アップル(Apple)社は、「Wallet(ウォレット)」アプリを、単にホテルの鍵を保存する場所から、旅行の状況をリアルタイムで確認できる「旅のハブ(コントロール画面)」へと進化させようとしている。
同社は「Apple Wallet」に登録できる鍵の機能を大幅に拡張することを発表した。観光産業ニュース「スキフト(Skift)」の取材によると、この秋の機能開始に合わせて「ウォルト・ディズニー・ワールド」が最初のパートナーになることが両社への取材で確認された。1つのパスに旅行の情報を集約することで、どれほど利便性が向上するかを示す好例となりそうだ。
ホテル客室の鍵をApple Walletに保存する機能自体は5年前から存在しているが、多くの旅行者にとって、まだ旅の「標準的なツール」にはなっていない。アップルは、鍵が「ドアを開ける」以上の役割を果たせるようにすることで、この状況を変えたい考えだ。
ホテルの鍵からチェックアウト手続きを可能に
アップルは、「iOS 27により、Apple Walletは対応するホテルやリゾートで、より高度な鍵体験を提供する」と、2026年6月上旬に開催された開発者会議WWDCに合わせて発表した。
今回のアップデートは、すでに提供されている「iPhoneやApple Watchを使ってホテルの客室や施設を解錠する」というWalletキーの機能をベースにしている。今後はホテル側が、Walletの鍵画面から直接チェックアウト手続きを開始したり、利用明細(滞在費の内訳)を確認したりできるように設定可能となる。ボタンをタップするだけで、Walletアプリからホテルの独自アプリやWebサイトへ直接遷移できるようになる。
アップルがSkiftに対しておこなった説明によると、この変更はホテルの客室の鍵だけに留まらない。以前の報道では、米ディズニーがこのアップデートを同社のパーク入園システム「マジックモバイル(MagicMobile)」に導入すると噂されていたが、WWDCでのAppleのデモ画面にそれとなく映り込んでいた以外は、両社とも公式な発表や確認をおこなっていなかった。
アップルは、ディズニーとの連携機能は「iOS 27」で提供されると述べている。ウォルト・ディズニー・ワールドは公式なコメントを控えたが、担当者は今後数か月以内に同社のApple Walletパスにこれらのアップデートが反映されることを認めた。現在、ゲストがテーマパークへの入場に使用している「マジックモバイル」の機能に加え、パークの事前予約、特別イベントのチケット、チケットの詳細、今後の旅行予定といった「旅程データ」が、Apple Wallet内の「ディズニー・パーク・パス」に統合される。
ホテル版は付帯サービスやメッセージなどに拡張
Skiftが確認した画像には、提供予定のウォルト・ディズニー・ワールドのパス画面にチケット情報、マジック・キングダム・パークの予約状況、そしてエプコット(Epcot)などの今後の予定を表示する項目が並んでいた。
ディズニーの担当者によると、ゲストがこの進化した「ディズニー・パーク・パス」を設定し、Apple Walletに追加する際には、これまで通り公式アプリ「My Disney Experience(マイ・ディズニー・エクスペリエンス)」を使用するという。また、人気アトラクションの優先入場(ライトニング・レーン)や写真連携(フォトパス)といった既存マジックモバイルの機能もそのまま維持される。ゲストがパークに到着すると、iPhoneやApple WatchにApple Walletからの通知が表示され、入場口で自動的にパスが表示される仕組みだ。
アップルによると、ホテル版の構造は少し異なるという。例として挙げられた「リゾーツ・ワールド・ラスベガス」の導入事例では、最初はホテルの客室の鍵として機能し、その後、宿泊予約、スパの予約、メッセージ機能、利用明細の確認、チェックアウト機能へと表示が拡張されていく。これらの機能は、ホテルの専用アプリをわざわざ起動しなくても、Walletアプリの画面内で完結する。
これら2つの展開は、AppleがWalletアプリをより広範なプラットフォームにしようとしていることを示している。Appleはホテルの鍵をスマートにするだけでなく、その対象をホテルの鍵だけに限定していない。客室の鍵に滞在中のあらゆる情報を集約し、パークのパスにあらゆる体験の情報を組み込もうとしているのだ。
これは、部屋のドアを開けるくらいしかできなかったこれまでのWalletベースのホテルキーからの大きな変化だ。これまでは、スパの予約を確認したり、フロントに連絡したり、会計を済ませたりするには、ホテルの専用アプリに切り替える必要があった。今回のアップデートにより、それらの詳細情報は予約の変更に合わせてリアルタイムで更新され、常に最新の状態で表示される。これにより、鍵は単なる「ドアを開ける道具」から「旅行の総合パス」へと生まれ変わる。
Walletによって旅行の管理は圧倒的に容易になるが、旅行ブランド(ホテルやテーマパーク)側から見れば、旅行中の顧客の関心が自社アプリではなくアップルのインターフェースに向いてしまうという懸念もある。
ディズニーの場合、設定をおこなうのは依然として自社の「My Disney Experience」アプリだが、ゲストがパーク内を移動している間に予定を確認する「ハブ(中心地)」になるのはWalletだ。これは訪問者の手間を減らす一方で、その瞬間にディズニー独自のアプリを開く理由を減らすことにもつながる。
普及への課題と、拡大するWalletの「旅プラットフォーム化」
このアップデートは、すでに稼働している基盤(すべてに普及しているわけではないが)をベースにしている。現在、ハイアット(Hyatt)やクラブクォーターズ(Club Quarters)をはじめ、サルト(Salto)やミューズ(Mews)といったドアロックシステムを経由して接続しているホテルを含め、60以上のホテルブランドがWalletの客室キーに対応している。
2025年10月時点で、アップルはWalletの鍵が6万5000室以上のホテル客室で利用可能であると発表していた。しかし、多くの大手ホテルチェーンは、滞在中の管理を自社の独自アプリで行ってもらうことで顧客との直接的な関係を維持したいと考え、Walletへの移行を躊躇している。
Walletキーのアップデートは、旅行分野全体におけるWallet強化策のひとつに過ぎない。一方で、旅行者の滞在期間や訪問期間全体を通じて使われるため、非常に目立つ活用例だ。
しかし、Apple Walletにはすでに、航空会社の搭乗券、レンタカーの利用券、デジタル身分証明書(ID)なども格納できるようになっている。iOS 27では、米国では、米パスポートをベースにした本人確認機能を追加し、アメリカ運輸保安庁(TSA)の一部の保安検査場などで利用できるようになる。また、一般の企業やアプリでも「Verify with Wallet」を使って、米政府発行の身分証明書から旅行者の本人確認を行うことができるようになる。
現在、アップルは飛行機のフライトからチェックアウトにいたるまで、旅のプロセスのより多くの部分をWalletの中に収めようとしている。ホテルにとっても、観光施設にとっても、Walletの存在は無視できないものになりつつある。彼らは、単に鍵やパスをそこに置くかどうかだけでなく、旅行プロセスのうち「どれだけの情報」をWalletに委ねるかを決断しなければならない局面に立たされている。
※編集部注:この記事は、米·観光専門ニュースメディア「スキフト」から届いた英文記事を、同社との正式提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳·編集したものです。
オリジナル記事: Apple’s Wallet Key Turns Into a Full Trip Pass, With Disney as Launch Partner
筆者:Adriana Lee氏


