機内食コラボの三國シェフ、高度1万メートルで提供するメニュー開発の舞台裏を語る

ファーストクラスで提供される「フグのポワレ、シャンピニオンソース」(※実際の機内の提供イメージとは異なります)

百花繚乱!世界の機内食めぐり

機内食コラムを担当する旅行・グルメライターの古屋江美子です。

ファーストクラスやビジネスクラスの機内食では、有名シェフやレストランとのコラボレーションが花盛り。そのはしり、いわば日本における機内食コラボの元祖ともいえるのが、スイス インターナショナル エアラインズ(SWISS)です。先日、機内食試食会に参加し、約15年間の変化や歴史を伺ってきました。 *冒頭写真は試食会で公開された「フグのポワレ、シャンピニオンソース」

日本の機内食コラボの先駆け、SWISS

試食会では今後1年間に提供される成田発のファーストクラス、ビジネスクラスの機内食からいくつかのメニューがお披露目された

東京・四谷「オテル・ドゥ・ミクニ」のオーナーシェフである三國清三氏が機内食メニューをプロデュースするようになったのは今から14年前の2001年のこと。

「実は最初にアプローチしたときに断られたんです」と話すのは、SWISS日本韓国支社長の岡部昇氏。最終的に口説き落とせた理由は、すでにチューリヒ発のスイス航空の機内食を監修していたのが、かつて三國シェフが師事していたスイスの天才シェフ、フレディ・ジラルデ氏だったからだといいます。

ジラルデ氏といえば、ポール・ボキューズ氏やジョエル・ロブション氏と並んで、世界三大シェフのひとりにも数えられ、当時は「席をとるのはスイス銀行の金庫をやぶるより難しい」と言われていたほどです。三國シェフは1974年に駐スイス日本大使館の料理長に就任し、大使館勤務の傍らで、フレディ・ジラルデ氏に師事していました。そんな縁もあり、「師匠が本国発の機内食監修なら、日本発は三國さんでなければ!」という熱い説得に押され、引き受けることを決めたそうです。

「オテル・ドゥ・ミクニ」オーナーシェフ、三國清三氏

そうして2001年3月、日本発の機内食としてはおそらく初のコラボ機内食である“Menu de Mikuni”の提供がスイス航空で始まりました。ところが翌2002年、スイス航空が経営破綻します。コラボ機内食もそこで終わりかと思われたのですが、そのとき三國シェフは、「タダでもいいから。大変なときはみんな大変なんだから、僕がやるよ」と言ったそう。

本人は「忘れたよ」と笑いますが、粋な心意気を感じますね。その後、スイス インターナショナルエアラインズに生まれ変わってからも機内食のプロデュースを継続し、現在に至っています。

機内食を作り始めて約15

年、変わったことは?

高度1万メートルの空の上では、地上のレストランとはまったく条件が違うと言います。たとえば定番の食材である卵も、デザートのムースなど一部の調理方法をのぞき、料理には使えません。また、機内では嗅覚が鈍るので、ハーブで香りをあしらうなど工夫も必要です。

そうした機内特有の事情は変わらない一方で、約15年の間に進化したこともあります。たとえば肉料理。以前は火が通りすぎていることが多かったのですが、最近はミディアムやミディアムレアといった焼き加減も対応可能になってきているそうです。

地上の料理界はトレンドが10年サイクルで変わっていきます。古くはポール・ボキューズ氏やそれに続くジョエル・ロブション氏、最近まではスペインのフェラン・アドリア氏(エル・ブリ)などが料理界をけん引し、食材をムース状にする“エスプーマ”という手法も広く使われるようになりました。ちなみに現在のフランスでは、アラン・デュカス氏を中心に、もっと実質的な料理に戻そうという動きがあるそうです。

「機内食にもそうした大きな時代の流れを取り入れつつ、ほかにはない個性や特徴を出すようにしています。これはレストランの料理と同じですね」と三國シェフは説明します。

本人すらも食べられない!? 大人気のメニューとは

SWISSはエアラインとして“スイスらしさ”に重きを置いており、スイス発の長距離路線では「SWISS Taste of Switzerland」をコンセプトに、3カ月ごとにスイス各地の郷土料理をテーマにしたメニューを提供しています。日本発便でも同様のコンセプトのもと、スイスと日本の食文化が巧みに融合されています。

三國シェフがプロデュースするメニューに関しては、三國シェフ監修のレシピを元に、ケータリング会社が試作をおこない、シェフやSWISSの担当者も交えながら何度も試食を繰り返し、最終決定に至っているそうです。ちなみに成田発のファースト・ビジネスクラスの機内食は4種類のチョイスがあり、そのうちの1種類が三國シェフ監修のメニューなのですが、最初に品切れになることも多いそう。たまに三國シェフ自身も搭乗して空の上で味を確かめるそうですが、「僕のぶんがないこともある」と苦笑いしていました。とにかく評判がいいようです。

今回の試食会に提供された料理の中で印象的だったのは、「フグのポワレ、シャンピニオンソース」。柔らかな弾力のフグは淡泊な中にも旨味があり、サラリとしたシャンピニオン(キノコ)のソースとの相性も抜群です。

ファーストクラスで提供される「フグのポワレ、シャンピニオンソース」(※実際の機内の提供イメージとは異なります)

料理は食感や食材に日本的な要素も盛り込みながらも、過度に和食に走りすぎることなく、絶妙なバランスに仕上げられています。アミューズの一品「ソーモンフュメと野菜のジュレ日向夏風味」からは昆布とかつおなど出汁の旨味がしっかり感じられ、肉料理「和牛フィレ肉のステーキ、木の芽味噌とレフォールソース」は味噌と木の芽をピューレした日本的なソースにほっとします。

料理のお供にはスイス産のワインを楽しめます。同社のワインセレクトは世界的に活躍する女性ワインコンサルタントのチャンドラ・クルトさんが担当しており、厳選されたワインが料理の味を引き立てます。

スイスに関わりも深く、繊細な和の味をフレンチに取り込むことに長けている三國シェフだからこそ生み出せるSWISSの機内食。メニューは3カ月ごとに変わるので、乗るたびに新鮮な驚きを味わえます。

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