ブッキング・ドットコム、京都へのインバウンド送客データを公表、新兆候が見えてきた予約傾向など聞いてきた

主要ホテルにおける訪日外国人の宿泊シェアが、2017年4月に日本人を上回ったことが発表された京都。同月の稼働率も過去3番目に高い数値を記録し、訪日外国人の人気に陰りは見えない。

そんななか、日本に外国人旅行客を送り込む海外OTAブッキング・ドットコムが、京都への送客状況に関するデータを発表。西日本地区の宿泊施設の営業・サポートを管轄する統括部長の高木浩子氏は、「インバウンドはまだまだ来る」と勢いを語りつつ、京都で見えつつある予約動向と宿泊施設の変化の兆しを指摘する。

他都市を凌ぐ京都の掲載施設の増加

まずは京都のインバウンドの受入体制と宿泊者数の状況から。ブッキング・ドットコムの日本の掲載施設は、2015年末時の6800軒から2017年5月末で1.2万軒となり、1年半で76%増の急ピッチで拡大。これに対して京都は2015年末時の450軒から2017年5月末は1100軒の144%増で、日本全体の伸びを上回る推移を見せている。

施設数の増加を受けて、京都への送客数も前年比5割前後の増加率で、右肩上がりに推移。2017年末も45%増程度の着地を見込む。

プレゼンテーション資料より

この勢いのある送客のうち、海外からの予約の割合は85%(2016年6月~2017年5月)で、圧倒的にインバウンドが占める。予約発生地別のデータのため、日本の15%のなかにも来日中の外国人の予約も入っており、実際の外国人比率は85%より高い可能性もある。

これは、京都市観光協会と京都文化交流コンベンションビューローが公表する、市内主要ホテルでの外国人比率37%(2016年)はもちろん、外国人旅行者の多い東京や大阪におけるブッキング・ドットコムの外国人比率でも70%前後で、「京都は日本のなかでダントツに外国人比率が高い」と高木氏。

プレゼンテーション資料より

ちなみに、ブッキング・ドットコムの国内予約に対する日本人の割合は、この数か月で約5割にまで高まっており、高木氏は「全体の数が増えているなかで、京都のインバウンド予約が増えている」ことも強調した。

モバイルの浸透でリードタイムが2極化

外国人旅行者の予約発生時期は、日本人よりも早い。ブッキング・ドットコムの京都の予約でも、予約から宿泊までの期間(リードタイム)の平均は60日前になっているが、高木氏は「最近は2極化傾向にある」と説明する。

具体的には、平均より早期となる宿泊2か月以上前の予約が約25%なのに対し、宿泊1週間前の間際予約も25%と同程度に高まった。これについて高木氏は、モバイルアプリの影響を指摘。2年前はPC経由の予約が7割だったが、今ではモバイルと拮抗するまでになった。このモバイル予約の気軽さを背景に、「増加している北アジアの旅行者が、国内旅行の感覚で訪日旅行の予約をしている」のが、インバウンドの間際予約が進む要因だと話す。

プレゼンテーション資料より

また、訪日リピーターの増加に伴い、京都のみならず奈良や和歌山、滋賀など、周辺地域と組み合わせた予約も増加。京都一帯をデスティネーションと捉える旅行者の増加で、京都市自体の滞在日数は短期化しつつあるという。

京町家の数が4.5倍、5室以下の施設が約8割に

もう一つ、高木氏が指摘するのは、掲載施設の多様化。この記事の冒頭で、京都の掲載施設数の急増について記したが、一方で客室数は2015年末の約2万15000室から2017年5月末は約2万6500室で、増加分は約5000室。施設数は2倍以上に増えたのに、客室数は23%増にとどまっている。ちなみに大阪は、掲載施設数が約1000軒に対し客室数は5万室だ。

では、京都では何が起こっているのか。高木氏は、「客室数の少ない施設が圧倒的に増えている」と説明。京都の掲載施設の77%が、1施設あたり5室以下の施設で占められており、「他のエリアでは見られない現象」とも指摘する。

これを牽引するのが、京町家を再生した1棟貸し物件。1棟貸しは1施設1室でカウントすることになる。この京町家の物件がこの1年間で、4.5倍に拡大したという。

プレゼンテーション資料より

もちろん京都には建物の高さを規制する条例があり、大規模施設が建ちにくい特有の事情がある。小規模施設が増加しやすい土壌があるといえるが、京町家を筆頭に、アパートメントタイプからゲストハウス、カプセルホテルなど、従来のホテルや旅館以外の多様な施設が増加しているこの傾向は、この2年くらいで顕著になったという。

高木氏は、ブッキング・ドットコムではユーザーの多様なニーズに対応するために「宿泊施設の総合デパート的なプラットフォームを目指している」と同社の方針を説明。「京都のインバウンドを魅力的に発展させるためにも、多様な施設と供給数を確保し、圧倒的な集客力でインバウンドを増やしていく」と話す。

ニューウェーブで起こった予約戦争

一方、こうした小規模の宿泊施設は、個人経営や管理会社による複数施設の運営形態が多く、特徴的なのは異業種からの参入者による運営が多いこと。そのため、従来の集客や値付けに精通しておらず、高木氏によるとその影響で京都では一時期、宿泊施設の価格高騰などの現象も起きた。

現在は施設数の増加に伴い価格の上昇傾向は落ち着いているが、今度はメタサーチからの流入が増加し、価格競争が激化しつつある。高木氏は「施設の料金は、デイリーで動かして戦略的に設定しなければ集客できないようになってきた」と現状を説明。特に、新規参入の小規模施設の増加によって、従来型の2つ星や3つ星のホテルの価格競争が半年くらい前から起こり始めているという。

ブッキング・ドットコム 西日本統括部長の高木浩子氏

ブッキング・ドットコムでは参画施設に対し、適した施設運営ができるためのサポートを、運営者が日々触れる管理画面上でも行なっている。操作性はもちろん、適した価格付けの参考となる統計データなどもアップデートして提供しており、新規参入者に対するエディケーションにもなっていると胸を張る。

日本一のインバウンド人気都市の京都でも、価格競争が始まっている。今後、民泊新法が施行され、宿泊形態の多様化が進んだ場合、同様のケースが他都市でも起こる可能性はありそうだ。


取材:山田紀子

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