JALの「ESG経営」と「CO2削減の3本の矢」とは? 2050年度に排出ゼロへ、待ったなしの対策を責任者に聞いてきた

JALは2021年5月、2030年に向けたJALグループのあるべき姿を示した「JAL Vision 2030」を打ち出した。そのなかで、成長エンジンとして掲げたのが「安全・安心」と「サステナビリティ」。さらに、JAL Vision 2030の実現に向けた2025年度までの中期経営計画では、経営戦略として「事業戦略」「財務戦略」とともに「ESG戦略」を3本柱のひとつと定めた。

環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に配慮した戦略、待ったなしの気候変動への対応でJALが進める施策とは?同社ESG推進部企画グループ・グループ長の亀山和哉氏に、その施策を聞いてみた。

「ESG戦略」を柱とした背景とは

JALは、2010年の破綻前からCSR活動として環境保全など持続可能な成長に向けた取り組みを粛々と続けてきた。そのギアを一段上げ、「ESG戦略」を経営戦略の柱のひとつとして組み入れることになった背景には新型コロナウイルスの影響がある。亀山氏は「想像以上に航空需要が落ち込んだ。旅行どころではない。人の流れが止まってしまった。そのなかで、JALグループとして何をすべきなのか考えてきた結果」と話す。

コロナ前から欧州を中心に「飛び恥(飛行機で飛ぶことは環境問題に対する意識が低い)」などのムーブメントが起こり、環境対策での航空業界への風当たりも強くなっていた。「人とモノを運ぶことは物理的にCO2を出してしまう宿命にある。今後事業を成長させていくうえで、CO2削減は切っても切れない」と亀山氏。JALにもサステナビリティはその存在意義に関わるテーマだという認識がある。

ESG経営に向けて、JALは「環境」「人」「地域社会」「ガバナンス」の4つの領域で22の課題と約180の取り組みを設定した。このうち、環境のテーマは「気候変動への対応」「限られた資源の有効利用」「騒音の低減」「環境汚染の予防」「生物多様性の保全」の5つ。そのなかでも、中期経営計画の5年間では、気候変動への対応と資源の有効利用に力を入れていく考えだ。

CO2削減に向けた3本の矢

CO2削減を中心とした気候変動対策は、2021年11月のCOP26でその喫緊性が示されたように、待ったなしの課題だ。航空局の資料によると、現在日本国内の運輸部門で排出されているCO2の量は、自動車が大部分を占めるが、次に多いのが航空部門で年間約1054万トン、全体の5%を占めると言われている。

JALによる2019年度の排出量は、国際線も含めた全体の航空機運航(スコープ1)で約909万トン、国内の地上施設(スコープ2)で約5.7万トンだという。今後何も対策を打たなければ、この量は2050年には計1200万トンにまで増えると試算されている。

そのなかで、JALは、2050年度のCO2排出実質ゼロを目標とし、その実現に向け、2025年度までに約50万トン、2030年度までに約200万トンを削減し、2019年度の90%レベルに抑えるロードマップを策定した。

削減方法は主に3つ。「省燃費機材への更新」「運航の工夫」「SAF(持続可能な航空燃料:Sustainable Aviation Fuel)の活用」。JALでは、削減寄与度をそれぞれ50%、5%、45%と見込んでいる。

JALネットゼロエミッションへの道(報道資料より)機材更新では、燃費効率の高いボーイング787やA350-900/-1000に順次更新。さらに「これまでの30年で燃費効率は2倍改善されたように、今後30年でもさらに燃費効率が向上する機体やエンジンが登場するだろう」(亀山氏)との期待もある。

このほか、2030年代後半から2040年代にかけて、新たなテクノロジーとして、電動あるいは水素を原動力とする航空機が商業化されると言われている。航続距離が短く、地上インフラの整備に莫大な資金が必要になるとこから、活用は限定的と見られるが、クリーンな航空機として期待は大きい。

運航の効率化については、JALは破綻以降さまざまな運航の工夫に取り組んできた。しかし、航空会社単独でできることには限界がある。例えば、滑走路でのタキシングの効率化などは空港との取り組みが必要になる。また、空港上空の混雑緩和では、空路や空域など国の施策や航空会社間のスケジュール調整にも関わってくる。JALとしては「業界全体で連携していくことで、運航効率を高めていく必要がある」(亀山氏)との認識だ。

2030年にSAFの搭載量を全体の10%に

そして、SAFの活用。SAFは、従来の石油由来のジェット燃料と異なり、藻類や廃食油、一般ごみなどを原料とする代替燃料のこと。航空分野におけるCO2削減の切り札として期待は大きいが、現状その流通量は全体の1%以下で圧倒的に少ない。JALでは、航空機への搭載量を2025年度で全体の1%、2030年度で10%という野心的な目標を掲げているが、先行きは不透明なのも事実だ。

現在、最も流通しているSAFは廃食油を原料とするもの。次にプラスティックを含む都市ゴミが続く。JALは2018年に、その都市ゴミからバイオジェット燃料を製造する米国のFulcrum(フルクラム)の株式の一部を丸紅と共同で取得。本格的にSAFの調達に乗り出し、2019年1月にはサンフランシスコから羽田へのSAF燃料を搭載した定期便を運航した。

亀山氏は「廃食油と都市ゴミがスケールアップしていけば、一定程度は増える。社会実装がうまくいけば、2030年の10%は可能になるのではないか」と見ている。

2021年12月には、ワンワールド加盟航空会社はアメティス社からSAFを共同購入することも決めた。それでも、2050年のネットゼロに向けて、SAFは足りない。大気中のCO2を再活用する技術が2040年ごろに社会実装されるのではないかと言われているが、商業化までの道のりは長い。

「FSC事業でも、具体的な環境対策を打ち出し、見える化していく」と亀山氏早急に求められる日本でのSAF戦略

現在のところ、SAFの製造・調達・活用では欧米が先んじている。欧州は、空港ごとにSAFの使用量が定められるなど「規制型」で推進。一方、米国は補助金などで商業化を進める「産業支援型」で連邦政府や州政府が後押しをしている。では、日本は?

日本でも現在、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を中心に国産SAFの開発が進められているが、当面はすべて輸入に頼らざるを得ない。国産SAFの商業化が可能になっても、すべてを国産で賄うのは現実的ではなく、輸入への依存も続く。「SAFは経済安全保障に関わる話」と亀山氏。ワクチン調達と同じ図式だという。

例えば、将来的にSAFを活用しないフライトには罰金的なクレジットが課せられることも考えられるという。日本でSAFの調達が難しくなると、外国の航空会社は、余分なコストがかかることになり、路線収支で採算が合わないと日本路線撤退ということもありうる。それは、成長戦略であるインバウンドにも関わることになる。さらに、物流でも日本の戦略的価値が下がってしまう恐れもある。

将来の航空の国際競争力にもつながるSAF。その危機感をJALだけでなくライバルのANAも共有。2021年10月、持続可能な航空燃料(SAF)の認知拡大と理解促進を目的としたレポート「2050年航空輸送におけるCO2排出実質ゼロへ向けて」を共同で策定し、SAFの量産と活用をワンボイスで発信した。

SAFの普及に向けては、サプライチェーンの構築も必要になる。現在、日本でSAF給油の実績があるのは成田と羽田だけ。構築には航空全般の「グランドデザイン」が求められ、航空会社単独で進めるには限界があるが、JALとしては「思いっきり積極的に関わっていく」(亀山氏)。同時に、国際的な枠組みでの存在感を示すためにSAFの仕様認証策定にも加わっていく考えだ。

さらに、SAFに限らず、サプライチェーン関わるスコープ3でのCO2削減に向けて、個人あるいは法人向けにクレジットプログラムを立ち上げる計画だ。

社会的使命としてのSAF

亀山氏は、ある大学でのSDGs勉強会に参加した時のことを思い返す。大学生から「企業側から、ペットボトルを何度もリサイクルし、使い続けるへきだと発信をしてください。私たちはそういう世代です」と言われ、「若い世代は変わってきている」と実感したという。

次世代に向けて、持続可能な成長にはさまざまなコストが付加していくことも考えられるが、「それを許容する社会になっていく必要があるのでは」と亀山氏。現状SAFは化石燃料に比べると高価だが、その普及には経済的側面だけでなく、社会的使命として受け入れられる環境の醸成が求められる。JALとしては、さまざまな場面で、そのためのコミュニケーションを続けていく考えだ。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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