航空運賃はさらに上がるのか? 中東情勢と原油高が旅行市場に与える影響を物価統計から読み解く【コラム】

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国学院大学・観光まちづくり学部教授の塩谷英生(しおや ひでお)です。

2026年6月14日にようやく、米国とイランは原油輸送の要衝ホルムズ海峡の航行の自由確保を含む合意にこぎ着けました。しかし、原油価格と航空燃料価格はなお戦争前より高い水準にあります。この合意が順調に進めば、航空運賃をはじめとして旅行物価も安定し、旅行市場にとってプラスに働くでしょう。

一方で、その影響は国際航空運賃や訪日需要、国内旅行物価に時間差で表れます。旅行市場を見るには、需要統計だけでなく、物価統計をあわせて読む必要があります。今回は、旅行物価の統計を中心に直近の旅行市場について解説します。

原油価格の動向と国際旅行市場

2月末に始まったイラン戦争ですが、4月8日に一応の停戦に至ったものの対立が続き、原油価格は戦争以前よりも依然として高水準で推移しました。代表的な指標であるWTI原油先物でみると、戦争前の2月27日の終値が1バレル67.0ドルだったのに対し、停戦直前の4月7日には113.0ドルを付けました。その後、いったん下がったものの乱高下を繰り返し、6月8日時点では91.3ドルと、2月27日比で36%高い水準になっていました。ところが、6月14日の合意を受け、6月18日時点では76.1ドルまで下がっています。

もっとも、WTIの先物指標を限月(満期を迎える月)別にみると、戦前の60ドル台に戻るのは2027年6月となっており、紛争再燃のリスクが解消するまでは戦前より幾分高い水準での推移が想定されます。

つまり、原油価格は急騰局面を脱したものの、旅行市場にとってはなおコスト上昇要因として残っているということです。

旅行需要に直結する航空燃料の価格については、「Jet Fuel Price Monitor」(IATA:国際航空運送協会)という統計があります。2000年を100とした指標では、2月27日が271.7だったのに対し、4月3日には倍増の571.3を付けました。その後は低下しているものの、6月5日時点で379.6と、2月27日比でみて40%も高い水準となっていました。もちろん、これについても6月14日の合意によって戦前の水準に近付いていくことが予想されます。

なお、UN Tourism(国連世界観光機関)は、2026年5月に公表した「Tourism Barometer」の中で、2026年の国際旅客数の伸び率を、当初予測の3%~4%から1%~3%のレンジへと下方修正しました。しかし、6月14日の合意により、予測レンジの上限寄りに落ち着くことが期待されます。

イラン戦争下の訪日市場の動き

さて、日本に目を向けると、日本政府観光局(JNTO)が公表した2026年5月の訪日外客数は前年同月比で3.6%減となりました。4月も5.5%減でしたから、2カ月間連続のマイナスです。日本への渡航自粛を呼び掛けている中国は、4月に56.8%減、5月に60.4%減となって全体を押し下げています。しかし、中国を除いた国々では、4月が6.9%増、5月が11.8%増とプラスが続いています。ただし、イラン戦争以前の1~2月の期間は17.7%増で、3~5月の期間は11.8%増でしたから、イラン戦争後の伸び率は約6ポイントほど低下しています。

前回も述べましたが、イラン戦争の訪日市場への影響には、(1)直接的には中東便利用客の減少、(2)航空燃料上昇に伴う国際航空旅客の減少、(3)石油価格上昇による経済停滞に伴う需要減退、の3つの段階があると考えます。

まず、直接的な影響を受ける湾岸6か国(UAE、サウジアラビアなど)については、4月が71.5%減でしたが、5月には31.8%減まで回復しています。中東地域全体まで広げると、3月が30.5%減、4月が21.4%減でしたが、5月はトルコとイスラエルが好調で67.8%の増加となっています。6月14日の合意を受けて、中東地域のV字回復が期待されます。

(2)と(3)については、3月以降の伸び率の鈍化に、航空運賃の上昇が多少影響した可能性があります。我が国発着の国際航空券価格に関する指標としては、日銀の「企業向けサービス価格指数」があり、およそ2か月遅れで公表されています。これは企業間で取引されるサービスを対象としていますが、提供されるサービスが個人向けのものと同質的であれば、旅行価格の指標として参考になります。

サービス品目のうち「国際航空旅客輸送」の価格指数(2020年平均=100)をみると、2026年1月131.1(前年同月比4.5%増)、2月129.8(同6.3%増)、3月142.1(同8.2%増)、4月146.8(同7.2%増)と推移しています。3月の伸び率は1月、2月に比べて2ポイントほど高く、4月は1ポイントほど高くなっています。ただし、航空燃料価格が燃油サーチャージに反映されるには1~2か月の時差があるため、6月14日の停戦合意にもかかわらず、夏季の航空運賃の伸び率はさらに高くなると予想されます。

停戦によって世界的な経済停滞の危機は回避される見込みとなりました。夏までは航空運賃上昇によって訪日需要は抑制される可能性がありますが、為替相場の円安基調が変わらなければ、訪日旅行の高い競争力は今後も維持されるでしょう。

国内旅行物価は安定的に推移

国内旅行の価格統計についても触れておきたいと思います。

まず、旅行1回あたりの消費単価の統計として、観光庁の「旅行・観光消費動向調査」があります。直近の2026年1~3月期の宿泊旅行単価は7万1414円(前年同期比3.9%増)、日帰り旅行単価は2万672円(同3.5%増)となっています。

もちろん、消費単価の上昇がそのまま旅行内容の質的な向上を意味しているわけではありません。訪日需要の拡大や、円安による輸入物価上昇などが、年々の単価上昇につながっています。したがって、旅行活動の費用対効果はむしろ低下している可能性があります。

例えば、近場旅行が増えて平均泊数が低下する状況下で、もしも消費単価が同じ水準であれば、交通サービスや宿泊サービスの個々の価格が上昇している可能性が高いわけです。旅行の実質的な消費単価を評価するには、旅行を構成する個別商品の価格水準がどうなっているかを調べたうえで旅行全体として総合化する必要があります。「実質消費単価」の推計は、旅行統計の将来課題のひとつです。実質化することで、旅行品質や満足度を的確に評価できるものと考えます。

さて、国内旅行の物価統計としては、まず、総務省の「消費者物価指数」があります。こちらは家計における物価水準が対象となっていて、2カ月遅れで公表されています。2026年の宿泊料をみると(2020年平均=100)、1月が159.1(前年同月比5.9%増)、2月が164.7(同6.0%増)、3月が167.2(同5.0%増)、4月が170.0(同4.6%増)となっていて、イラン戦争の影響は顕在化していません。もっとも、日本人にとっては5年間で1.5倍以上となっているので、すでに十分に高い水準とも言えます。航空運賃は3月の前年同月比が0.3%増、4月が0.6%増となっていて、ほとんど影響がありません。航空燃料に対する国の緊急的激変緩和措置(3月11日)の効果もあったように思われます。

なお、自動車旅行で重要となるガソリン価格は、2025年12月の暫定税率廃止によって大きく低下したタイミングでこの戦争を迎えました。2月は14.9%減でしたが、3月は5.3%減、4月は9.6%減で推移しています。イラン戦争で減少率が鈍化しましたが、激変緩和措置の効果でマイナスを維持しています。

他の国内旅行物価に関する統計として、すでにご紹介した「企業向けサービス価格指数」があります。この中では、国内航空などの各種旅客サービス、レンタカー、宿泊サービスなどの指数が公表されていて、参考になります。図は、「消費者物価指数」における「宿泊料」と「企業向けサービス価格指数」における「宿泊サービス」の物価指数の推移をみたものです。おおむね相関していることがわかります。

資料:総務省「消費者物価指数」、日本銀行「企業向けサービス価格指数」より作成中東情勢は依然としてリスクをはらんでいます。旅行市場の今後を考える上では、原油価格や航空運賃などの旅行物価の動向を引き続き注視していく必要があるでしょう。

塩谷英生(しおや ひでお)

塩谷英生(しおや ひでお)

専門は観光統計、経済効果、旅行市場、観光財源等。民間コンサルタントとして「訪日外国人消費動向調査(現インバウンド消費動向調査)」「沖縄県観光統計実態調査」「DBJ・JTBFアジア・欧米豪訪日外国人旅行者の意向調査」等の企画・実査に携わる。その後、2022年度から国学院大学 観光まちづくり学部へ。博士(観光科学)。

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