インバウンド誘致でこれから実践すべきデジタルマーケティングとは? タビナカからメタバースまで、打ち手を取材した

グローバルOTAであるTrip.comグループは2022年12月、「2023年のインバウンド旅行トレンドを探る」と題し、オンラインセミナーを開催した。当日はTrip.comグループの日本戦略の方針や内容を説明。また、訪日旅行マーケットに関わる事業者や知見を持つ4者が出演し、今後の取り組みやマーケティングのトレンドについて話した。

冒頭、ビデオメッセージを寄せたTrip.comグループ最高マーケティング責任者であるスン・ボー氏は、同グループが「2023年の訪日インバウンドの急速回復を確信している」と述べ、日本の地域と観光事業者との連携強化や、同グループの多様なブランドとビッグデータを活用していく方針を示した。

JNTOの訪日プロモがフル再開、今後の観光マーケのポイントは?

セミナーでは、日本政府観光局(JNTO)理事長代理の蔵持京治氏が、水際対策の大幅に緩和を機にギアを上げ、訪日ツアーの造成や販売に向けた強力なプロモーションを開始していることを説明した。2022年10月から2023年3月までの半年間でメディアや旅行会社などの招請事業を25市場、航空会社や旅行会社との共同広告を24市場、リアル開催のイベントや商談会の主催・参加は21市場で実施する。

今後は、高い消費額が見込める「アドベンチャートラベル」と「高付加価値旅行」の2つを重点事業とし、サステナブルツーリズムとも絡めてアプローチを図る方針だ。蔵持氏は「日本の観光産業が自負する『観光が地域のサステナブルな取り組みを支えていく』という意思を応援する取り組みを進めている」と話した。

日本政府観光局(JNTO)理事長代理の蔵持京治氏

また、今後の観光のデジタルマーケティングのポイントについて、トラベルボイス代表の鶴本浩司が講演。(1)タビナカがさらに重要に、(2)仕事+休暇(旅先テレワーク)の普及期、(3)宿泊から「一定期間の滞在」への変化、の3点に絞って、解説した。

なかでも(1)では、特に重要になるものとしてMEO(マップエンジンの最適化)をあげ、「2023年にも本格化する」と指摘した。旅先でスマホ上のグーグルマップをはじめとしたデジタル地図上で行先を検索し、検討する人が増えている。MEOとは、その際に選ばれやすいようにする施策だ。

特にグーグルマップの場合、グーグルビジネスプロフィールに事業者もユーザーもレビューや写真を書き込むことができる。鶴本は「今、旅行をしている人が旅の最中にその地域を宣伝してくれる。この重要性が今後、増していく。また、事業者も情報入力とアップデートが大切になる」と話し、グーグルビジネスプロフィールが、旅行者の行動の判断となる時代になっていることを説明した。

トラベルボイス代表取締役CEOの鶴本浩司

空港を起点に地域活性化へ、メタバースでのアプローチも

セミナーでは、三菱地所の空港事業部長の葛西克彦氏と、2023年にメタバース(仮想空間)旅行サービスをローンチする予定のANA NEO取締役COOの渡邉勝氏が登壇。それぞれの地域活性化とインバウンドへのアプローチについて話した。

三菱地所では現在、北海道内7空港と高松空港、静岡空港、宮古島・下地島空港の計10空港を運営している。葛西氏は、「空港は、その先にある地域が目的地となる、地域活性化の入り口を担う事業」と同社の空港事業の特徴を説明しつつ、「インバウンドが伸びるといっても、日本各地が同じように伸びるわけではない」と指摘。

以前、葛西氏が手掛けた里山の風景が美しいホテルでの事例を引きあいに、「里山は日本らしい風景で外国人に喜ばれるが、それだけでは楽しみ方がわからない。そこにガイド付きサイクリングツアーを用意することで、ようやく外国から予約ができ、人が来て楽しんでもらえるようになった。こういう取り組みが必要」と説明した。

また、例えば首都圏に近い静岡空港では、関西や中部にも行きやすい特徴を生かし、「入口としていい位置。ここから日本の旅行をしてもらおうとしている」(葛西氏)。空港会社であるが旅行業を取得し、静岡の様々な魅力を含めた周遊企画を用意している。葛西氏は、各地で魅力を高める取り組みがされれば、日本は魅力あるデスティネーションの集合体になる。これを目指していきたい」と話した。

三菱地所の空港事業部長の葛西克彦氏

一方、ANA NEOが提供するのは、仮想空間のメタバース旅行サービス。バーチャルのプラットフォーム上で、国内外各地の旅先をリアルに近い体験ができるように再現し、旅先に関する情報の提供とともに、リアルでの旅行意欲の喚起にもつなげる。ANA NEOのプラットフォームでは、「SKYパーク(旅や観光の体験空間)」「SKYモール(ショッピング空間)」「SKYビレッジ(もう一つの暮らしの空間)」の3つのサービスで展開する。

すでにSKYパークでは、京都を優先的に開発。渡邉氏は、「京都に行ったらしてみたいことをそろえる。様々なガイドを用意し、新しい情報を提供できるようにした」とアピール。自治体や観光地、商業施設などと一体となって体験を作り、国内外に向けてアプローチしていく。約150か国地域でサービス提供を予定しており、すでに国内の自治体・DMOのみならず、海外観光局ともパートナーシップを組んでいる。

渡邉氏は「特徴は、インバウンド戦略と地方創生をメタバース空間で絡めていくこと」と説明。まずは旅のメタバースから開始するが、その先には学習やヘルスケアなど、他の業界への展開も見込む。オープンプラットフォームで様々な業界と手を組み、将来的にライフテックカンパニーを目指しているという。

ANA NEO取締役COOの渡邉勝氏

いつでも対応できる準備を

Trip.comグループ マーケティング部 駐日首席代表のブレンダ・リュー氏は、「日本の今後の戦略に関して」をテーマに出演。(1)ユーザー・旅行者、(2)プロダクト、(3)デスティネーション、(4)プラットフォーム、(5)データの5つの側面で、グローバルでみられるトレンドと同社の対応状況を説明し、「旅行者の動向を熟知し、かつ、新しい傾向に対応できる準備を常に整えておく必要がある」と話した。

例えば、(1)ユーザー・旅行者については、同社の予約傾向から、個人化や先行予約、よりディープな体験への志向などがみられる。このうち、先行予約については、コロナ禍でコストパフォーマンスのよい価格や柔軟なキャンセルポリシーの設定などを強化したことで予約が増加。特に、1980年代~1990年代生まれの現役世代の予約が増加したという。

また、(4)プラットフォームでは、同社グループはTrip.comのほか、シートリップ、スカイスキャナーなどのブランドを持ち、世界で会員数4億人を有する。

これら5つの側面を踏まえ、リュー氏は今後の日本での戦略として、「傘下のブランドと会員システムを活用し、地域との連携のもと、変化する旅行者のニーズに対応していく」と話した。タビマエからタビアトの各シーンをカバーし、ポテンシャルのある潜在性のある旅行者に向けて正確にリーチしていく。

すでに取り組みは始まっており、例えばJNTOはグループ内の中国大手OTAシートリップがライブコマース(実演販売)を活用し、東北6県の認知と好感度の向上を図った。また、静岡空港とはプロモーションにIPコンテンツを活用。若年層の会員の関心を高めると同時に直行便のある都市にターゲティング広告を展開し、より有効なターゲットにリーチしたという。

リュー氏は、「感染症は依然として複雑な状況を生み出し、不確実性な状況にある」としながらも、「旅行へのニーズが大幅に減少しない限り、受け入れる地域や事業者はいつでも対応できる状態にしておくことは非常に大切」と話した。

Trip.comグループ マーケティング部 駐日首席代表のブレンダ・リュー氏

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