2026年度からの「観光立国推進基本計画」の策定へ、観光・交通業界団体が要望、人材確保や地方誘客などで

観光庁は2025年7月25日、新たな観光立国推進基本計画(第5次)の策定に向けて3回目の会合、第51回交通政策審議会観光分科会を開催した。今回は、観光立国推進基本計画の改定に向けて、観光関係及び交通関係の業界団体から意見を聴取。各業界、それぞれの現状が説明されたほか、人材不足、DXによる生産性の向上、地方誘客など共通の課題も共有し、各団体から環境改善に向けた要望が出された。

観光関係からは7団体・2事業者、交通関連からは7団体が参加。会合で共有されたそれぞれの要望をまとめた。

観光関係

日本観光振興協会

観光需要拡大に向けて、若者の海外旅行促進を含む「双方向交流の拡大」や年間を通じた旅行需要の平準化を進め「観光の持続的成長と分散化」を要望。また、観光地域経営と人材育成では、「DMO登録制度ガイドラインの定着」、学校教育や産業での教育研修プログラムの確立などを求めた。

さらに、観光財源の安定的な確保として国際観光旅客税や宿泊税などの多様かつ有効な活用、観光産業の高付加価値化と国際競争力の強化に向けて観光DXによる生産性向上、各種インフラ整備、MICE誘致、クルーズ観光の活性化などを要望した。

日本旅行業協会

5つの要望事項を説明。まず、パスポート所持率の向上に向けて、発給申請手数料などの抜本的な見直しを求めた。また、若者の海外旅行促進の観点から「国際交流必修化」の取組みの検討、国内旅行の平準化のためにラーケーションに代表される学校平日休み制度の全国的な促進を要望した。

さらに、訪日客の地方分散と地域経済の活性化の観点から、アドベンチャートラベルなど外国人向けの専門ガイド育成や戦略的地方誘客策の実施を要望。このほか、白ナンバー運送や客室の転売・空売りなどの問題に触れ、観光産業全体の健全性の向上を求めた。

このほか、委員から出された日本政府観光局(JNTO)のアウトバウンド政策への役割拡大についての意見に対して、「全く同感」と回答した。

全国旅行業協会

ラーケーションなどの促進による旅行需要の平準化や旅行機会の創出、DXによる生産性向上と人手不足解消のほか、中小旅行業者の生き残りをかけて、高付加価値な体験型旅行の造成、教育旅行、社員旅行などへの支援による団体旅行文化の維持を訴えた。

日本ホテル協会

人材確保に向けて、観光産業の就職先としてのイメージの改善、労働環境改善を目的とした整備への補助や税制優遇、旅館業法に関する自治体の上乗せ規制の完全撤廃などを要望。また、設備投資への補助について、自治体中心から事業者中心へ転換を求めた。

また、インバウンドの地方分散、国内旅行の振興、MICE振興を要望。さらに、宿泊税についても触れ、宿泊税の安易な導入・値上げは控え、適用の公平性や使途の明確化を求めた。

全日本ホテル連盟

インバウンドの地方回遊を促進するための具体的施策を提言。地域の特性、歴史、文化を取り入れた魅力あるホテルづくりに対する補助金、AIベースの統合観光ポータルサイトの構築、交通のボトルネックの解消を求めた。また、CIQの簡素化による迅速な入出国手続き、観光庁の観光省への格上げを要望した。

日本旅館協会

全国的に過大な累積債務を有している施設も多いことから、経営安定化に向けて、金融面、税制面で負担軽減策が必要と言及。また、地方誘客では、休暇取得の推進による旅行促進、ワーケーション、ブレジャーの取組みの促進などに加えて、地方空港活性化の施策として大都市空港と地方空港間のシャトル便も提案した。

加えて、地域における移動について、交通空白解消に向けて公共ライドシェアの推進などを要望。さらに、民泊については、消防法等関係法令の遵守状況など徹底した監査や事後チェックを求めた。

全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会

公的主体の負担による廃屋撤去についての制度設計、地域の宿のように地域に根ざしたプレーヤー主導の地域づくり、自然災害に伴う風評被害による損失補填のための公的な共済制度の設立、旅行業法などの法令の適切な運用を要望した。

また、「温泉文化」のユネスコ無形文化遺産登録に向けた取組に対する理解と支援を求めた。

mint社

広島でサイクリングツアー「sokoiko!」を展開するmint社は、2030年に向けて、インバウンド市場ではsightseeing Touristからeducated Travelerへの転換が必要と主張。「ディープインバウンド」として、より深い、その地方でしか味わえない体験の創出が必要とした。

そのうえで、訪日リピーターに対する戦略の充実化が不可欠として、受け入れにおける地域とエリア別の役割分担、ハブ地域の拡充と周辺への波及効果の向上、受け入れ態勢の整備とその意識の向上を求めた。

羅針盤社

インバウンド向け観光コンテンツ・サービスをプロデュースする羅針盤社は、地方誘客の加速に向けて、「観光コンテンツの磨き上げ」「宿泊施設の充実」「二次交通の改善」を挙げた。また、収益機会の拡充として、公共財の活用や各種規制の緩和を求めた。

さらに、観光人材の育成は最重要課題として、ガイド文化の定着と発展に向けたコミュニティ、団体の創設を提言したほか、修学旅行の見直し、大学における観光学部・学科の設置推進、収益性改善による労働還元額の向上を提言した。

交通関係

定期航空協会

インバウンド旅客の地方誘客の促進、二地域居住の推進等による新たな移動需要の創出などによる国内流動の拡大、グランドハンドリングの環境改善や訪日客の地方空港受け入れ体制強化などを通じたストレスフリーな観光の実現を要望。

また、首都圏空港の自動化、無人化の推進、空港アクセスの充実などゲートウェイとしての空港機能の強化を求めたほか、安定した供給量の確保・給油体制の見直しを要望した。

全国空港事業者協会

国内地方路線ネットワークの拡充に向けて、インバウンド旅客の地方誘客やアウトバウンドの推進、旅行需要の平準化などを提言。また、人材確保・育成と労働環境の抜本的改善が必要として、特定技能制度を活用した外国人労働者の受け入れの推進に加えて、賃上げや労働環境の改善など、従業員の定着率向上を求めた。

さらに、空港業務のDXによる省人化が急務として、One IDやオフエアポートの導入促進、Face Express(顔認証による搭乗手続き)の拡大などのデジタル技術の活用を要望した。

日本民営鉄道協会

観光客の鉄道利用促進に向けた各種施策を提言。地方への観光誘客に向けた戦略的なプロモーションの実施、バスやタクシーなどの二次交通との連携、利用マナーに関する啓蒙活動、乗車サービス・支払方法(ICカード、QR、クレジットカードなど)の整備促進、緊急時の外国人利用客に対する適時適切な情報提供体制の構築を挙げ、支援策の充実を求めた。

日本バス協会

運転者不足への対応として、自動運転の本格運行への推進や外国人バス運転士の受入での支援を求めたほか、訪日観光客の二次交通利用の促進に向けて、キャッシュレス化、MaaS、多言語対応を求めた。

さらに、貸切バス、定期観光バス等の環境整備の促進として、観光地におけるバス駐車場の整備や地域の実情にあった利便性の高い車両導入(2階建バス、連節バスなど)への国による支援を要望した。

全国ハイヤー・タクシー連合会

訪日客の地方誘客を進めるうえでも、タクシー事業に対する支援の継続と拡充を求めた。このほか、人材確保の点から外国人ドライバーに対する日本語能力試験などの受験機会の拡大、運賃改定の迅速化及び運賃改定のサイクル化の実現、違法な自家用車による有償輸送(いわゆる白タク行為)の根絶を要望した。

日本外航客船協会

クルーズ会社や地域などの関係者が共有する目標値を設定し、その達成に向けた協力することが必要と提言。国内ではクルーズ旅行の魅力を訴求するプロモーション、海外では外国人乗客受け入れの環境整備や魅力の訴求、地域では魅力的な観光コンテンツの整備とクルーズ商品の造成、港から観光拠点への2次交通の確保、CIQ手続きの円滑化を要望した。

日本旅客船協会

国内旅客船の多くがインバウンド市場拡大前に建造されていることから、訪日客のニーズに対応した国内旅客船の建造・整備に対する支援を要望した。また、インバウンド効果は、特定の観光船や一部の離島航路などに限られていることから、移動を楽しむ観光客ニーズに対応したサービスを提供することが必要と提言した。

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