観光ブームの中でコミュニティが直面するジレンマ、高級リゾート開発計画で「経済振興 vs. 伝統文化の保全」に揺れるインドネシアの村の実情とは?

写真:ロイター通信

オーストラリアの投資家らが、インドネシアのロンボク島に年間250万人の観光客誘致を目指す高級リゾート「マリーナ・ベイ・シティ」の建設計画を進めている。数十億ドル規模にも及ぶこのプロジェクトは、雇用を創出する一方、地元住民が長年受け継いできた文化的価値観との衝突を招くのではないかとの懸念が広がっている。

リゾート建設は、149ヘクタールの農地と海岸線で進められる。投資家らは、ロンボク島で最も貧しい地域の一つを一変させる可能性のある大規模な観光事業だと説明している。

同島ブウン・マス村のロチディ村長は、「何十年もの間、投資家たちはここに来て土地を購入し、建設を約束してきたが、何の計画も進まなかった。いくつかの区画は放棄され、放置地として分類されることさえあった」と話すが、今回は実際に建設が進んでいる。ロチディ村長は、「今回は、地元の人々が労働者として、パートナーとして、そして受益者として、このプロジェクトに関わっていくことに期待している」と期待を込める。

観光開発は地域にとって発展か、重荷か

しかし、このプロジェクトは、観光ブームが到来するなかで、多くのインドネシアのコミュニティが直面しているジレンマを如実に表してもいる。

インドネシア政府は、バリ島の成功を他の島でも再現することに躍起になっているが、一方で環境破壊、取り残される地元住民など誰もが抱く不安も呼び起こしている。

インドネシアの「10ニューバリ」構想の一環として開業した近隣のマンダリカ・リゾートは、MotoGPレースを誘致し、多くの観客を集めたが、衝突の火種にもなった。国連は、当局による強制立ち退きと、立ち退きを余儀なくされたササック族への不十分な補償を非難。土地をめぐる緊張は未解決のままだ。

ロンボク島の他の地域でも同様の諍いが発生している。マンダリカ近郊の三日月形の湾「タンジュン・アン」はサーフィンの名所であるとともに豊かな漁場として知られているが、地元住民は、家族経営のサーフィンスクール、レストラン、屋台を取り壊して高級ホテルを建設する計画に反対する請願書を提出した。

マリーナベイの建設が計画されている149ヘクタールのうち、35ヘクタールの土地はすでに取得済み。ヴィラやユーティリティ施設の基礎工事も進んでおり、同社はまもなく最終的な許可が下りると見込んでいる。

プロジェクトの最高経営責任者を務めるエイドリアン・キャンベル氏は、持続可能な開発の実現に向けて、廃棄物発電システム、太陽光発電による交通機関、電気自動車充電ステーション、コミュニティファームなどを導入すると説明。さらに、地元住民への公正な賃金での仕事の確保、教師への奨学金、村人からの雇用確保を約束した。

経済成長への期待と文化的、気候的リスク

インドネシアの観光産業はパンデミック後、急速に回復。政府は2025年には観光産業が国民総生産(GDP)の5.5%、約810億ドル(約12.2兆円)を占めると予測している。インバウンドによる観光支出はパンデミック前を上回り、国内旅行市場も急速に成長している。

ロンボク島の西ヌサ・トゥンガラ州では、今年250万人の観光客を見込んでいる。島の国際空港の旅客数は年間700万人に拡大。マレーシアからの便を含む新規路線も就航している。

地元ではマリーナベイを歓迎する声がある一方で、伝統文化が変化することに懸念している住民も多い。地元のイスラム中学校で教師を務めるパルワディ・アシャリ氏も、村の振興に期待する一方、「飲酒が発覚すれば村から追放される可能性があるが、部外者が増えれば、飲酒が当たり前になるかもしれない。人々が恐れているのは、私たちの価値観が変わることだ」と懸念する。

また、この地域は気候変動の影響を受けやすい地域でもある。ロンボク島に拠点を置く非営利団体Koslataのディレクター、スリス・アンガー氏は、インドネシアは、海面上昇と巨大津波の脅威にさらされている海岸線にあるとして、「政府は、提案されている開発が土地利用計画、環境の収容力、経済、文化、環境、災害リスクへの潜在的な影響に適合しているかどうかを精査する必要がある」と警鐘を鳴らす。

観光開発の課題は他地域にも

インドネシアの他の地域でも、開発と保全の間の緊張が高まっている。コモド国立公園のパダール島では、民間企業が数百戸のヴィラ、レストラン、結婚式場を建設する計画に反発が起きている。環境活動家らは、この計画が絶滅危惧種であるコモドドラゴンの生息地を脅かし、地域密着型の観光業を阻害していると主張している。

ラジャ・ジュリ・アントニ林業大臣は、ユネスコ世界遺産におけるあらゆる観光開発は、環境と生息地を保護するため厳しく規制されるとしたうえで、「たとえ建設が許可されたとしても、非常に厳しい制限が課せられる。最大でコンセッションエリアの10%ではコンクリート製の建物は禁止され、取り壊し構造物のみとなる」と説明している。

※ドル円換算は1ドル151円でトラベルボイス編集部が算出

※本記事は、ロイター通信との正規契約に基づいて、トラベルボイス編集部が翻訳・編集しました。

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