世界旅行観光協議会(WTTC)のプレジデント兼CEOに、再びグロリア・ゲバラ氏が復帰した。ゲバラ氏の後任、ジュリア・シンプソン氏が2025年後半から病気療養に入ったためだ。
ゲバラ氏はすでにWTTCでの任務を再開しており、2026年および今後の数年間で予想される多くの課題に対し、世界の旅行・観光産業を支援するべく動き出している。同氏はこのほど米旅行メディア「トラベルパルス(TravelPulse)」のインタビューに応じ、直面している様々な問題について話した。
※編集部注:このインタビューは、米国・イスラエルによるイラン攻撃の発生前に実施したものです。
最大の課題は「労働力不足」
TravelPulse(TP):WTTCのプレジデント兼CEOに復帰して、今、どんな気持ちか? 以前と比べての変化は?
グロリア・ゲバラ氏(GG):世界の企業・団体にとって過去最高の年となった後に、WTTCに戻ってくることになり、大変光栄だ。WTTCの最も価値ある資産は会員各社であり、存在理由でもある。我々の役割は、会員をサポートし、伴走することで、その潜在的な力を解き放ち、投資を促進し、雇用を創り出し、旅行・観光が生み出す繁栄を世界中のより多くのデスティネーションへと広げることだ。
私の任務は、もう一度、WTTC会員が最も必要としているテーマに集中すること。会員の優先事項にWTTCの活動も照準を合わせ、成長、耐久力、長期的な価値を最大化する。具体的には、官民の協働を強化すること、グローバルな旅行・観光産業の代弁者であり続けること、影響力があり、必要とされる活動に取り組むことになる。
我々は今、旅行・観光産業の行く先を決める時代にある。再び成長に転じているが、どう成長を管理していくかが問題で、今後の耐久力、包摂性、そして長期的な発展を左右する。
TP:これからの数年間、産業界が直面する新たな課題は何か?
GG:2025年発表した報告書「Future of Travel & Tourism Workforce(旅行・観光労働力の未来)」にある通り、最大の課題の一つは世界的な「労働力不足」。2035年までに新たに9100万人の新規雇用が必要になるが、これに対し、4300万人足りないとの予測だ。
中国、インド、EU(欧州連合)では特に深刻で、それぞれ1690万人、1100万人、640万人の労働者不足となる。日本の旅行・観光産業では、スキルを持つ人々への需要が供給を29%上回る見込みだ。ギリシャとドイツも、それぞれ27%と26%の不足だ。
ホスピタリティ業界だけでも860万人の人手不足が予想されており、必要な人員規模を約18%下回る。さらに、この産業では特別なスキル不問の労働力も不可欠で、こうした需要も高く、2000万人以上が必要となる。人と人のやり取りやサービスが必須となる職務は、今後も不可欠で、自動化することは難しい。
会員を取り巻く事業環境が、ますます複雑化していることも周知の通りだ。旅行者のカスタマージャーニーは相変わらずバラバラで一貫性がなく、非効率的だ。ビザや出入国手続き、身分証明システム、相互の接続性など、あらゆる局面で問題になっている。
加えて、デジタル改革やAI導入の格差、気候変動や環境問題の深刻化、地政学的要因による混乱、パンデミック、極端な気象現象にも直面している。ヨーロッパの一部地域などは、訪問客増に対処しなかったことで過密状態に陥り、インフラが圧迫されて、旅行者と地域社会の関係に緊張が生じている。
米国の入国時SNS開示義務に懸念
GG:WTTC会員および業界全体にとって、もう一つの大きな懸念は、米国のESTA(電子渡航認証システム)プログラムの変更案、ソーシャルメディアの開示義務の余波だ。
我々の調査では、海外旅行に直接影響して需要を減らし、米国の旅行・観光経済は大きく弱体化、最大で15万7000人の雇用喪失につながる可能性もある。これは1四半期に創出される雇用数に匹敵する。訪問者の支出額ベースでは157億ドル(約2兆4335億円)の減少もあり得る。
摩擦の増加は、旅行者の行動のわずかな変化が、競争の激しいグローバル市場において重大な経済的影響を及ぼす可能性がある。
より広い観点では、ビザ、出入国手続き、渡航要件などに伴う煩雑な手間が増えることは、需要、デスティネーション間の競争力、そして成長に直接、影響する。
TP:WTTCおよび産業界のパートナーは、こうした課題をどう解決するべきか?
GG:我々は、会員やパートナーと緊密に連携しながら、こうした問題を克服する実践的な解決策を探りだす必要がある。WTTCの役割は、皆を集め、エビデンスを提供し、共通の課題解決に向けて、お互いに協力しながら行動へと発展させるサポートだ。
具体的には、以下の取り組みに注力している。
- スマートな国境管理、デジタル・ビザ、生体認証対応などの活用。シームレスで安全な移動を発展させて、旅行に伴う摩擦を減らし、旅行者体験を向上する。
- 空港、道路、デジタル接続と同様に、労働力の確保についても、成長に不可欠な経済インフラの一つであると認識し、その耐久力を強化する。
- デジタルおよびAI導入の加速。特に小規模事業者や新興デスティネーションの支援。
- 特にヨーロッパにおける過剰な混雑とオーバーツーリズムへの対処。より良いデスティネーション経営、訪問者の分散戦略、通年型の観光モデルを促進する。
- 危機管理体制の強化。地政学、健康、気候関連の混乱に、迅速かつ効果的に対応できるようにする。
労働力不足の解消については、我々の調査から対応策が明らかになっている。例えば、多様なキャリアパスを知ってもらい、若者の関心を高めること、教育者と産業界の連携を強化し、雇用ニーズに沿った研修内容にすること、リーダーシップ開発、明確な昇進ルート、包括的な職場文化による定着率の向上、デジタル・リテラシーへの投資などだ。
また、AI導入や持続可能な取り組みを進めることで、将来、求められる人材育成を目指すことや、国際採用の要件ハードルを下げる、パートタイム職をフルタイム職に統合するなど、柔軟な雇用制度を推奨している。
責任ある成長を管理できるデスティネーションだけが競争力を維持
TP:WTTCは最近、ホテルのサステナビリティ・プログラムに着手したほか、観光が世界の国々に与える経済的影響に関するレポートを発表したが、これによる変化や進展は?
GG:サステナビリティは会員の最優先事項であり、長期的な競争力、レジリエンス、価値創造を考える上で、最も重要なことだ。WTTCの役割は、熱意を具体的な行動に変えるための実践的なツールやフレームワークを提供し、支援することだ。
その一つが、2023年にローンチしたWTTCホテル・サステナビリティ基礎プログラムだ。現在、80カ国以上・5000軒以上が参加しており、ヨーロッパ、アフリカ、南北アメリカ、アジア太平洋地域の主要なホテルグループも含まれている。
プログラムは、ホテル経営者向けのフレームワーク12段階で構成され、温室効果ガス、エネルギー、水、廃棄物の削減を重点的に取り上げている。地域社会に資するホテル運営も促している。
プログラムをさらに拡大し、世界中のより多くの宿泊施設にリーチすることを目指している。持続可能性と経済パフォーマンスは、もはや別の議論ではない。責任ある成長を管理できるデスティネーションだけが、長期的に競争力を維持するだろう。
ホテル業だけでなく、業界全体の脱炭素化やネットゼロ達成のロードマップを支援し、企業の事業およびバリューチェーン全体で、排出量を測定・削減するのを手助けしている。
また、気候、水、エネルギー、社会問題など、広範囲に渡るサステナビリティ調査、データやガイダンス作成も行っている。米コンサルティングのオリバー・ワイマン社と共同開発した「サステナビリティ・レポーティング準備のロードマップ」は、旅行・観光事業者の報告フレームワーク作り、コンプライアンス要件や実施での課題対策を支援するものだ。
今後はさらに、色々なことを計画中だ。実践的なサステナビリティ・プログラムの拡大、デスティネーションや企業の支援、そしてサステナビリティが地域社会、労働者、地域経済に真の利益を確実にもたらすように活動していく。
観光の経済効果において、2025年は大きな節目だった。旅行・観光は世界GDPに11兆7000億ドル(世界経済の10.3%)を貢献。パンデミック前を上回り、前年比は6.7%増だ。
2025年の海外旅行者数は15億人以上で、2024年より8000万人増。2035年までに9100万件の新規雇用が見込まれており、この産業の未来展望は非常に明るい。ただし、スキルを持つ働き手が集まってくれることがカギになる。
経済的なインサイト分析、コミュニティの意識調査を強化
TP:今後数年間、WTTCの調査やその他の重点事項において、何にフォーカスするべきだと考えているか?
GG:まず調査では、引き続き、会員や行政にとって最も重要な課題に焦点を当て、経済的なインサイトと予測分析を組み合わせながら進めていく。
労働力の課題は深刻だが、我々の調査対象は他にも多くある。テクノロジー、AI、そして国境管理のスマート化をどのように進めれば、成長力を最大化し、セキュリティを改善し、旅行者体験を向上できるのか、さらに力を入れて追及していく。
最近のWTTCの調査によると、「より良い国境」、具体的にはデジタル化されたビザ、デジタルID、生体認証技術の導入により、G20、EU、アフリカ諸国におけるGDPは2035年までに4010億ドル(約62兆1550億円)増え、新たに1400万人の雇用を創出するとの結果だ。米国、UAE、オーストラリアなどの例からは、国境管理の近代化が、効率と経済成長を促すことが分かる。
デスティネーション・マネジメント、持続可能性、レジリエンス、旅行者やコミュニティ側の意識についての調査も強化する。WTTCの役割は、エビデンスに基づく解決策のもと、政府と民間を一つにし、成長力を最大化しつつ、デスティネーションと、そこで生活し、働く人々を守ることだ。
地域資源の管理と価値向上に注力を
TP:今年、旅行業界が注力すべき主なことは?
GG:未来の労働力育成はもちろんだが、これはデスティネーション・スチュワードシップ(地域資源を適切に管理し、その価値を維持・向上させること)や成長のマネジメント改善と一緒に進めるべきだ。旅行・観光産業界は、雇用、投資、文化交流、地域の成長など、旅行・観光がもたらすポジティブなインパクトを周知徹底することに、もっと力を入れる必要がある。同時に、観光がもたらすプレッシャーへの対策を講じる努力も必要だ。
WTTCは、政府、企業、地域社会、住民をつなぎ、より包括的な体制で計画策定に取り組めるように、会員やデスティネーションを支援していく。すべての関係者を巻き込むことで、訪問客側の需要と生活の質のバランスを最適化し、双方にとっての大切な資源を守り、すべての人にとって、ツーリズムが長期的な利益をもたらすようにする。
労働力、移動手段、シームレスな旅行、そしてデスティネーション・スチュワードシップを正しい姿にすることで、今後10年間、この産業界の成長は非常に大きいものになる。実現するために必要なのは、持続可能で強靭かつ包摂的な手法になる。
※ドル円換算は1ドル155円でトラベルボイス編集部が算出
※この記事は、米旅行メディア「トラベルパルス(TravelPluse)」から届いた英文記事を、同社との正式提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事 : World Travel & Tourism Council's President & CEO Gloria Guevara Talks Travel's Future
著者:Lacey Pfalz Associate Editor, TravelPulse
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