航空機の整備現場を密着取材、LCCジェットスター・ジャパンの「安全」と「安心」を確保する舞台裏とは?(PR)

「LCCを利用するようになってから、年に1、2回程度だった国内外への旅行が5回くらいに増えました。就航地もどんどん増えていますし、まだ行ったことのない都市へこれからも積極的に旅したいですね」

成田空港の第3ターミナルで会った年配の夫妻は、そう言って満面の笑みを浮かべた。ジェットスター・ジャパンが2016年2月に開設した路線を利用してこれからフィリピンのマニラへ飛ぶそうだ。国内線カウンターの列には「春休みや夏休みには友だちと必ず何回か旅行を計画します」と話す大学生のグループも。安い時期であれば国内の各都市へは3000〜4000円台で、海外へも1万円を切る料金で行けるようになり、LCCを支持する層は年々広がっている。

その一方で、LCCの利用にはやや消極的な人たちもいる。「安く乗れるのはありがたいのですが、安全面が少し不安で」と彼らは言うのだ。実際、LCCのビジネスモデルではコスト削減に向けて「効率性重視」が大命題になる。では、安全基準や航空機の整備手順などの面で、LCCはどんな特徴があるのか? ジェットスター・ジャパンの成田の整備現場を訪ねてみた。

機材の高い稼働に耐えうるメンテナンスとは?

「機体の整備はメーカー(エアバス社)が作成したメンテナンスマニュアルをベースとし、そこにジェットスター・グループとして10年以上におよぶ運航実績で蓄積してきた経験とノウハウをプラスして、ジェットスター・ジャパンの整備体制を構築しています。」

そう話してくれたのは、同社の整備セクションを統括する整備本部のリーダーの一人だ。LCCの特徴というと、まずは航空機の高い稼働率であろう。昼間は国内路線で運航した機材を、夜間には国際路線へ。拠点である成田に明け方に戻ると、翌朝からは再び国内の各路線で活躍する。ジェットスター・ジャパンは使用する機材をエアバスA320の1機種に絞っており、大手のように国内線用と国際線用という機材の使い分けはしていない。1機ずつの稼働率を高く維持することにより、効率性を高めているのだ。

「整備の現場では、そうした高い稼働率に耐えうる機材のメンテナンスを常に心がけねばなりません」と、前出のリーダーは続ける。「実現するにはジェットスター・グループの知見も活かした強固な整備体制の構築が必要でした」

一般に旅客機の整備はどういう形で進んでいくのか? まずはそこから解説しよう。旅客機の整備は「ライン整備」と「ドック整備」の2種類に大別できる。空港でスポットに到着してから出発するまでの間に駐機エリアで実施されるのが日々のライン整備だ。それに対して、ハンガー(格納庫)に機体を搬入してより本格的に点検・整備を行うのがドック整備。ドック整備は飛行時間や期間によって「A整備」や「C整備」に細分化され、ジェットスター・グループでは1つの機材が750時間飛ぶごとにA整備を、さらに7500時間ごとにC整備を実施している。7500時間ごとのC整備では機体各部のパネルが取り外され、細部にわたって入念な点検作業が進められる。ハンガーインからハンガーアウトまでほぼ1週間を必要とするC整備は、クルマでいう「車検整備」に当たると考えていい。

C整備は外部で、ライン整備は自社で

このドック整備に関しては、自社では行っていない。大手を含めた他の多くのエアラインと同様、ジェットスター・ジャパンもドック整備は航空機のMRO(メンテナンス、リペア、オーバーホール)を専門に請け負う民間航空エンジニアリングサービス会社へ委託している。1社単独での契約ではなく、グループとして一括契約することで“スケールメリット”を働かせ、コスト圧縮を実現してきた。現在のC整備などの委託先は、MROでは世界最高峰の技術力と実績が評価されているルフトハンザテクニック社である。

一方のライン整備に関しては、自社スタッフで取り組んでいる。ジェットスター・ジャパンが保有する機材(A320)は、2018年2月現在で計21機まで増えた。成田での日々の機材整備は委託契約を結んでいるJALエンジニアリングの協力も得て進めているが、進行状況や作業内容などはすべて自社で管理監督し、1機1機について責任をもって仕上げている。ライン整備における機体チェックはもちろん、エンジン交換も自社でできるノウハウと技術力が社内に蓄積されてきた。

さて、話を戻そう。冒頭の話にも出た「LCCならではの高い稼働率に耐えうる整備」とは、どういうことなのか? 日々のライン整備は、機材が1日の役割を終えた夜間に必要な点検を実施し、翌朝送り出すというスタイルが基本である。しかし、夜間に国際路線を運航するためには、一定間隔で行うライン整備の機会の設定と、運航する国内路線と国際路線のダイヤ設定について緻密な連携を備えたプランづくりが重要になる。いろいろな機種を飛ばしている航空会社にはきわめて難しいことだが、運航機材をA320の1機種に絞っているLCCだから、それが可能なのだ。

便数を飛ばせば飛ばすほど当然、1便あたりの整備コストは下がる。LCCが低価格でチケットを提供できる背景には、整備の現場での絶え間ない努力がある。「1機につき平均して一日に11時間くらいは稼働させたい」とリーダーは言うが、そのためには高い機材品質と緻密な計画がカギとなっている。

パイロットと整備士の連携

私が成田空港の整備現場を訪ねたとき、若手を含めた整備士たちがちょうど折り返し便のメンテナンス作業に当たっていた。オフィスの大型モニターには、保有する21機のフライトパターンが表示され、必要な場合に「どの機材には誰が行く」といったことがすべて決められている。そのモニターを前に、スタッフたちは日々のブリーフィングにも余念がない。どんな状況でも臨機応変に対応できるフレキシブルな体制がとられている。

フライトを受け持つパイロットと成田の整備が密接につながっているのも、ジェットスター・ジャパンの特徴だろう。操縦に携わる一人ひとりが高い意識をもち、フライト中に何か気づいたことがあれば直ちに整備部門に報告。不具合の兆候を未然に捉えて予防整備で処置していくことをパイロットと整備士が一体となって進める。そんな部分にも、整備におけるLCCの特徴があらわれている。

また最新の旅客機は「自己診断装置」と「空対地データリンク装置(ACARS)」を装備。上空を飛行中に各システムの状態を自己診断装置でモニターし、その情報が地上でもチェックできるようになっている。地上で待機している整備士たちは、旅客機から送られてくるデータから事前に不具合の原因特定や予備部品の準備を行い、限られた時間の中での迅速に対応が可能になった。不具合が生じる前に対処しておく「予防整備」に重点を置くジェットスター・ジャパンでは、そうした運航中のリアルタイムなモニタリングと運航乗務員との密なコミュニケーションにより、稼働率を高めても運航に支障をきたさない航空機のつくり込みを実現してきた。

エアバスA320という世界的なベストセラー機を運航している点も、整備の信頼性を高める結果につながっている。A320はこれまで長年の実績を積み重ね、技術的に成熟している機種だ。各国の航空会社がさまざまな路線でA320を活用し、メーカー側にノウハウが蓄積されている。そこにジェットスター・グループとしての経験と実績も加わって、トラブル時にも迅速な対処ができるよう社内体制を構築してきた。

達成感を味わうのは出発便を見送るとき

ジェットスター・ジャパンは現在、成田・関西・中部から計26路線(国内17、海外9)を運航している。2018年春には中部も拠点化して整備士を配置し、機材も2019年までに現在の21機から28機まで増やす計画だ。整備本部で働くスタッフは2017年6月時点で106名。年齢層は20代から60代までと幅広い。若手はベテランの経験と技術を学びながら、日々のライン整備に当たっている。

あるグループは、降り立った機体のコクピットでの確認作業などに従事。別のシップでは違うスタッフが、脚まわりのチェックとタイヤの交換を進めている。私が取材に訪れた日は、エンジンのカウリング(カバー)を開けての作業風景なども見られた。

「夜間の点検を終えて朝の第1便を見送るとき、あるいは折り返し便を再び出発させるときが、この仕事の達成感や充実感を得られる瞬間ですね」

若手整備士の一人が私に言った。繰り返すが、機材の稼働率を上げることが大命題のLCCだからこそ、より高い安全性を求め、それを実現するための独自の整備手法を確立していかなければならない。日々の安全運航を支える整備作業をどう効率よく、パーフェクトに進めていくか──そのやり方にこそLCCの“個性”が垣間見られることを、今回の取材を通じて改めて実感した。

取材協力:ジェットスター・ジャパン株式会社(http://www.jetstar.com/jp/

秋本俊二(あきもと しゅんじ) 作家/航空ジャーナリスト

秋本俊二(あきもと しゅんじ) 作家/航空ジャーナリスト

東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら新聞・雑誌、Web媒体などにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオの解説者としても活動する。『航空大革命』(角川oneテーマ21新書)や『ボーイング787まるごと解説』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』(ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)など著書多数。

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