観光庁が発信する災害時の情報、その体制と対応のポイントを聞いてきた -発生から風評被害対策まで

災害発生時には、正確で迅速な情報が何よりも重要だ。観光分野の情報発信は観光庁が担っており、その内容は現地にいる観光客への安全情報から風評被害対策まで幅広い。災害時の情報は、内容はもちろん、発信の仕方やタイミングでも、人々の安全をはじめ、観光地や周辺地域の経済も左右する。観光庁での取り組みについて、担当者に聞いてきた。


災害情報発信の体制は?

観光庁で災害時の情報発信をするのは、総務課と観光産業課、観光地域振興課、国際観光課の4課に及ぶ。国内の旅行者と観光業、そして訪日外国人旅行者と海外全般、と各課の担当方面に対応するためだ。取りまとめ役は総務課。気象庁など、災害に関する発信元の情報を総務課が受け取り、各課へ伝えるという仕組み。各課に担当者を置き、相互連携を図っている。

災害情報を受け、最初に情報発信をするのは、旅行業者やホテル旅館を所管する観光産業課。「まずは注意喚起と安全確保」(同課旅行安全対策推進室長・丸山一夫氏)で、被災地にいる旅行者や宿泊施設の被害の有無など現状把握のための調査をすると同時に、日本旅行業協会(JATA)や全国旅行業協会(ANTA)に対し、業界を通じて旅行者や旅行予定者に正確な情報を伝えるよう文書で通知する。

続いて観光地域振興課が、現地状況に関する情報を、関係自治体と協力して発信。「風評被害が一番困る」(同課課長補佐・近藤光則氏)ことから、その防止も視野に入れている。発信場所は観光庁のホームページや、2万人のフォロワーを持つ観光庁のツイッターなどSNSも活用。観光庁のホームページでは「関連情報」内に阿蘇、箱根、桜島など、災害や警報の影響があった地域について、現状のアップデートと関係自治体等にリンクを貼る個別のページを設けている。

観光庁ツイッター(2015年9月16日のツイート)

外国人向けには旅行中に情報を伝えられるアプリ制作も

国内向けと同時に、訪日外国人旅行者にも2つの方向で情報発信を行なう。担当は国際観光課。1つは海外全体に対するもので、日本政府観光局(JNTO)を通じて同ホームページに事実関係を掲載する。潜在的な訪日旅行客に伝わるものでもあり、風評被害を防ぐ目的もある。

もう1つが、現在旅行中の訪日外国人に対する発信。ここで活用するのが、訪日外国人向けのプッシュ型アプリ「Safety Tips」だ。「日本人はエリアメールや緊急地震速報などで把握できるが、外国人には届ける術がない」(外客受入担当参事官付係長・山崎亮介氏)ことから制作した。今年8月には配信内容に加え、対応言語も英語のほか中国語(繁・簡)、韓国語、日本語も追加するなど、バージョンアップを図ったところ。

アプリのダウンロード数は非開示だが、運営事業者からは訪日客の3~4割が活用しているとの報告があるという。先ごろ、中国大使館のホームページにリンクを貼ったところ、翌々日には3000件のダウンロードがあった。今後も訪日外国人の利用が多いサイトへのリンクやSNSでの発信などで利用者増加を図る一方、アプリを使うためのWi-Fi整備も推進する方針だ。

プッシュ型アプリ「Safety Tips」概要:観光庁ホームページより

情報発信時のポイント、箱根のケース

では実際、どのように対応しているだろうか。災害時の情報発信はその種類や程度、時間の経過によって変わってくる。場合によっては、国土交通省や観光庁、出先機関などから現地に職員を派遣。入込客数の動きを確認しながら、情報内容や追加発信を決めるなど、現地の状況に沿った対応に努めている。

具体的には箱根の場合、噴火警戒レベルが2となった2015年5月6日以降(注:現在は噴火警戒レベル1に引き下げ。11月20日付)、観光庁のホームページなどで安全情報の周知を図る一方、イベントやメディアを活用した情報発信で風評被害対策を強化。例えばツーリズムEXPOジャパンでは、イベントステージで箱根のピーアールを行ない、盛り上げた。

当初は「箱根噴火」などのセンセーショナルな報道もあり、「地元の人が普通に生活しているのに困る」という声が聞かれたという。報道の仕方によっては現状以上のインパクトを与え、風評被害に繋がる。そこで観光庁では、国土交通大臣自らが定例記者会見で冷静に正確な情報発信を求める発言をしたのをはじめ、メディアに対する呼びかけを行なった。これにより、次第に「箱根美術館や芦ノ湖の周辺は大丈夫」など、報道の内容が変わってきたという。

一方、海外向けは国内と対応が分かれた。通常、海外に対しては現地の報道内容を注視しつつ、風評被害の状況に応じてメディア招致やイベント、SNSを活用した情報発信を行なう。しかし、今回の箱根に関しては訪日旅行者数が減少するどころか増加。そのため、イベントやメディア招致などは特に行なわなかった。

外国人旅行者は日本人と比べ、自分で情報収集をし、旅行の安全性も自己判断する人が多いといわれているが、観光庁でもその傾向を感じているという。「現地発の情報や報道、そしてFacebookなどSNSの情報を積極的に探る。特に訪日旅行者の場合は大涌谷よりも芦ノ湖から見る富士山が目的という人が多く、そこに問題なく行けることが判明したから訪問するのだろう」(国際観光課主査・島田泰明氏)と見る。

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消費者側も変わってきている

L-2とはいえ、日本人も「風評被害」に対する認識が広まり、以前よりも変わってきているようだ。「肌感覚だが、例えば阿蘇では噴火警戒レベルの引き上げで旅行のキャンセルが発生した。しかし、短期間で予約が戻ってきていると聞く。旅行者も冷静な対応をするようになったように思う」(丸山氏)との実感もあるという。

自然災害の多い日本では、災害時の情報発信や風評被害対策は今に始まったことではなく、「常に冷静に正確な情報発信をする」というスタンスは以前から変わらない。しかし、「変わったのは情報取得・発信の即時性。一般の人もリアルタイムで発信するようになった」と、総務課広報広聴官の貴田晋氏は指摘。また、「日本人向けには緊急地震速報やエリアメールをはじめ、情報としては飽和状態との意見もある。今後は情報の精度やその先も必要」(山崎氏)との見方もある。スマートフォンやWi-Fi整備の普及など環境変化に合わせ、必要な情報を届ける方法や内容も変化が必要だ。

さて、事例として触れた箱根だが、記事内で注釈した通り、2015年11月20日に噴火警戒レベルが1に引き下げとなり、収束の兆しを見せている。制限が取り下げられた段階になれば、自治体との連携によるメディア招致など、情報発信は完全復興に向けた内容に移るだろう。回復基調にある客足を押し上げる、今後の取り組みに注目したい。

聞き手:トラベルボイス編集長 山岡薫


記事:山田紀子(旅行業界記者)



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