航空流通の未来はどうなる? 新流通規格NDCが一気に前進、最終ゴールに「古いレガシーは不要」【外電】

国際航空運送協会(IATA)が推進する航空流通における新しいスタンダード、新流通規格「NDC」導入が進むなか、IATAでは、次の展開に向けた構想が動き出している。

IATAによると、2020年にNDC普及は加速した。パンデミックにも拘わらず、同6月時点で、非直販の流通に占めるNDC経由での予約シェアは、目標としていた20%を達成。ただし、そのほとんどは国内線のレジャー需要だった。

IATAの流通プログラム担当ディレクター、ヤニック・ホイレス(Yanik Hoyles)氏は、航空各社による新しい接続機能の開発やGDS各社の状況が前進したこと、さらに「非常に大型の商業契約」が2020年に合意に至ったことを理由に挙げる。

具体例としては、エールフランス・KLMとアマデウス、ルフトハンザとセーバーがそれぞれ数か月間に渡る交渉を経て合意に至ったこと、さらにルフトハンザとアメリカンエキスプレス・グローバルビジネストラベルによる契約合意もあった。

企業間の取引形態が「触れてはいけないタブー」として放置されることは多々あるが、IATAとしても、この分野で何が起きているのかを正しく理解した上で、先へと進む必要がある。

リテール業務についての合意形成

「まず、地殻変動と呼べるぐらい、物事が大きく動き出したことはグッドニュースだ」とホイレス氏。「大規模な投資が決まり、進化が始まり、外部に対して閉ざされていたロックが解除された。おかげで先行き不透明な状況がひと段落し、この後に続く人たちは、もっと簡単かつ迅速に取り組めるようになる」。

ホイレス氏によると2020年4月、IATAは航空各社から、NDC標準化とその普及に向けて、引き続き尽力するよう迫られた。なぜならNDCはすでに「戦略的な流通チャネル」になっているからだ。

さらにIATAは、トラベルマネジメント会社(TMC)や法人顧客の購買担当からも、リテール分野にもっとフォーカスしてほしいと要望を受けた。

航空各社と流通パートナー各社の間では、「リテールの刷新をもっと急ぐ必要がある」とのコンセンサスが出来上がっているとホイレス氏は指摘する。

IATAではこうした状況を念頭に置きつつ、2021年に取り組む3つの課題を策定、航空リテール業務を一気に前進させる方針だ。

ホイレス氏は「IATAでは、これから航空流通の話題を取り上げることが増えるだろう。航空業界でも、バリューチェーンにおいても、商品の提供と注文の場を実現することが最終ゴールだと考えている。言いかえると、そこに古いレガシーは不要だ。IATAのすべてのプログラムを取り入れることは、今よりも顧客中心の世界を切り拓くことにつながる。Eチケット、EMD(電子証票)、PNR(搭乗客の氏名記録)でリテール業務はできない」と話す。

第一の課題は、テクノロジー標準化のメリットを活かし、取扱い規模という壁をどう超えるかだ。その一環として、IATAでは新しいランキング評価や認定手法の必要性を検討している。

2021年末までに、新しい認証プログラムを固めたいと考えており、ホイレス氏はこれを「航空リテール業務の完成形プログラム」と呼ぶ。

完成形プログラムがカバーするのは3つの要素になる。まずテクノロジー面での認定、次にそのテクノロジーを実際に活用したパートナーシップについて。そして最終的に、価値を生み出しているかどうかだ。

さらに技術面についても、様々な作業が行われているところで、IATAでは「絶対的な基準となる最終決定版」(ホイレス氏)を目指している。

「業界側が求めているのも同じことで、(参画を)希望する場合、どの領域を統一するべきか、より共通項の多いところが分かるようになる。テクノロジー企業から、こうしたリクエストがあったが、一部のTMCからも同じ要望が出ている」。

「乗船」を急げ

第二の課題は、NDC導入完了まであと少しだったり、ヘルプが必要な航空会社の参画を促すことだ。

「すべての航空会社に対して手を差し伸べ、どういう段階にあるのか確認したいと考えている。NDC導入をまったく予定していないのか、それとも、計画はあるが助けがないと先に進めなくなっているのか。ようやくメリットが出始めているところ、模範的な事例など。それぞれの状況に応じて、次のステップへ進むために何が必要なのか、我々も把握したい」。

NDCという船に乗り込む予定のない航空会社や、財務的にこれ以上進めるのは難しい航空会社もあるだろう。

例えばデルタ航空は9月にNDC開発計画の休止を発表し、既存の流通エコシステムでの業務を続ける方針を明らかにした。

他の航空会社も、特に二番手のキャリアからは、これに追随する動きが出てくるとの見方もある。

ホイレス氏は、現状下では、各社それぞれの戦略に左右されるという。

「二番手キャリアの場合、どこも財務的に苦しいのは理解できる。我々としても、できることは全てやるべきだ。限界はあるが、最善の事例や新しいアイデアをシェアしたり、必要な人に紹介したりしながら、新しいスタンダード作りを手伝う」。

またIATAでは、旅行会社やTMCとの協働にも力を入れたい考えで、「法人旅行におけるNDC導入を阻む問題を解決する」(同氏)ことが狙いだ。

パンデミックの打撃で、TMC業界は縮小を余儀なくされるとの見方が主流で、すでに事業の統合も始まっている。この厳しい状況がいつになったら収束するのか、予測するのは難しいとホイレス氏は見る。

「私に言えるのは、テクノロジー対応のスピードが、いっそう重要になっているということ。大企業でも中小事業者でも、規模は関係ない。これから世界がますますデジタル化していくなか、これを受け容れることが本当に大切になる」。

第三の課題は、敏捷性とプロダクトデザインについてだ。IATAでは目下、ネットワーク・プランニング・マネジメントに関与できるか調査中だ。

さらにIATAでは、「マーケットに対するダイナミックオファーの具体例」を考案することも、第三の課題に取り組む段階で、実現したいと考えている。

ホイレス氏によると、「最終ゴールは、みんなが理解するようになった」。

IATAの願いは、自らが作り上げてきた新しいスタンダードと、企業間で続く様々な取引交渉、GDSの技術的な準備の完了、そして法人旅行各社とIATAによる取り組みが、相乗効果を生むことで、航空会社のリテール業務の進化が加速することだ。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:What's next for airline distribution as IATA pushes its retailing vision?

著者: リンダ・フォックス

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