日本のIR(統合型リゾート)になるための必要条件を読み解いてみた、展示場サイズから客室面積まで

統合型リゾート(IR)を知るシリーズ 連載第2回

横浜市、大阪府・市、長崎県をはじめ、複数の自治体が具体的に招致を表明しているIR(統合型リゾート)。日本にIRができると、どんなことが起きるのか。IR=カジノととらえられがちだが、実際に最も影響が大きいと考えられるのが観光産業だ。シリーズ第2回では、観光を量的に大きく変えるインパクトを、具体的にひもといていく。

品川プリンス級の巨大ホテル誕生

まず、宿泊施設はどうか。

2019年3月に公布された特定複合観光施設区域整備法、いわゆるIR整備法の政令では、10万平方メートル以上の客室面積を確保するとともに、一定の広さとグレードを求めている。仮に1室あたり40平方メートルとすると、部屋数は2500室。大阪市は3000室を想定している。国内最大で4つのタワーから成る品川プリンスホテルの客室数は3500~3600室で推移しているといわれる。1室あたり40平方メートルより狭いと勘案すると、品川プリンス級の巨大ホテルが全国で最大3カ所誕生する。

ホテル業界にとっては、供給量の大幅な増加や競争の激化ではなく、むしろ新たな市場ができると考えられる。ラスベガス観光コンベンション協会によると、2018年のラスベガスのホテル稼働率は88.2%。実は、この高稼働率を担保している仕組みのひとつが、カジノプレーヤーへの部屋の無償提供(コンプ)である。IRのホテルは、コンプにより新たな需要を創出できる。

コンプはIR内のホテルにとどまらず、周辺の高級ホテルの部屋を買い上げて提供することもある。もちろん、IRを目的に訪れる宿泊客すべてが、IR内のホテルに泊まるわけではない。IR周辺の高級ホテルや旅館に泊まったり、廉価なホテルに泊まったりする需要も膨大に発生するだろう。このような需要だけでも、巨大なビジネスチャンスになる。

また、IR内のホテルの運営を受託するのも一手だ。海外のIR事業者は、ホテル運営に長けていたとしても、和風の旅館運営などのノウハウは少ない。日本ならではの宿泊施設に対するニーズが確実に考えられる。

東京ビックサイト級のMICE施設

次に、MICE施設を取り上げてみよう。IR整備法の政令では、巨大なMICE施設を備えることが定められている。具体的には下記の3タイプ。どれも、これまでの日本にはなかった施設である。

  1. 12万平方メートル以上の展示場
  2. 6000人収容可能な国際会議場
  3. これらの中間規模の展示場と国際会議場を併せ持つ

国内最大の展示場である東京ビックサイトの展示面積は9万6000平方メートル。拡張工事が完了しても11万6000平方メートルだ。さらに、国内最大の会議ホールである東京国際フォーラムのホールAは5012席である。つまり、IRによって東京ビックサイトや東京国際フォーラムを超える規模のMICE施設ができることになる。

このことは、長年、会場不足に泣かされてきた展示会や国際会議、イベントの主催者にとって、一気に選択肢が広がり、事業拡大のチャンスになる。装飾会社やPCO(会議運営サービス会社)、通訳会社、ケータリング会社などMICEの支援企業も、一部IR事業者が自前でサービス提供する部分があるとはいえ、市場全体は急拡大する。MICE参加者のための移動手段、宿泊、エクスカーションの手配といったビジネス・トラベル業務も大量に発生する。

強化不可避なコンベンションビューロー

一方で、地域の事業者の間では、「近隣に巨大なMICE施設ができると、既存施設の需要が奪われてしまうのではないか」と不安する声も上がっている。確かに一部イベントは、新設IR内の巨大なMICE施設に会場を移す可能性もある。ただ、それ以上に市場拡大の効果は大きいだろう。なぜならば、MICEセールスに長けた海外のIR事業者が、日本市場を世界に本格的に売り込むからだ。これに伴う需要が、既存のMICE施設にも回ってくると考えられる。

また、巨大なMICEイベントは施設単体では対応しきれないため、近隣の他施設も一緒に地域一体で誘致を行うことになる。こうしたデスティネーション・ビッドを統括するのが、各地の観光コンベンションビューロー。地域のMICE施設や宿泊施設、観光施設、飲食施設等を束ねる調整力、海外含めた他地域との激しい競争を勝ち抜く営業力など、観光コンベンションビューローの機能も大きく強化しなければならないだろう。

*この記事は、IR専門家のアドバイスのもと、トラベルボイス編集部(IR取材チーム)が執筆したものです。

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