中国の旅行デジタル市場で成功するための8つの視点とは? ITB中国(上海)に参加して感じたことをまとめた【外電】

中国の消費マーケットに入り込むには何をするべきか、旅行各社はいつも真剣に考えている。ニールセンの調査によると、中国GDP(国内総生産)におけるデジタルエコノミーの比率は、今や30%以上にのぼる。

そこで今回は、今年5月半ば、上海で開催されたイベント「第2回 ITB中国」に参加して感じた8つの視点をお届けしよう。

1. ライフスタイルとショッピングのエコシステム台頭

旅行サイト「フリギー(飞猪、Fliggy)」やeコマース大手「メイタン(美団、Meituan)」に代表される中国の消費者サイトでは、旅行関連商品の取り扱いをどんどん増やしている。ユーザーのプロファイルを把握した上で、その人が興味ありそうな商品を提案するクロスセールに長けているのが特徴だ。

例えば美団の場合、店舗、自宅、旅行、地域交通など、あらゆる場面で幅広いサービスを提供できるのが強み。美団プラットフォームの最高マーケティング責任者(CMO)、スティーブン・シュウ氏が同社の支持層として挙げるのは「ミレニアル世代」だ。同氏によると、ドイツや英国に比べて、中国のミレニアル世代は旅行への関心が強く(映画、音楽、ファッションはもちろんだが)、もっと便利に、もっとグレードの高い経験を、といった探求心が強い。

「ミレニアル世代は、将来の消費リーダー。この層の年間消費額は11%増で、35歳以上の世代に比べると倍の勢いだ」(シュウ氏)。

収益化の仕組みはどうか?

美団では、ホテル客室と観光アトラクション入場券のセット販売に力を入れている。同様に、商品カテゴリーは異なるが、何らかの相関性がある買い物の組み合わせを見つけ出そうとしている。例えば、ホテルを予約した人は、食事の場所やケータリングの注文、あるいは娯楽体験の予約をどのようにして決めているのだろうか。

一方、ライバルのフリギーはアリババグループ傘下の旅行サイト。たびたびサービスの刷新を行いながら、旅行ブランド各社を自社プラットフォームに誘致し、出店を働きかけている。同サイトでは、旅のプランニングに始まり、各種予約、ホテル滞在を便利にするあれこれ、現地で必要なサービス購入まで、何でも揃うようになった。

便利で簡単という点で評価が高いが、その一因は、親会社であるアリババの存在で、セルフチェックインや顔認証、決済時の信用度スコア・サービスなどが手軽に利用できる。アリババも、消費者のライフスタイル全般に対し関心を強めており、なかでも健康&ハピネス、ローカルサービス、そして中核となる商取引に力を入れている。

同グループでは、データを集めることで、あらゆる行動におけるユーザーの人物像をより高い精度で把握しようとしている。購買履歴をもとに、買い物客の「統合ID(Unified ID)」を構築するのが狙い。系列企業であるフリギーは、このエコシステムを利用する毎月500億人以上のアクティブユーザーのデータベースを最大限に活用していくだろう。

テンセントの「ウィーチャット(WeChat)」も競争相手の一社であり、同じく幅広い範囲を対象に、予約・購買の流れをとらえようと動いている。海外ホテル各社は、WeChatのミニ・プログラムと自社の予約システム(CRS)を接続し、リアルタイムで客室の在庫や価格情報を提供できる仕組みを導入開始している。

パン・パシフィック・ホテルズ・グループのチン・タン(Cinn Tann)最高営業マーケティング責任者は「フリギーの当社店では、パン・パシフィックおよびロイヤルパークホテルの情報がオンラインで利用できる。さらにWeChatのミニプログラムで、中国人ユーザーを対象にした旅行案内やコンシェルジュサービスのライブ提供も開始した」と話す。

2. 膨らみ続けるパイ、中国オンライン旅行市場

中国の旅行市場規模は、2017年実績で5兆4000億元(約92兆円)、このうちシートリップ(Ctrip)は約10%のシェアを誇る。同社の共同創業者であり、現在は経営執行役会長のジェームズ・リャン(梁建章)氏は、ITBチャイナで、トラベルデイリーチャイナ紙の質問に対し、「総取扱高(GMV)は伸びている。マーケット全体が成長しているので、当社の市場シェアも大きくなっている」と話した。

一方、アナリストの見方はこうだ。

「中国はユニークで特殊なマーケットとして台頭してきた。様々な要素が錯綜する複雑な業界であり、一つのお手本となるビジネスモデルを真似すれば、誰でもうまくいく、というわけにはいかない。ホテル客室の流通、航空券の発券など、どの部分も複雑だ。大半のプロダクトで標準規格もない」

「人海戦術で動かしているところも多い。例えばシートリップの場合、コールセンターで1万5000人のスタッフを抱えている。これを真似するのは大変だ」。

シートリップでは、既存の顧客層を満足させられるように高いサービス基準を維持する一方、中国各地の中小都市で新規顧客を開拓しようと、オフラインの店舗展開も進めている。だがホテル利用者マーケットの最下層では、まだオフラインでのやり取りが主流で、非常に細かい業務に追われることになる。

シートリップは、トラベリング・ベストワン(旅游百事通、Travelling Bestone)に出資することで、中国国内200都市以上に店舗を獲得、オフライン拠点とした。現在、同グループが様々なブランド名でフランチャイズ展開するオフライン店は6000か所以上。こうした店舗営業でのGMV総額は、今年第1四半期で前年同期比50%増だった。

3. 中国系パートナーを探す外資各社

中国進出を狙う外資系企業にとって、絶対必要な2つの要素がコラボレーションとローカライゼーションだ。アコー、マリオット、ルフトハンザ、エミレーツなど、世界的な旅行ブランド各社と同じように、地元の人々や現地のやり方、プラットフォームなどをうまく活用することが、外資系の成功には不可欠だ。チャレンジングな中国市場において、いきなりナンバーワンを目指すべきではない。それより戦略的アライアンスを組む方が賢明なやり方だ。アコーやプライスラインは、数年前にこうした道を選択している。

一方、ルフトハンザ・グループは、中国のショッピング客をターゲットにするならイノベーションは無視できないとの考えから、フリギーやバイドゥ(百度)系列の旅行検索サービス「チューナー(Qunar)」とのシステム連携を実現。両サイトに対し、ルフトハンザが直接、発券する仕組みだ。

フリギーについて、ルフトハンザ・グループのヴェリ・ポラート(Veli Polat)中国地区営業担当シニアディレクターは「コントロールしているのは我々の側。例えばフリギーでどの発着路線を積極的に売るかは当社が決めている。必然的にシートリップより当社とのかかわりは強くなる」と話す。

「新しい接続体制が動き出してからが、本当の意味での挑戦になるだろう。非常にダイナミックなタッチポイントになるが、販売チャネルとして活かせるかどうかが課題。やるべき事がたくさん出てくるだろう。今はまだ色々と学んでいる段階だ」と話す。

4. ビジネストラベル

中国の法人旅行市場は、関係各社にとって、魅力的な条件が整ったマーケットだ。景況感は好調で、政府が推進する「一帯一路」構想も好材料。しかし出張旅費マネジメント全般において、改善点は多数ある。画一的な出張規約や、社内規定の順守率の低さ、複雑で面倒な払い戻し手続きなどは見直す必要がある。

BCDトラベル社の中国地区担当マネジングディレクター、ジョナサン・カオ氏によると、最近では旅費の承認手続きに電子フォームが採用されるケースが増え、紙のレシートでの手作業が減るなど、トラベルマネジメントの分野は、徐々に前進している。また、社員の旅費の使い方を解析し、業務の効率化に何が必要かを検証するといった取り組みも盛んだ。

5. 本業をしっかり育てる

海外企業が中国で罰則を受けることは少なくない。マリオットはウェブサイトを一週間、閉鎖するよう命じられたことがある。同社が作成したオンラインアンケートの中に、中国の一部地域について、別の国のような表記があったことが理由だった。逆に、スターバックスは、同社が実施した取り組みが評価され、ニュースで好意的に取り上げられた。拡張現実(AR)で同社のストーリーを紹介したり、顧客が列に並ばずに済むサービスを導入したり、いずれの場合もアプリを上手に活用した。今年初めにスターバックスが開設した中国市場向けのウェブサイトも好評だ。

ある関係者の指摘。

「外資系旅行各社が検証するべきことは多いだが、その一つが、中国が掲げるサイバーセキュリティ法(CSL)の不透明さ。この法律が、中国における外資系企業のビジネスにどう影響するのか、どう備えるべきか。同法は、企業によるデジタル情報の扱い方に関するもので、中国本土からのデータが持ち出しについて、その条件や可能性について定めている」。

別の企業の幹部は「デジタル広告の影響力は大きいので、“自社ブランドへのリスク”をよく検討した上で、広告を打つべきだ。意図していなくても、たまたま自社ブランド広告が表示された場所が、不適切なコンテンツの隣だった場合、ブランドイメージが損なわれる危険もある」と十分な注意を促している。

6. 流通におけるホテルの悩み

ホテル各社は、新しい流通チャネルでの販売に反対しているわけではない。しかしフリギーなどのプラットフォームで、B2Cのオンライン仲介業者が卸売り価格をそのまま出してしまう事態には頭を悩ませている。あるホテルのシニア・エグゼクティブの話。

「そうした事態はすでに発生しており、中には、主要OTAのサイトで卸売りレートが出てしまうケースも。そうなると、ホテル側はホールセラーやB2Bパートナーに卸す価格や利益マージンを見直すしかない。この先、どういう状況になっていくのか心配している。ホテルが卸したレートが、そのままOTAに掲載されるなら、(仲介)業者に高い利幅や、安定したレートを出す意味はあるのか。プラットフォームは活用したいが、中国のその他の旅行業者との信頼関係を壊してしまうリスクは背負えない」。

外資系のホールセラーと、台頭する中国系の同業者との競争が、以前より激しくなっているのも、最近の傾向だ。テクノロジーと流通面でしのぎを削り、取引相手の旅行会社を奪い合うようになっている。例えばミオジ(妙计旅行、Mioji)では、人工知能を使ったSaaS(サービス型ソフトウェア)プラットフォームを旅行会社に提供し、エンドユーザー向けの旅行プランニングなど、E2E業務を支援している。例えば、リアルタイムでのデータアクセス、旅程の自動作成、パーソナライゼーションなどの機能を提供、生産性の向上につなげている。

7. 各種メディアを活用し、リーチとエンゲージメントを獲得するために

「中国インターネットウォッチ(China Internet Watch)」が今年5月に発表したレポートによると、月間のアクティブユーザー数が最も多かったモバイルアプリの1~10位は、WeChat、QQ(キュキュ)、アリペイ、タオバオ、iQiyi(爱奇艺、アイチーイー)、テンセント・ビデオ、バイドゥ(検索)、ウェイボー、Youku(ヨウク)、そしてQQブラウザ。旅行関連アプリでは、このほかにQyer(穷游、チョンヨウ)やMafengwo(马蜂窝、マフェンゴウ)、ライブ・ストリーミングや動画プラットフォームのドウイン(抖音、Douyin)などがある。

旅行各社によるメディアミックスの広告展開などについて、ドラゴントレイル・インタラクティブ共同創業者兼CEOのジョージ・カオ氏は、目的と予算に応じて、手法は変わると指摘する。メディアや流通チャネルの分断化に対処し、コンバージョン率やブランド認知度アップのキャンペーンを行うなら、クリエイティブになることが大切だと主張する。中小旅行会社であれば、あらゆる予約経路をカバーしてくれる一つのエコシステムを選ぶのが賢明だ。

カオ氏は「WeChatは、旅のすべてを網羅してくれる数少ないアプリの一つ。消費する段階から、旅行を終えたあとまでカバーできる」と話す。

だがバイドゥ、アリババ、テンセントなど大手グループの場合、自社エコシステムの外にデータが出ることは認めていないため、広告主が選べる出稿先メディアは制限される。カオ氏は、こうした面倒な状況への対策について、以下のように考えている。

「自社に合ったニッチ、オピニオンリーダーやセグメントなどを見極めること。そして自分から率先して動くこと。例えば抖音 (ドウイン。モバイルで15秒の動画を流すプラットフォーム)は、比較的若い世代をターゲットにしたアプリという点で、似たようなサービスもあり、内容もくだらないジョークなどで、評価は今ひとつだった。しかしデスティネーション紹介を始めたところ、若者だけでなく、年配層からの反応もよくなり、有効なプラットフォームの一つとして注目されるようになった」。

同氏は、わずかでも時間を使ってくれた相手に対し、インスピレーションやヒントを与えられたか、実際の予約や購買へと近づけられたか、しっかり確認することが重要だと話す。実際、キャンペーンやチャットボットの会話で使った絵文字が一つだけ場違いだったせいで、すべてが台無しになることもある。

8. 人工知能(AI)

中国では、AIが研究所を飛び出してビジネスの現場に登場、消費者向けのアプリケーションに活用されている。旅行の分野では、旅のプランニングから購買まで、様々な場面で、AIがユーザーのお手伝いをしている。複数デバイスをまたぐクロスデバイス・ターゲティングが進化し、それぞれのユーザーに合ったおすすめ情報、チャットボットを使った顧客サービス、興味ある分野に関する広告やコンテンツなどが提供されている。

今回のITB中国で特に興味深かったのは、言語の壁を越えて会話できる各種デバイスが、以前より格段に使いやすくなったことだ。ITB中国のスタートアップ大賞を受賞した企業の一つ、タイムケトル(Timekettle)が披露したのが、新しい翻訳サービス機器「WT2トランスレーター」だ。スマートでウェアラブルなイヤフォンで、リアルタイムで翻訳した内容を聞くことができる。(受賞したもう一社はTravelFlan)。

タイムケトルのアレックス・クイン共同創業者は「今のところ、AIを使ったアプリで秀逸なのは翻訳機能」と言う。

同社のデバイスは、アプリに接続できる2つ1組のヘッドセット。会話するそれぞれが装着する。自分が話した音声は、ヘッドセット経由でスマートフォンへと流れ、そこで翻訳処理。相手のイヤフォンからは、翻訳した内容が聞こえる仕組みだ。

次回の「ITB中国」は、2019年5月15~17日、上海で開催される。会場は上海世博展覧館。

※編集部注:この記事は、世界的な観光産業ニュースメディア「トヌーズ(tnooz)」に掲載された英文記事を、同編集部から承諾を得て、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集しました。執筆者は国際イベント「ITB中国」の共同主催者であるトラベルデイリーチャイナ紙のジャーナリストで、tnooz以外に同紙にも同内容が掲載されています。

※オリジナル記事:

著者:リテーシュ・グプタ氏(トラベルデイリーチャイナ紙 )

  

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