インバウンド富裕層旅行の商談会に海外バイヤー32人が来日、高付加価値な体験で地方へ、金沢・福井の視察ツアーに同行取材した

日本政府観光局(JNTO)は、高付加価値旅行推進の取り組みの一環として、「Japan Luxury Showcase」を開催した。対面で実施されるのは2019年度以来、4年ぶり。海外からバイヤーとして、欧米豪および中東からの旅行会社32人、国内セラーは高級宿泊施設やDMCなど40社が参加した。

高付加価値旅行者を地方へ

海外バイヤーは、VirtuosoやSerandipainsなどラグジュアリー旅行のコンソーシアムに加盟している旅行会社、あるいは100万円以上の旅行手配の実績がある旅行会社に限定。JNTOによると、よりラグジュアリー感のあるファムトリップを実施するために、あえて2019年度よりも参加社数を絞ったという。今回初めて中東からも招請。クウェートとUAEから2社が参加した。

JNTO市場横断プロモーション部部長の藤内大輔氏は「訪日市場全体で消費額を上げていくためには、高付加価値旅行の消費を上げていくことが必要」との認識を示す。着地消費額100万円以上の高付加価値旅行者による消費額は、全体の約14%(6700億円)を占めるが、その数は全体の約1%(32万人)にとどまっている。また、大都市圏での消費が多く、地方での消費が伸びないことも課題のひとつだ。

観光庁でも「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり事業」を推進。モデル観光地11地域を選定し、地方に高付加価値旅行者を誘客する取り組みを進めている。今年度中には、各地域で、ターゲットを明確にしつつ地域の特色を生かしたマスタープランを策定する予定だ。

JNTOでは、消費額100万円以上~300万円以下をSelective Luxury層、消費額300万円以上をAll Luxury層に分けたマーケティング戦略を展開。Selective Luxury層では、特に訪日経験のある層や訪日に関心のある層の地方訪問を促進する取り組みを進める。

このほか、藤内氏は、高付加価値旅行を推進していくうえで「国内外の事業者とのネットワーク強化が課題」とするとともに、「それがJNTOに期待されている役割」との認識を示した。

商談会の前に実施された視察旅行は8コース。それぞれテーマを決めて実施した。例えば、せとうちでは「自然の豊かさとアートの世界を探求する旅」、鳥取・島根では「日本の古の文化や美意識に触れるたび」、鹿児島・屋久島では「人々の暮らし・文化と豊かな生態系を巡る旅」など。JNTOによると、参加した海外バイヤーの約半数が初訪日で、ゴールデンルートへの参加希望が多かったようだ。ただ、希望通りにならず地方コースに参加したバイヤーの満足度も高かったという。

商談会は「グランドハイアット東京」で行われた。金沢への視察旅行に同行してみた

そのうち、筆者は「禅・哲学・匠の本質を知る旅」をテーマにした金沢・福井の視察旅行に同行した。参加者は、スイス、イタリア、カナダの旅行会社から3人。北陸新幹線で東京から金沢に入り、金沢市内で地域の伝統文化を体験したのち、福井では匠の技として越前和紙や越前打刀物を見学。永平寺や吉峰寺では禅の真髄に触れた。

金沢では、まず加賀友禅の工房「毎田染画工芸」を訪れた。加賀友禅の歴史は約500年前、この土地独自の染色技法「梅染」に遡る。加賀友禅は写実的に描かれる草花をモチーフとした絵画調の模様が特徴で、公家文化から生まれた華やかな京友禅とは美意識が異なるという。

そのような加賀友禅の歴史や技法のレクチャーを受けた後、工房では「彩色」の現場を見学するだけでなく、参加者は実際に下絵に色を挿す作業やぼかし塗りも体験した。細かい作業に会話がなくなり、塗り終わると「ふー」と息をつき、笑顔が漏れた。

細かい作業に、見守る人も息をひそめる。併設されたギャラリーには、伝統的な加賀友禅の着物のほか、そのデザインをアートとして創作された作品も展示されている。参加者の一人は一着の値段を質問。高いものは車一台分と分かると、驚きの表情を見せるも、それが何世代も受け継がれていくと知ると、納得した様子を見せた。

最後は着付け体験。初めて日本を訪れたイタリアのキアラさんは、加賀友禅を纏った姿を鏡で見ながら、「Beautiful!」と改めてその淡い色彩に感嘆を漏らした。毎田染画工芸では、このような工房見学ツアーを受け入れているが、そのほとんどがインバウンドだという。

「本物」の着物を羽織る体験には特別感がある。次に訪れたのは「兼六園」。言わずと知れた金沢の名勝だ。散策した後、園内の「兼六亭」で茶会体験。この施設は、2022年10月に料理屋としてリニューアルされ、カフェや飲食スペースに加えて、「蓮池亭」と呼ばれる茶室も設けた。

茶会を取り仕切るのは、金沢に留学していたフランス人女性。インバウンドの取り込みを目論み採用したという。フランス語はもちろん、日本語、英語に対応する。茶会の前には、茶道の歴史とともに、千利休が説いた心得「和敬清寂」を解説。それぞれ「harmony」「respect」「purity」「tranquility」と説明した。

茶会で参加者は、点てられたお茶を作法を聞きながら、たどたどしく一服、二服。お茶に対する経験値の違いだろう、「苦い」と微妙な表情になる人と「美味しい」と笑顔を見せる人に別れた。

茶道の儀式とも言える作法は訪日客にはどのように感じるのだろうか。夜は、ひがし茶屋街の「懐華樓」で、書道体験とお座敷遊びを夕食とともに楽しんだ。懐華樓では、金沢の芸妓文化を知ってもらおうと、インバウンド向けに「Geisha Entertainment」イベントを4年ぶりに再開したほか、プライベート体験も受け入れている。

芸妓さんとの会話も体験の一部。金沢の次は福井へ。永平寺では、禅体験ができる宿泊施設「柏樹關」に宿泊し、禅の心に触れた。

ツアー後に参加者に感想を聞いてみると、意外なことに2人が強く印象に残った体験として永平寺よりも「吉峰寺」を挙げた。吉峰寺は、永平寺が建立されるまでの約1年間、道元禅師が滞在した寺。道元は、ここで『正法眼蔵』を執筆したと伝えられている。より濃密な禅の世界が体感できる場所だ。

カナダのリサさんは「とても静かな場所だった。精進料理が素晴らしく、味もおいしかった。僧侶の話も面白かった」と感慨深げに話した。スイスのフランシーヌさんも僧侶との会話が印象に残ってるようで、「ローカルの人と話すのはいつでも楽しい」と話し、「スイスでも、その土地のオーセンティック(本物)なモノや体験を求める傾向が強まってるから、特別な体験だった」と続けた。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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