2026年1月、スペイン・マドリードで開催された、スペイン語圏最大級の国際観光見本市「FITUR(フィトゥール)」。46回目を迎える同イベントには、世界161カ国・地域から1万社超が出展し、業界関係者と一般旅行者をあわせた来場者約25万人が集まった。その会場で、注目を集めていたのが日本ブースだ。改めて、日本への関心の高さが浮き彫りになった。
現地会場で、日本政府観光局(JNTO)マドリード事務所所長の原田靖之氏に、スペイン市場における訪日需要の拡大と旅行者層の変化、さらには地方分散に向けた戦略を聞いた。
「スペイン語圏では、間違いなくダントツで1位の規模の旅行博」と原田氏が説明するFITURは、来場者数約25万人を誇る大規模イベントだ。スペイン国内市場に加え、メキシコをはじめとする中南米バイヤーが集まる点が特徴で、日本にとってはスペイン語圏全体へのプロモーション拠点としての意味合いも大きい。原田氏は「日本ブースへの出展申し込みは非常に激戦。募集開始当日の早い段階で枠が埋まってしまう」と語る。
JNTOマドリード事務所は2017年の設立以降、継続して出展し、現在約25団体が共同出展する体制を維持している。スペイン語圏で最も重要な商談会との位置づけのため、今後もこの規模を維持していく方針だ。
スペイン市場で加速する訪日需要
コロナ禍以降、スペインからの訪日旅行は急速に回復している。原田氏は「グラフで言うと、コロナ前は緩やかだったものが、今は垂直に近い伸び方」と表現し、ここ1〜2年で訪日旅行の裾野が大きく広がったと分析する。
かつて日本は「一生に一度の憧れのデスティネーション」として、主にハネムーン層が訪れる長距離目的地だった。しかし、現在はSNSの普及や情報量の増加により心理的ハードルが下がり、シニア層や友人グループ、子連れファミリーなど多様な層へと拡大しているという。
「シニアの友人3人でマドリード事務所に来て、今度日本に行くので教えてほしいと言われることも増えた」と原田氏は話す。また、世界情勢の不安定さを背景に、日本の安全性が再評価されていることも家族旅行増加の要因の一つだという。
円安も追い風となっている。FITURで実施したアンケートでは、約半数が「日本は以前より割安になったと感じる」と回答しており、「日本は高いというイメージの障壁が取っ払われつつある」と原田氏は指摘する。
日本政府観光局・マドリード事務所所長 原田靖之氏
個人旅行主体の旅行スタイルと情報収集の変化
スペイン市場の訪日は個人旅行が主流だ。原田氏によると「訪日客の約8割が個人旅行(FIT)、2割が旅行会社を利用」という構成で、特にゴールデンルートに関してはSNSやインフルエンサーを通じて情報が共有されている。
FITURの一般公開日には、「なんとなく日本の情報を聞きに来るのではなく、今年行きたい、来年行く予定だという具体的な目的を持ってブースに来る方が多い」(原田氏)。日本ブースを取り囲む長蛇の列ができ、来場者の多くはすでに訪日を前提とした情報収集段階に入っているのが特徴だ。
北海道と瀬戸内を軸にした地方分散戦略
JNTOがスペイン市場でも強化しているのが地方誘客である。現在の訪日旅行は東京〜大阪間を中心としたゴールデンルートが主流だが、「いかにその外側へ足を運んでもらうかが課題」と原田氏は話す。
重点エリアとして打ち出しているのが北海道と瀬戸内。FITURで実施したB2B・B2Cアンケートでは、ゴールデンルート以外で関心が高い地域として北海道が上位に挙がった。自然景観と食の豊かさがスペイン人旅行者の嗜好と合致する点が評価されている。スペイン人旅行者の訪日リピーター比率は約2割で、今後も増加が見込まれていることから、JNTOとしては、北海道を訪日リピーター向けに提案していく方針だ。
一方、瀬戸内では「地方の宿泊率向上」を目指している。特に、広島県は訪問率が高いものの、日帰り観光が多く宿泊につながっていないという課題がある。「しまなみ海道や広島東部をPRすることで、宿泊の増加につなげたい」と原田氏は語った。
スペイン語圏への展開拠点としてのFITUR
FITURの特徴としては、スペイン国内市場向けだけでなく中南米市場へのゲートウェイである点もあげられる。「日本のサプライヤーには、この機会にスペイン語圏を知ってもらう場として活用してほしい」と原田氏は強調。スペインとメキシコを合わせた市場規模は約45万人に達し、英国やフランスに匹敵するポテンシャルを持つ。
日本ブースでは着物体験、書道、折り紙、空手、食文化紹介など多彩な文化プログラムを実施し、日本の魅力を体験型で発信している。多くの来場者が集まり、原田氏は「日本人気がはっきりと見える」と手応えを示す。
スペイン市場は、成熟した長距離旅行市場として新たな成長局面に入った。訪日需要の拡大と旅行者層の多様化を背景に、日本側の受け皿づくりと地方分散戦略が今後のカギとなる。FITURは、その戦略を具体化する重要な舞台となっている。
取材・文: 鶴本浩司



