観光産業の未来のために、観光マーケティングはどう進化すべきか? サステナブル観光の新定義など新たな潮流を考えた【外電】

世界各地でようやく旅行が再開されつつある今、私たちは、新型コロナウイルスを機に得た教訓を活かすことができる段階に入った。ツーリズム分野では、環境や、経済と生態系のデリケートなバランス関係に対し、人間がもたらす甚大なインパクトが誰の目にも明白になったからだ。

旅行者が激減した結果、世界各地で生態系の改善が報告されている。ベネチアでは、運河の水が透明度を増し、ロンドン東部では鹿の姿が増え、地球全体で二酸化窒素の濃度が低下した。その一方で、旅行者を受け入れていたデスティネーション各地の経済は沈んだ。

さて、この先はどうなるのか。旅行の再開に伴い、野放図な状況に戻ってしまうのだろうか?

観光産業はコロナ危機を通じて、持続可能な旅とは何か、再評価と再調整を行い、改めてその定義を考える機会を得た。その延長線上にあるデスティネーション・マーケティングの未来の姿についても、当然、再考する機会になったと私たちは信じている。

マーケティングでは、デスティネーションに送客した人の数だけを成功の指標とするのではなく、旅行者の訪問が地域にどんな影響を与えたかを評価するべきだ。旅行者が去った後、生態系と経済の両面から効果測定を行う必要がある。

未来の旅は持続可能であるべきということは、すでに様々な観点から指摘されてきたが、持続可能の定義そのものが「害を与えないこと」から「有益であること」へと進化している。

こうした姿勢をいち早く取り入れることが、訪れる旅行者と地元コミュニティの共存共栄、生態系にも経済にもメリットがある状況の実現につながるだろう。

多くの旅行者は、持続可能であることを心から願っているし、世界中がつながって無関係ではいられなくなった時代における道徳的要請とも言える。消費者も思想的リーダーも、企業に対し、環境に対する責任をますます求めるようになっている。

例えば、世界最大の資産運用ブラックロック社のラリー・フィンクCEOは、企業に対し、持続可能性に優先的に取り組むよう求めている。ブラックロック社では、191社をウォッチリスト(要警戒リスト)に指定しているほか、69社および64人の経営幹部について気候問題に関する理由から反対票を投じている。

「企業が気候変動や関連する諸問題に本格的に取り組むほど、マーケットの反応は好転し、市場評価が上昇する」とフィンク氏は経営トップに宛てたレターに書いている。

ずっと我慢していた旅行への反動が始まるなかで、受け入れデスティネーション側のマーケターはどのようにすれば、この気運を最大限に活かせるのだろうか?

米国の世論調査ハリスによると、パンデミック終息後、何にお金を使いたいかという北米での調査結果の1位は「旅行」だ。またアメリカ人の半数は、旅行の計画をスタートしたり、2021年夏の旅行を予約完了している。マネジメントとマーケティングを駆使して、唯一無二の旅行体験を創り出そう。

そのカギとなるステップを紹介する。

理想を決め、その達成に向けて行動すると同時に発信しよう

まず、持続可能なツーリズムを掲げ、プロモーションしていく上で、何を目指すのか明白にしよう。大いなる野望をすぐに達成する必要はないが、やるべきことを分かりやすく整理し、理想の実現に向けて、何をするのか決める必要がある。

Future of Tourism Coalition(未来ツーリズム同盟)やGlobal Sustainable Tourism Council (グローバル・サステナブル観光協議会=GSTC)などの認可団体に参加したり、国連による持続可能な観光承認(CST)の取得を目指して動き出すのもよいだろう。

こうした取り組みや活動については、旅行者や地元住民、地場産業界などに対し、積極的に発信し、関係者からの協力を歓迎していること、協力するメリットについても知ってもらおう。ターゲットとなる対象者との関係強化や、ライバルとの差別化につながるように、何か大規模な仕掛けができないか検討してみよう。

例えば、ヴェイル・リゾート(Vail Resorts)は2017年、排出ガスを2030年までにゼロにする目標を発表し、実現に向けて広報活動を強化している。

旅行者の位置づけを、問題の「原因」ではなく「解決策」に変えよう

ブッキングドットコムによる2020年の調査「持続可能な旅行展望」によると、持続可能な旅は重要であると考えている世界の旅行者は全体の82%、旅行会社はもっとサステナブルな旅行の選択肢を消費者に提供するべきだと答えた人は72%を占めた。

こうした数字は、生態系にも経済にも朗報ではあるが、現状は、もっとグリーンな旅行をしたいと思っても、どうしたらよいのか、どこから始めたらよいのか分からない人が多いということだ。ナショナルジオグラフィックの調査では、サステナブルな旅行とは何か、十分に知っている人は、大人のわずか15%にとどまった。

ブッキングドットコムのレポートでも、旅行者の37%が、従来より持続可能な旅をする方法が分からないと認めている。つまり旅行者側には、より良い選択をする意志が間違いなくあるものの、手助けが必要ということだ。こうした「善意の溝」を埋めるために、マーケターが果たすべき役割はとても重要だ。

人々に旅行者としての「責任」を訴えるキャンペーンは、もはや珍しくない。誰も異存はないし、すでに実施しているところもある。それよりも、小さな行動の変化を促すことにフォーカスしてほしい。それがやがて大きなインパクトを形成する可能性があるからだ。

アイスランド・ツアー協会(ITB)では、オーバーツーリズム対策にあたり、持続可能性という視点を既存のキャンペーン「Inspired By Iceland(アイスランドにインスパイヤされて)」に加えた。こうして生まれたのが「アイスランド宣言」だ。同国に滞在する旅行者に、自然を尊重すること、旅行中は責任ある行動をとることを宣言してもらうという趣旨だ。

宣言の内容は、「私は素晴らしい写真を撮ります。でも撮るために無茶はしません」、「未知の世界を探求します。でも道がないところに分け入ることはしません」といった具合だ。

一方、「ステイ・ワイルド」キャンペーンを展開するジャクソンホール旅行観光協会では、訪問客がインスタグラムに投稿する際は、位置情報を示すジオタグではなく、「責任をもって、ジャクソンホールの自然をそのままに」とのタグ付けをお願いしている。

これが効果を発揮し、交通問題や、不注意により繊細な自然環境を害する行為が減ったほか、旅行者がきちんと許可されているトレイルに沿って歩くようになった。また同キャンペーンによるメディア露出効果は最終的に9億人以上となり、持続可能な旅行に取り組む先進的な地域として、ジャクソンホールの名をアピールする効果もあった。

フェロー諸島では2020年、観光による島固有の自然資源への負荷を理由に、年に2日間を特別な日とし、「メンテナンスのため閉鎖中。ただしボランツーリズム(ボランティア・ツーリズム)のみ受け入れ可能」とした。

この間、すべての観光地や施設は閉鎖するが、道の整備やゴミ撤去、標識の設置などを行うボランティア旅行者と、そのお手伝いをする地元住民は入ることができる。

ボランティアを受け入れる場所は計11カ所あり、地元住民や農家などが選定した。作業を担うボランティア旅行者には、作業の報酬として、3泊分の食事と宿泊施設が無料で提供された。同じような試みを定期的に開催し、さらに発展させることが目標だ。

旅の最初から最後まで、責任ある行動がしやすい地域作りを

観光というのは、地域社会のあらゆる部分に影響が及ぶものなので、観光産業という枠を越え、運輸当局やエネルギー会社、地元の農家などと幅広く連携する方法を考えると、チャンスの拡大と負荷の軽減つながる。

地元の観光関係者や事業者をまとめ、もっとサステナブルな商品やサービス提供への関心を高めよう。例えば現地ツアー、宿泊施設、体験アクティビティ、食事メニューなど、様々な商品開発が考えられる。

非常に参考になる事例の一つがコスタリカだ。持続可能なツーリズムに取り組んだことで、地球環境への配慮と、地元経済の活性化や地域社会の積極的な参画がうまく融合し、両立するようになった。同国は2019年、国連による環境賞の最高位「地球大賞(UN Champion of the Earth)」を獲得している。

同国で使用されている再生可能エネルギーの比率は99.2%という驚異的なレベルで、エコツーリズム分野での先駆的な取り組みが奏功し、2019年以降、観光需要も大きく成長した。コスタリカの持続可能な観光認証(CST)では、事業者をグリーン化の努力により0~5段階で評価しており、同分野の世界標準を管理する組織、GSTCの認可も受けている。

今年は、世界の人々の旅行意欲に火が付くような場面が増えるだろう。さらにデスティネーション・マーケティングに携わるみなさんの努力があれば、旅行のあり方を再考する機会にもできる。大きな野心を掲げ、実現に向けて力を尽くすと同時に、それを対外的にも発信しよう。小さなことを簡単に変えられる状況を作り、消費者の行動の変革を促そう。

同じような考えを持つ個人や団体と手を組むことで、数の力を拡大し、持続可能性を実現する機運を高めていこう。

どれも一つ一つはささやかな一歩にしか見えないが、やがて持続可能性を促す無視できない流れを生み出し、将来に渡り、アクセシブルで美しいデスティネーションを維持すること、そして未来を支える経済基盤を形成することにつながるはずだ。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:How to evolve destination marketing for the future of travel

著者:ケイティ・アンダーソン氏、アリ・ボルガ―氏(Colle McVoy社)

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