台風被害からの復興へ、東京都八丈島の現在地、エコツーリズムにかける期待と観光ビジョンを取材した

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2025年10月に台風22号と23号に立て続けに襲われた東京都八丈島。島内ではさまざまな被害が発生し、基幹産業である観光にも大きな影響が及んだ。水道や電気などのインフラが復旧し、観光施設や宿泊施設は営業を再開したものの、観光客の足は遠のいたままだ。2026年に入り、本格的な観光復興のフェーズがスタート。キャンペーンなどを通じて観光客の呼び戻しに取り組んでいる。八丈島の現状と将来に向けたビジョンとは?島内を取材して深掘りした。

復興に向けたキャンペーンや情報発信を強化

伊豆諸島の一つである八丈島へは羽田からANAが1日3往復便を運航している。飛行時間は55分。首都圏からだけでなく、地方からも羽田経由のアクセスは抜群にいい。

その八丈島では、2025年に2度の強い台風が基幹産業の一つである観光に大きな爪痕を残した。観光客数は、台風前の2025年9月には前年同月比11.6%増と好調だったものの、10月は同74.8%減、11月は同63.6%減と激減。その後も前年割れが続いている。

八丈島は、2026年2月に被災者の生活再建、社会基盤の回復、島全体の持続的な成長を柱とする「八丈島災害復興計画」を策定。そのなかで、観光振興支援では、観光基盤の整備、戦略的な観光客誘致、情報発信の強化、観光DXの推進を盛り込むとともに、関係人口や交流人口の拡大も掲げた。

八丈島産業観光課観光係係長の笹本大祐氏は「観光施設や宿泊施設などの復旧も進むなか、『もう大丈夫なので、来島してください』という観光客に向けたメッセージをさらに強めていきたい」と話し、情報発信を強化していく方針を示す。昨年度にはインフルエンサーの招請を行ったほか、今回3月に復興に向けたプレスツアーを実施した。

八丈島産業観光課の笹本氏

また、戦略的な観光客誘致では、東京都の支援を受けて、同じく被害を受けた青ヶ島を含めた復興キャンペーン「復幸旅!八丈島」を3月2日から開始した。大手OTAとの協業で、割引クーポンを提供するもので、7月まで実施する(予算がなくなり次第終了)。

八丈島観光協会事務局長の田村真吾氏は、キャンペーンについて「短期間で実施し、効果を上げる目的で大手OTAで販売することにした」と説明。また、最近ではOTAを通じた個人客の来島が増えていることも背景にあるようだ。

さらに、3月20日から4月5日まで開催された毎年恒例の「八丈島フリージアまつり」も、観光復興を後押しするイベントとして位置付けた。

八丈島観光協会の田村氏。

観光ビジョン策定へ、潜在性の高いエコツーリズム

八丈島は、復興計画とは別に、2026年度からの「八丈島基本計画」を策定し、それに合わせて将来に向けた観光ビジョンも掲げていく計画だ。本来は2026年度からの実施を予定していたが、台風被害によって、策定が1年後ろ倒しになった。

そのビジョンの柱の一つとして想定されるのがエコツーリズム。観光協会の田村氏も「八丈島は、海と山が近く、両方を体験できる島。八丈小島を含めたエコツーリズムのポテンシャルは高い」と自信を示す。

また、八丈島産業観光課の笹本氏によると、2026年度からは「エコツーリズム推進協議会」での議論を進めていくという。八丈島の特徴的なダイビングやホエールウォッチングも含めて、八丈島らしいエコツーリズムの骨格を作り上げていく方針だ。

八丈島の観光消費額は約41億円(2023年)。その拡大に向けては、観光客の消費ポイントを増やしていく必要がある。笹本氏は、島焼酎やフルーツレモンなどの八丈島の特産を体験アクティビティとしてコンテンツ化していく考えを示すと同時に、「生産者にとっては販売が優先だが、観光は別という考えではなく、観光客を受け入れることで、売上にもつながるということを町としても周知していきたい」と話す。

一方、笹本氏は「春はフリージア、夏は海、秋は山、冬は温泉と四季折々でコンテンツがありすぎることが、逆に周知の難しさになっている」と明かす。また、田村氏は、コンテンツは豊富なものの、観光のピークがゴールデンウィーク、お盆を含めた夏休み、年末年始に偏っていることから、需要の平準化を課題として挙げた。そのうえで、「平準化に向けては、インバウンドというよりも、まずは国内の個人旅行の取り込みに力を入れていく」考えを示す。

個人旅行の取り込みでは、島内交通の整備も進めていく考えだ。レンタカーは需要に合わせて配車されるが、島内のタクシー台数は25年前の約100台から現在は15台まで激減しているという。

八丈島ではこれまで自動運転バスやAIデマンドタクシーの実証事業を実施してきた経緯がある。田村氏は「全体のビジョンを立てたうえで、交通課題を島全体で共有しながら、解決していきたい」と意欲を示した。

狭い島内に、ぎゅっと詰まった観光コンテンツ

八丈島は、歴史文化、生活、食、自然など独自の観光コンテンツが小さな島内に溢れている。都内ながら離島が持つ独特のゆるい空気感や静かな環境を求めて、最近では若い女子旅の目的地にも選ばれているという。

八丈島では、北西の八丈富士と南東の三原山に挟まれた低地に空港や町のさまざまな機能が集まる。海と山のコンテンツが近く、海岸線や中心部と山々との高低差が八丈島独特の観光の面白さを生み出している。

海のコンテンツのハイライトの一つがホエールウォッチング。海上から体験することもできるが、陸上からクジラを探すバスツアーも人気だ。自然相手で偶然性に頼らざるを得ないところはあるが、かなり高い確率で遭遇できる。プレスツアーでは、最初に立ち寄った神湊漁港付近で早くも発見。潮を噴き上げる「ブロー」や尻尾を海面に打ち付ける「テイルスラップ」を遠目ながら観察することができた。

プレスツアー参加者は鯨が現れると一斉にカメラを向けた山のコンテンツでは八丈富士の七合目の「ふれあい牧場」がフォトジェニックなスポットとして人気を集めている。山と海と牧草地を360度見渡すことができる大パノラマと、放牧されているのんびりとした牛の姿は、八丈島を代表する景色だ。

「ふれあい牧場」は八丈島らしい牧歌的な風景が広がる八丈島の歴史文化に触れるなら「八丈島歴史民俗資料館」。本館と新館自体が「国有形文化財」に登録されている。建物の耐震改修工事、展示改修を経て、2025年10月1日リニューアルオープンされた。3面マルチプロジェクションも新たに設置。貴重な展示品とともに、視覚的にわかりやすく島のストーリーを伝えている。

島の歴史文化を知るなら「八丈島歴史民俗資料館」

また、江戸時代から八丈島で叩かれている郷土芸能「八丈太鼓」も現代に綿々と受け継がれている。2人一組で、1人は八丈太鼓の4つのリズムを正確に打ち、もう1人はそのリズムに乗せて、自分でフレーズを考えて打つ。その魅力は「自由奔放に太鼓を打ち鳴らす」ところにあるという。

食事処「千両」の親子が八丈太鼓を披露してくれた唯一無二の「東京島酒」と「うみかぜ椎茸」

狭い島内ながら、八丈島の食も多彩だ。「明日葉(あしたば)」や「くさや」など、伊豆諸島の名産品に加えて、島内で醸造される焼酎は、そのふくよかな味でファンが多い。訪れた坂下酒造では、麦とさつま芋のブレンド焼酎「黒潮」と「ジョナリー」、麦焼酎の「黄八丈」の3種類を生産している。

麦とさつま芋とのブレンド焼酎は、別々に造って、最後に蒸留したものを直前にブレンドするという。杜氏の沖山範夫さんは「二次仕込みの時にブレンドする方法もありますが、原料の特性や発酵スピードはそれぞれ違うので、別々に管理した方が絶対いいと思います」と自信を示す。

坂下酒造は、2025年で創業100年を迎えた老舗。沖山さんは、「この焼酎がなくなってしまうのは心苦しい。なんとか残したい」と、この酒蔵を引き継いだ。

2024年には農林水産省から地域の知的財産として保護する「地理的表示保護制度(GI)」に「東京島酒」として指定された。伊豆七島の焼酎造りでは、全国的に一般的な米麹ではなく、麦麹が使われていることが評価されたという。焼酎としては、長崎県の壱岐焼酎、熊本県の球磨焼酎、沖縄県の琉球泡盛、鹿児島県の薩摩焼酎につづき18年ぶりに認められた。

焼酎の製造方法を教えてくれた沖山さん。「ジョナリー」は前の杜氏の奥さんの名前から名付けられたという食では「うみかぜ椎茸」も八丈島の風土が生み出した農産物だ。大竜ファームは台風被害で生産量が6割も減少した。2026年になって新しい菌床を入れ始め栽培を再開。現在も飲食部門は休業しているが、3月中旬には観光客向けの収穫体験も再開した。

生産者の大沢竜児さんは、うみかぜ椎茸の特徴として、「八丈島の風土に合う国内の菌床ブロック、温暖な気候、空気中に漂う塩分濃度、美味しい水が決め手」と説明する。その色味や形状は本土の椎茸と異なることから、台風前は有名レストランからの引き合いも多く、クルーズ船「飛鳥」にも納品していたという。現在は生産量をまず戻すことに注力している段階だ。

一番美味しい食べ方を聞くと、「軸を残したまま、オーブントースターで軸を上に向けて塩を振って焼くだけ」と教えてくれた。椎茸の水分量が多いことから、焼くと「ゴールデンウォーターが溢れてきます」と笑った。

「八丈島の素晴らしい気候にあった椎茸です。少しでも八丈島の観光に役立ててれば」と大沢さん「私が子供の頃は港が観光客で溢れかえっていました。八丈島はやはり観光がメインの島。地元民としては地元活性化のためにももっと観光客に来てほしいと思っています」と大沢さん。それが、生産者ながら観光客向けに収穫体験を提供している理由だ。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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