シンガポール拠点のホテル運営会社ファーイースト・ホスピタリティは、中間価格帯からライフスタイル系、ラグジュアリーまで、多様なタイプの宿泊ブランドを展開する。日本では現在、首都圏および大阪で合計5軒の「ファーイーストビレッジホテル」を運営しており、2025年の業績は、訪日インバウンド需要の追い風を受けて過去最高を記録した。
2026年1月、同社の社長に就任したマーク・ローナー氏は、「訪日インバウンド市場の成長は、まだその途上に過ぎない」との見方を示している。このことから、日本での施設を倍増させる方針だ。同時に、AI活用による生産性と効率の向上に取り組む。このほど来日したローナー氏に、その背景と狙い、今後の展望を聞いた。
自身のリーダーシップのもとで目指すゴールとして、ローナー氏が掲げるのは、ファーイースト・ホスピタリティを本拠地であるシンガポールだけでなく、「アジアを代表するホテル運営会社」へと変革し、成長させることだ。「そのために、今後も重要なのが日本市場」と力を込める。
ファーイースト・ホスピタリティでは、2030年までに、運営する総客室数を現在の約7000室から1万室へ拡大する目標を掲げている。この増加分3000室のうち半分を、日本国内での新規開業とする計画だという。
2025年までの5年間で、東京の浅草と有明、横浜、大阪の本町と難波で中間価格帯ホテル「ファーイーストビレッジホテル」を相次いで開業、現在は計5軒、約1000室を日本国内で運営している。ローナー氏は、「ホテル運営受託契約の獲得、あるいは買収に向けて積極的に動いていく」とさらなる意欲を示す。
日本以外で増室を目指す1500室については、ベトナム、インドネシア、タイなど、シンガポールとの往来が頻繁で、すでにファーイースト・ホスピタリティのブランドが浸透している東南アジア市場をターゲットに据えている。
宿泊客がくつろぐ空間作りも工夫している。「ファーイーストビレッジホテル」ブランドの日本第一号となったファーイーストビレッジホテル横浜のロビー
地方都市への進出で狙う幅広い宿泊需要
日本で新たに開発する1500室について、ローナー氏は、既存のファーイーストビレッジホテルと同規模の施設、あるいは他ブランドとの組み合わせでの展開を想定している。
「日本で認知度があり、システムや運営チームも整っているファーイーストビレッジホテルの展開数をさらに増やすことが最も望ましい」としつつ、ウェルネス&スパを中心としたライフスタイルブランドの「オアジア(Oasia)」、デザイン志向の都市型ブティックホテル「クインシー(Quincy)」など、案件に適したブランドを活用する考えだ。
新たに進出する都市の候補では、筆頭として京都をあげる。日本を訪れる旅行者がまず向かう東京、大阪、そして京都の3都市にホテルが揃えば、訪日旅行を手掛けるホールセラーや旅行各社に提案しやすくなる。オーストラリアなど、より長距離を移動する旅行者向けには、訪日旅行とシンガポール滞在を組み合わせることもできる。
さらに、福岡、名古屋、金沢、札幌などでの開業も検討している。「訪日外国人客だけでなく、国内旅行者の獲得が重要になるエリアだ。ホテルブランドとして成功するためには、インバウンドだけでなく国内客、レジャーだけでなくビジネス客からも支持される必要がある」とローナー氏は説明する。
地方都市に目を向けるもう一つの理由は、「日本が、リピーター需要が獲得できる多様性に富んだデスティネーションであること」だ。ローナー氏は「伝統文化から現代の魅力まで多彩で、季節によっても見所は異なり、何度も訪れたくなるのが日本」と話し、インフラ整備が進めば、ゴールデンルート以外にも、訪日インバウンド客の宿泊需要が拡大していくとみている。
ファーイースト・ホスピタリティ社長のマーク・ローナー氏
AIによる効率化と人の気遣いが感じられるホスピタリティ
ローナー氏が社長に就任後、同社の成長に欠かせない重点分野として着手したのが、デジタル改革による各種機能の強化だ。レベニューマネジメント、データ収集・分析、顧客管理システム(CRM)などの拡充を急ぐ。
「我々の強みは、卓越したカスタマーサービス。ホテルスタッフが質の高い、パーソナルなサービスを提供できるように、“Acts of Grace(思いやり)”の企業理念のもと、主体的な行動を促す企業文化をこれまで何年もかけて育ててきた。これをベースに据えつつ、次の段階へと成長するための効率化と生産性向上が、私のリーダーシップにおける達成目標」と自らに課している。
目下、進行しているプロジェクトの一つは、予約領域でのAIエージェント導入だ。具体的には、旅行者の予約から旅行会社経由のリクエストまで、あらゆる予約関連のメールをAIエージェントが読み取り、社内システムにアクセスして空室状況を確認、適切な回答を作成して返信する。すでに試験段階を完了し、2026年中にシステム実装を目指しているところだ。
AI活用を進めるもう一つの領域はレベニューマネジメント。需要予測、価格設定などのスタッフの業務支援の体制を強化する。ローナー氏は、世界大手ホテルチェーンの欧州地区や米国本社でレベニューマネジメントを担当していた経験があり、「原理原則は今も変わらないが、ツールが進化し、より戦略的な取り組みが可能になっている。特にここ3年ほどの進化は、それまでの10年分を上回るほどだ」と感じている。
ただし、「AIですべてを代替できないことが、ホスピタリティ・ビジネスの強みでもある。すべての業務をAI化するべきではないし、できないことも多い。当社のビジネスでAI活用が最も効果的な部分を見極めていく」との考えも明かした。
また今後、運営ホテル数が増えれば、本格的なロイヤルティ・プログラムがより重要になるため、他ホテルとのアライアンスや、グローバルなロイヤルティ・プログラムへの参加など、よりメリットの大きい提携の形も追求していく方針だ。
シンガポールのビレッジホテル・セントーサ。フロントでは必ずスタッフが出迎える
巨大チェーンとは異なる「ハンズオン」のサポート
2026年の旅行市場、特にインバウンド需要については、どう展望しているのか?
ローナー氏は、「日本はこれまでデスティネーションとして大きく成長を続けてきたが、まだまだその途上にあり、さらに伸びていくというのが我々の見方だ」と話す。
一方で、世界が地政学的に不安定な情勢にあることから、「自分の住む地域からあまり遠くないデスティネーション、安心して過ごせるところを旅行先に選ぶ傾向が強くなっている」とも指摘する。アジア各国からのアクセスが良く、見るべきものが数えきれないほどあることに加え、「何よりも、非常に安全であること」(ローナー氏)が、2026年の旅行市場において、日本の大きなアドバンテージになっているとみる。
実際、日本国内のファーイーストビレッジホテル5軒の業績は、好調に推移している。万博に沸く大阪で2軒を開業した2025年は、「過去最高の記録の年となり、収益も稼働率も非常に良かった」とローナー氏は振り返る。ホテルによってばらつきもあるが、国内5軒の稼働率は80%台の半ばから後半だった。
続く2026年は、やや弱含みの幕開けとなったものの、桜の季節やイースター休暇の効果で、4月は都内2軒のホテルの営業状況が単月の過去最高を更新。特にインバウンド需要が利用客の9割以上を占める浅草の施設では、稼働率90%を超える日が1カ月続いた。「RevPAR(稼働客室当たり収益)もADR(客室平均単価)も、中間価格帯ブランドとしては異例のレベルだ」とローナー氏は微笑む。
ファーイーストビレッジホテル東京浅草。窓から見える景色にはスカイツリーも一方、中国からの訪日客減少による影響は、観光需要が中心の大阪・難波の施設で最も顕著という。このため、国内市場および他の送客マーケットへのセールスを強化している。「特にポテンシャルが大きいのはオーストラリア。中東情勢の影響で、目下、アジア太平洋域内への旅行に関心が強くなっている」という。ファーイースト・ホスピタリティの本拠地、シンガポールでは、すでにアジア太平洋各地のホールセラーと長年に渡る取引関係があるため、こうしたネットワークも生かしていく。
最後にローナー氏は、「我々は、日本が紡ぐ観光のストーリーに、ポジティブに貢献できる存在でありたい」との想いを強調した。新しい地域で新規開業する際には、「その土地のローカル文化を尊重し、地域コミュニティに寄り添いながら、訪れるゲストにすばらしいホスピタリティを提供していく」。
日本のホテルオーナーや投資家がファーイースト・ホスピタリティと組むメリットについては、同社が巨大なグローバルチェーンではなく「ミドル・サイズのホテル運営会社」であり、「ハンズオン(現場密着型)」である点が他社との大きな違いだとアピール。「日本で、さらに多くの方々と一緒に、ファーイースト・ホスピタリティのポートフォリオを拡げていく」と話し、いっそうの展開拡大と多角的な宿泊需要の取り込みへの自信を示した。
お問い合わせ:
- ファーイースト・ホスピタリティ・マネジメント・ジャパン株式会社
マーケティング担当 tetsuya@fareast.com
記事:トラベルボイス企画部

