星野リゾートがコロナ禍に開業を続ける理由とは? その背景とコロナ後見据えた新プラン、ワーケーションへの期待を聞いた

星野リゾートは2021年4月14日に開催した定例プレス発表会で、2021年から2022年にかけて計9軒を新規開業すると発表した。

このうち、九州には温泉旅館ブランド「界」を3軒、京都には都市観光ホテルブランド「OMO」を3軒開業。そして沖縄には、昨年7月のコロナ禍に開業した「星のや 沖縄」に続き、那覇に「OMO」をオープンするなど、新規開業が集中する地域もある。

九州での展開を強化

新規開業について星野リゾート代表の星野佳路氏は、「なんといっても、長い時間をかけてきた別府が6月に開業する。星野リゾートはこれまで九州は1施設のみだったので、今年1月の霧島に続く別府の開業は非常に重要」と述べ、九州での展開を強化する方針を強調した。

「界 別府」は設計・デザインに隈研吾氏を迎え、館内で別府の温泉街を体験できるような温泉旅館を目指した。総支配人の廣岡太郎氏は「界は、地域の方々と作る客室やプログラムが豊富にある。コロナ禍だからこそ開業計画を止めることなく進める。この状況を生き抜くには地域との連携を続けることが重要」と話す。

「界 別府」のご当地部屋は、別府湾を一望できる「ピクチャーウィンドウ」と「豊後絞り」など地域の伝統工芸や文化をデザインに多用したのが特徴

沖縄・那覇を選ばれる観光地に

沖縄について星野氏は、「沖縄らしい独自のユニークな要素を伝えていくことが大切」と言及。星野氏によると、沖縄の観光の現状は、オンシーズンは夏のみ。それ以外のオフシーズンは稼働を上げるために単価を下げており、「それが生産性を低下させ、沖縄全体の経済に良い影響を与えていない」と考えている。この状況を改善するためにも「沖縄観光は文化、または自然に寄せていくことが必要」といい、地域性をいかす星野リゾートの強みを発揮させる考えだ。

5月開業の「OMO5 沖縄那覇」では、那覇の街全体を楽しめる滞在を提案。これまで、フライトスケジュールや予算の都合など消極的な理由で宿泊地に選ばれがちだった那覇の観光を見直し、「素敵な観光地と思われるようにすることが我々の役割。上質な滞在時間を紹介できるホテルを目指す」(星野氏)。国際通りや首里城エリアなどの街歩きツアーなどを提供するが、那覇でこうしたサービスを提供するホテルは星野リゾートだけだという。

なぜ星野リゾートはコロナ禍でも開業し続けるのか。発表会で示された答えは、「星野リゾートの大切な使命は、旅の楽しさを発信し続けること」。地域と連携する観光は、コロナ後も重要な産業であり続けるとの信念のもと、「計画は止めることなく行なう。そして、人々が行きたいと思う観光地には星野リゾートがある姿を目指していく」という。

星野氏も、新規開業のスケジュール変更はあっても「中止になるものはない」と強調。地域とコミュニケーションをとり、一過性の需要で終わらない持続可能な観光地としていく考え。そして「この時期にしっかり進める必要がある。2023年にはインバウンドを2019年並みに戻せる可能性があるとみているので、そこに向けて取り組む」とも説明した。

コロナ後を見据えたアクティビティ・プラン企画も

「先手打つことが、星野リゾートを有利にしてきた」と話す星野代表。コロナ禍では危機対応と同時に、コロナ後を見据えた新たなアクティビティやプランも考案しており、発表会ではその一部を公開した。

例えば、ファミリーリゾートブランド「リゾナーレ」では、コロナ禍で生まれた社会問題の中で、子供の“ゲーム・動画漬け”に注目。外出自粛の中でゲームに走るストレスを解消できるのが旅であるとし、「そこに一役買えるのがリゾナーレ。ゲームを超えるリアルで楽しい体験を提供する」(リゾナーレ那須・総支配人の松田直子氏)とアピールする。

そこで今夏に実施するのが、「リゾナーレの自由研究」。雲海テラスが人気のトマムでは、雲海の発生メカニズムを学び、自ら雲を作る実験を行う。小浜島ではサンゴの生態を学んだあと、海に出てシュノーケルしながらサンゴを観察する。これらの体験は最後にワークシートにまとめ、子供の夏の自由研究として完成できるように企画したという。

「リゾナーレトマム」では、雲海の発生メカニズムを学び、自ら作り出すほか、翌朝の雲の発生予測まで行う本格的な自由研究を提供する

このほかにも、コミュニケーション機会が減少する中で、人との出会いが楽しめる一人旅を提案する「ふれあい一人旅」や、コロナ禍でペットを飼う人が増えたことを踏まえた「ペット旅」を強化。また、企業とのコラボも積極化し、例えばJR東海とは、旅行需要の平準化を提唱してきた両社で、混雑を避ける「家族のずらし旅」をテーマにした企画を「リゾナーレ熱海」で実施する。コロナ禍でワーケーションの一般認知が高まり、平日でも家族で旅行先に滞在しやすくなったことを踏まえた企画で、コロナで生じたトレンドを次の一手に生かしている。

ワーケーションは残ってほしい社会変化

ただし星野氏は、コロナで生じた新たなトレンドについて、コロナ終息時には「すべて元に戻る」と予見する。そのなかで星野氏が「コロナ後も残すべき社会変化」として期待しているがワーケーションだ。

その理由は明白。これまでは年間365日のうち、およそ110日程度の休日のみ観光需要が発生していたが、「ワーケーションによって残りの仕事の日も観光地で過ごしてもらえる。仕事の日を観光需要に取り込める大きなチャンスになる」(星野氏)からだ。

星野氏はコロナ後もワーケーションを残すために、2つの環境整備が必要という。1つは、観光地側での受入環境の整備。そしてもう一つは、ワーケーションに関する法整備だ。特に後者については、「労働時間の申告に対する企業と労働者側の責任を労働基準法などで明確にしなければ、企業が制度的に残すのが難しい」(星野氏)とし、この部分に取り組む必要があるとの考えを示した。

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