムの強みとして、自然、食、ホスピタリティ/サービス、伝統的医薬、最新の医療施設を挙げたうえで、予防的ケアの必要性を強調。「平均寿命ではなく、豊かに暮らせる『健康寿命』を伸ばすことが大切」と主張した。

トレードミート会場では、アロマ、お茶など様々なヒーリングアイテムのワークショップもTAT、全国5地域のウェルネスツーリズムを訴求

TATでは、タイのウェルネスツーリズムを、スパやヨガなどのアクティビティ、世界クラスの施設、自然環境、ホスピタリティ、手頃な価格、医師やセラピストなど質の高い専門家、健康な食、アクセスのしやすさで訴求していく。

地域では、チェンマイやチェンライなどの北部、バンコクを含めた中部、パタヤやトラートなどの東部、プーケットやクラビなどの南部、伝統文化と豊かな自然が広がる北東部に分けてアピールを強めていく考えだ。

そのうち、視察ツアーでは南部プーケットとクラビのウェルネスコンテンツを体験。両地域にはウェルネスを全面にアピールするリゾートホテルも多い。リゾートでスパやヨガなどホテルライフを楽しむアクティビティは以前からあるが、健康志向の旅行が求められているなか、改めてその価値も見直されている。

TATがウェルネスで重視する5地域プーケット、充実のリゾート・ウェルネス

プーケットの「グランドメリュクール・プーケット・パトン・リゾート&ヴィラ」では、館内のフィットネスセンターで提供しているヨガプログラムが人気だ。初心者から経験者まで、レベルに応じてインストラクターが指導してくれる。また、アウトドアプールも充実していることからリラックスしたリゾートライフを過ごせ、繁華街のバングラ通りにも近いことから、ナイトライフを加えたメリハリの効いたステイが楽しめるのが特徴だ。

モーニングヨガで1日のスタートプーケット国際空港から車で15分ほどのところに位置するラグジュアリーリゾート「トリサラ」は、広大な敷地にアンダマン海を望むプール付のヴィラと多彩なレジデンスヴィラが並び、非日常の滞在を楽しむことができる。プーケットで初めてミシュラン1つ星を獲得したファインダイニング「プル」は、自家菜園など地元食材を活用した地産地消の料理が特徴だ。

また、フランス料理「ラ・クリーク」は、地産地消でもシー・トゥーテーブルをコンセプトとする。世界各地で修行したノティ・オウィット氏がアンダマン海で獲れた新鮮な食材を生かしながら、健康的で味わい深いダイニング体験を提供してくれる。

「ラ・クリーク」の洗練された体にも優しいランチクラビで過ごす「ウェルケーション」

プーケットと並ぶ南部のリゾート地クラビでは、「ヴァラナ・クラビ」に宿泊した。ここは、ウェルネスとバケーションを組み合わせた「Wellcation(ウェルケーション)」をうたうリゾート。スパやタイならではのムエタイを活用したボクササイズなど様々なウェルネスアクティビティが用意されている。

そのうちの一つ「NAAM」は新たにオープンした温浴ウェルネス施設。約1時間をかけて、スティームサウナ、水圧マッサージ、水泳、温浴、岩盤浴など10項目のウェルネスを体験する。最後は、塩分多めの温浴に浮かぶフローティング。力を抜くと死海のように浮かぶ。それぞれに血流促進、筋肉のほぐし、ストレス解放、免疫力向上、リラクゼーションなどの効果が期待でき、決められた時間で順番に行うことで体を整える。インストラクターのナタチャさんは、「すべて体験すると、体とともに心も落ち着くはずです」と、NAAMの効用を説明してくれた。

インストラクターが体験前にそれぞれの効用を説明クラビの特徴的な景観といえば、海岸線に並ぶ奇岩群。その海の渓谷を進むカヤックは、クラビの自然を体感できるアクティビティとして観光客から人気を集めている。最初は、奇岩の圧倒的な存在感に息を呑むが、その静かな自然の中にしばらく包まれていると、禅のようなマインドフルネスを感じ、カヤックの緩やかなスピード感と視野の広さが、その精神状態を安定させる。

カヤックで自然の中のウェルネスTATのクンスブ氏は、「タイは、質の高い本物のウェルネス体験をタイ・ホスピタリティとともにお届けする」とアピールする。世界の旅行市場でウェルネスツーリズムがトレンドのひとつとなるなか、タイの存在感はさらに高まりそうだ。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

※ドル円換算は1ドル147円でトラベルボイス編集部が算出

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