兵庫県姫路市にとって、世界文化遺産の姫路城は、国内外に誇る圧倒的な観光コンテンツだ。一方で、その存在が大きすぎるがゆえに、観光客の関心は城に集中し、訪問後はそのまま遠方の目的地に移動してしまう課題を抱えていた。観光客の関心を城から市内の周遊へとつなげ、観光消費を伸ばすために、姫路観光コンベンションビューロー(姫路CVB)が注目したのが、地域の魅力を伝えるガイドだ。
そこで姫路CVBは、NECソリューションイノベータのサポートのもと、姫路城から市内各地の見どころをつなぐガイドツアーを販売するプラットフォームの構築を始めた。
ガイドが語る地域のストーリーには、点在する観光スポットを結び、観光客を誘う力がある。そのための仕組みと取り組み、姫路市が目指す観光の未来を聞いてきた。
姫路城の「点」から市内周遊へ、シビックプライドを“稼ぐ”仕組みに
「城と共に生き、城と共に世界に輝き、観光で稼ぐ」。
2023年、地域DMOである姫路CVBはこのビジョンを掲げ、姫路城を中心とした「観光交流都市」の実現を目指している。経済活性化と雇用創出を通じて、市民生活を持続的に守る仕組みを作ることが観光振興のミッションだ。その指標として、2026年度の観光消費額の目標を1060億円(2024年度は約966億円)に定めたが、達成には高い壁がある。
最大の課題は、市内での滞在時間を延ばすこと。姫路CVBマーケティングディレクターの清永治慶氏は「姫路城の“光”があまりに強いため、城だけで満足して帰ってしまう観光客が多い」と話す。データもそれを裏付けており、清永氏によると、観光施設の入込客数の半数以上が「姫路城周辺」に集中。市内の平均滞在時間は、宿泊者を含めても約150分だ。
いかに、市内観光の付加価値をつけ、周遊を促すか。姫路CVBでは、ストーリーで地域を魅せるガイドに注目。訪日外国人観光客向けのガイドツアー販売を整備することに決めた。清永氏によると、今や姫路城の入城者数は、7対3で訪日客が多く、特にフランス、米国、オーストラリアなど、欧米豪からの旅行者が上位を占めるのが特徴だ。
「欧米豪の訪日客は、オーセンティック(本物)な体験や歴史・文化的な背景への関心が高く、姫路城を『本格的』と評価する声も多い」(清永氏)。こうした知的好奇心の強い訪日客には、ガイドで地域の深部を伝えることが付加価値になると期待する。
(左から)姫路観光コンベンションビューローの清永治慶氏、姫路かおり氏、NECソリューションイノベータの川村武人氏ガイドツアーの整備にあたっては、もう1つ課題があった。姫路市では、約400人ものボランティアガイドが活動している。シビックプライドが高く、全国通訳案内士の有資格ガイドも地域が誇る姫路城を多くの観光客に案内しようと、現地で待機し、無償で対応する人が多かった。満足度の高いガイドを提供してきたが、一方で、持続的な観光経営の観点からは、有償でガイドを提供する仕組みの整備も必要だった。
この状況は、観光客にとって不便な一面もあった。姫路のガイドの予約方法がわからず、別の地域から同行させる訪日客もいた。外部のガイドではカバーしきれない地域の深い情報や最新情報もあり、地元のガイドが正確に伝える重要性も認識されてきたところだという。
この課題を乗り越えようと、姫路CVBが動き出した2024年10月から、パートナーとして並走してきたのがNECソリューションイノベータだった。清永氏がガイド事業の仕組み作りを模索していた際、知人の紹介を経て対話を重ねる中で、単なるシステム提供の事業者ではなく“同じゴールを目指す伴走者”と確信し、プロジェクトがスタートした。
姫路城以外の見どころも素晴らしい。ガイドの案内で地域の深部に触れられる
ガイドの付加価値を高めるプラットフォームとは
姫路CVBはどのような仕組みを構築したのか。
地元のガイドが誇りを持って活動し、質の高い案内で姫路のファンを増やす。その基盤として、姫路CVBが選んだのが、NECソリューションイノベータの「NECツアーガイドマッチング支援サービス」と「NECガイド予約支援サービス」だ。2025年4月、訪日外国人観光客向け「Himeji Concierge Tour」と銘打ち、4つのガイドツアーを商品化。2つの支援サービスを連動させて、姫路CVBの公式サイト「Visit Himeji」で販売を開始した。
販売するのは、姫路城のほか、日本庭園「好古園」や眺望の美しい「書写山圓教寺」を訪れるツアー。オンライン販売をすることで、姫路城以外にも深く楽しめる見どころがあることを周知し、市内の観光周遊につなげる考えだ。
姫路CVBの訪日外国人観光客向けガイドツアー販売サイト「Himeji Concierge Tour」。現在販売している4ツアーこの仕組みの基盤として採用したNECツアーガイドマッチング支援サービスは、ガイド事業の運営側と所属ガイドの間で生じる煩雑な管理業務をクラウド上で完結し、徹底的に効率化する。ガイドは手元のスマートフォンから自身の情報入力や案件確認、報告が可能だ。運営側も一人一人に打診する手間を削減できる。
もう一つのNECガイド予約支援サービスは、ガイドツアーをオンライン販売するためのシステム。この2つのサービスを裏側で連携させることで、公式サイトで販売しているツアーに予約が入ると、システムに登録されたガイドからツアーや予約者にあったガイドを効率的に探し、アサインすることができる。
NECソリューションイノベータ ディレクターの川村武人氏は「販売状況と連動しながら、ガイドのマネジメントをきめ細かくできる点が、このサービスの唯一無二の強み」と自信を見せる。
さらに、NECソリューションイノベータは、ガイドを対象にした「操作説明会」を定期的に開催。現場に出向き、ガイドの不安を解消すると同時に、その場で拾った声をシステム側のUIUXの向上に反映している。「ガイド組織の平均年齢は高い。スマートフォンの操作に不安を感じる方でも、迷わずに自身のスケジュール入力や案件確認ができるよう、画面の遷移やボタン配置の細部までアップデートを重ねてきた」と川村氏は話す。
この丁寧なサポートは、姫路CVBが期待するものだった。清永氏が、できるだけ事務的な作業を減らせるソリューションを探し、NECソリューションイノベータのサービスに行き着いた理由には、ガイド事業特有の事情がある。
「人であるガイドの予約事業には、観光客の急なキャンセルやノーショーの発生時をはじめ、感情や突発的な事態へのフォローが必要になる。手間がかかる事業であり、限られたリソースをより重要な業務に注力するため、事務的な管理業務はシステムで対応したかった。これは、ガイドを抱える多くの事業の共通の悩みだと思う」(清永氏)。
NECツアーガイドマッチング支援サービスのイメージ。運営側とガイド側で生じる業務を効率化する
地域が稼ぎ、住民が輝く未来へ
2025年4月のガイドツアー販売から、約1年がたった。本プラットフォームを介して販売したガイドツアーの売上高は2026年2月現在までの約10カ月で、約260万円。目標の300万円まで若干及ばない見通しだが、清永氏は前向きに捉えている。「外部のガイドツアーに月200人ほど流れている。サイトの販売機能を強化し、これらも取り込めれば、年間3000万円は見込める」と意欲的だ。
一方で、販売機能の強化だけでなく、販売ツアーに登録する「ガイドの質と量を上げていくことが大切」との認識を示す。そのため、姫路CVBではガイディング(スキル)とホスピタリティ(信条)の2種類のガイド向けマニュアルを制作し、ガイドのコミュニティづくりも進めた。こうした活動で姫路の観光ガイドの質を向上し、ブランドを確立させていく考えだ。
姫路CVBで、NECツアーガイドマッチング支援サービスの運用を担当する姫路かおり氏は「姫路の魅力には、人の温かさや食の美味しさなどがある。姿・形だけでは見えない地域の奥行きを伝えるのがガイド。姫路でよい経験をした旅行者が、タビアトもガイドを通じて地域とつながり、魅力や楽しさを広めてほしい」と、ガイドが果たす役割に期待を寄せる。
NECソリューションイノベータでは、近年、「ひがし北海道観光DXプロジェクト」など、交通事業者とタビナカ商品を組み合わせた地域主導による周遊促進が注目されている。それらの取り組みで活用されているのが「NECガイド予約支援サービス」だ。そして、10年前に立ち上げた「NECツアーガイドマッチング支援サービス」は、同社の観光分野でのサービスの原点となる。
川村氏は「この数年、交通インフラという“機能”を軸に地域の観光事業者をつなぎ、周遊促進することに力を入れてきた。これからはそれに加え、地域の“情緒”(ストーリー)でつないでいく支援も強化する。地域のストーリーを語るガイドには、地域観光を点から面へ広げる力がある。地域が主役になれるDXモデルを通じて、滞在時間の延長と消費額の向上に寄与し、地域が自立して稼げる未来をともにつくっていきたい」と意欲を語った。
対象サービス:
問い合わせ先:gias-support@nes.jp.nec.com
記事:トラベルボイス企画部




