20年以上の歳月をかけて建設されたエジプト・カイロ近郊の「大エジプト博物館」が2025年11月1日、ついに全館オープンした。エジプト政府は、ギザのピラミッドとスフィンクスの近くに位置するこの博物館を観光産業を活性化し、経済を浮揚させる取り組みの目玉として位置付けている。
エジプトのエルシーシ大統領は開館式典で「この博物館を、対話の場、知識の旅先、人類のための広場、そして生命を愛し、人類の価値を信じるすべての人々にとっての灯台にして欲しい」と呼びかけた。
総事業費約10億ドル(約1530億円)規模のこのプロジェクトの建設は、当時のホスニ・ムバラク大統領の下で2005年に開始された。しかし、政変などにより工事は中断。その後もたびたび遅延が続いた。2024年10月には一部公開。今夏に全館オープンが予定されていたが、6月に勃発したイスラエルとイランの間での紛争によって、さらに延期を余儀なくされた。
エジプトは、ファラオの歴史で長年にわたって観光客を惹きつけてきた。一方で、膨大な遺物の整理や展示することにも苦労してきた。小さな宝飾品や色鮮やかな墓の壁画から、巨大なファラオ像や動物の頭を持つ神々の像まで、全国各地で新たな遺物の発見が続いている。
大エジプト博物館は、単一の古代文明に特化した博物館としては世界最大。広々とした開放的なホールには、約5万点の遺物が展示されており、バーチャルリアリティ展示も行われている。1922年に初めて発見されたツタンカーメン王の墓から出土した財宝の全コレクションも展示されている。
エジプトのシェリフ・ファティ観光・考古大臣は、大エジプト博物館は年間500万人の来場者を見込んでいると明かした。参考までに、2024年の他国の有名美術・博物館の来場者数を見ると、ルーブル美術館が870万人、大英博物館が650万人、ニューヨークのメトロポリタン美術館が570万人。
大エジプト博物館の入口には、古代エジプトで最も強大なファラオの一人、紀元前1279年から1213年まで約60年間統治したラムセス大王の花崗岩の巨像が鎮座する。常設展示スペースは2万4000平方メートル。昨年、先行開館したメインギャラリー12ヶ所では、先史時代からローマ時代までの古代遺物が時代とテーマ別に展示されている。
今回の全館オープンによって、紀元前1361年から1352年まで統治したツタンカーメン王のコレクションから集められた5000点の遺物も公開されることになった。
観光と経済の活性化
エジプト政府は、近年、博物館周辺、近隣のピラミッドやスフィンクスの周辺地域の再開発も進めている。新しい高速道路が建設され、近くには地下鉄駅も建設中だ。また、カイロの西、博物館から40分の場所にスフィンクス国際空港も開港している。
エジプトの観光産業は、2011年の政変後の長年にわたる政治的混乱によって打撃を受けてきた。コロナ禍を経て、観光産業は回復し始めている。2024年には過去最高の約1570万人の観光客がエジプトを訪れ、その総支出はGDPの約8%を占めた。
今年の観光客数は約1800万人と予想。ファティ観光・考古大臣は、2032年までに年間3000万人の観光客数を目指すことを明らかにしている。
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