JTBは2026年4月、ビッグデータ分析を手がけるナイトレイの全株式を譲受し、子会社化した。背景にあるのは、JTBが2026年1月に発表した長期ビジョン「OPEN FRONTIER 2035」だ。
同ビジョンでは、企業競争力の中核として「交流創造Intelligence」を掲げており、ナイトレイのグループ化はその重要なピースと位置付けている。交流の価値を最大化し、提案・実行・効果検証まで、一気通貫で支援する体制を強化する考えだ。
ナイトレイがJTBグループに加わったことで、どのような価値が生まれようとしているのか。JTB代表取締役専務執行役員の大塚雅樹氏と、ナイトレイ代表取締役の石川豊氏に聞いた。
街を読み解く力を提案力に
2011年に創業したナイトレイは、SNS、アプリGPS、決済、カープローブなど多種多様なビッグデータから人流分析ソリューションを開発し、観光やまちづくり領域に提供してきた。
2015年に訪日外国人分析支援サービス「inbound insight(インバウンドインサイト)」をリリース。2021年には日本人生活者・旅行者の分析も含めた「CITY INSIGHT(シティインサイト)」へ進化させた。人流など位置情報データにフォーカスした包括的なまちづくり・地域活性化支援ソリューションとして、分析レポート、ダッシュボード、ソフトウェアサービスの3本柱で、観光からモビリティ、教育、防災に至る幅広い領域でデータ支援を展開している。
石川氏は「インバウンドに寄りすぎるのではなく、街をビッグデータで読み解く仕組みへと進化させた。旅行者はもちろん、地域に住む方々の行動や困りごとまで可視化することができる。自動車の移動データを活用した道路インフラの管理・保全など、スマートシティ関連のプロジェクトに関わる機会も増えている」と説明する。
ナイトレイの主力サービス「CITY INSIGHT」は、街の様々な側面をビッグデータで読み解き、課題解決に導く一方で、JTBが長期ビジョンで掲げる「交流創造Intelligence」は、価値創造企業として成長を目指す同社の事業基盤となるものだ。大塚氏が強調するのは、情報(インフォメーション)とインテリジェンスの違い。同社が考えるインテリジェンスとは、事実に基づく情報やデータを分析し、その背景や同社のノウハウをかけあわせて洞察にまで進化させたものだ。意思決定や次の行動の判断に使えるものへと高めたものを指す。
大塚氏は「単一のデータやインターネット上で拾える情報は、すべて単なる“インフォメーション”に過ぎず、誰でも収集することができる。我々が目指すのは、顧客が持つ情報とJTBが培ってきた経験・知見を融合し、他社には真似できない『交流創造Intelligence』へと昇華させること。それにより、交流の価値を高める提案をすることだ」と説明する。
JTBではこれまでも、行政や企業に対し、イベント、コンサート、スポーツ大会などの施策を提案してきた。しかし、大塚氏は「過去の経験値に頼る部分が多く、客観的なデータに基づいた提案が十分にできていなかった」と課題を口にする。そこで注目したのが、以前から取引関係があり、人流ビッグデータ分析に強みを持つナイトレイだった。
JTB代表取締役専務執行役員の大塚雅樹氏
交流の価値を、説明できるものに
JTBがナイトレイに期待するのは、単なる人流データの提供ではない。ナイトレイの最大の強みは、数多くのデータパートナー企業と中立で強固な関係性を築き、多種多様な位置情報・人流ビッグデータを扱える体制を整えていること。そして、顧客の課題や目的に応じて、最適なデータを組み合わせて分析できる点にある。
石川氏は「この領域を本業かつ事業の中心として展開している会社は、国内では当社だけ」と、その独自性を強調する。
JTBにとってナイトレイの参画は、調査・分析から企画、実行、効果検証までのPDCAに欠けていた「人流分析」のピースを埋めるものだ。
石川氏は「JTBグループ内で人流データの収集や分析機能をナイトレイに集中させ、グループ全体でより人流データにアクセスしやすい環境を構築している。JTBが手掛ける地域の交流創造施策の事前調査や計画立案、マーケティング、集客、イベント実施のケイパビリティ・サイクルにナイトレイというピースが追加されたことで、全国のJTB営業担当者がお客様に対して、より高度で説得力のあるソリューションを提案できるようになる」と説明する。
大塚氏は「あらゆる業界でデータドリブン経営が叫ばれる今、クライアント側も『提案の確からしさ』を求めている。人と人が交わる『交流の価値』を最大化し、可視化するためには、ナイトレイの持つケイパビリティをグループに組み込むことが重要だと判断した」と説明した。
JTBに蓄積された経験や知見に、ナイトレイが培ってきたデータ分析力が加わることで、「交流」を定量・定性の両面から捉えてその価値を可視化する。そして、提案から実行、効果検証までを一気通貫で支援し、施策の精度を高める。さらに、旅行者の感情変化や感性、価値観に関するデータと、人流データを組み合わせることで、「誰が・どこに来て・どう感じ・どう動いたのか」を把握し、単なる移動履歴の分析にとどまらず、行動の背景にある意識や嗜好まで読み解くことで、より精度の高い提案が可能になる。これが、ナイトレイをグループ化した最大の狙いだ。
ナイトレイ代表取締役の石川豊氏
集客支援型から、交流の価値を生む提案へ
ナイトレイのグループ化から3カ月。JTBの営業や提案には、早くも変化が表れている。
これまでもJTBは、案件ごとにナイトレイや他のデータ会社に依頼し、人流データを活用してきた。しかし、その知見は担当者やチームにとどまり、組織全体の資産として蓄積されにくかった。ナイトレイがグループに入ったことで、人流データに関する相談が集約され、全国の各支店や各部署の経験を横断的に共有・活用できる体制が整いつつある。
その変化を促しているのが、現場同士の接点だ。JTBではBtoB領域を中心に社内チャットの活用をはじめており、データ分析に関心を持つ全国のJTB社員とナイトレイのメンバーが直接つながる。営業現場からの相談にナイトレイ側が素早く対応することで、データ要件を含む案件へのアプローチが容易になり、提案の量と質が変わりはじめている。
自治体やDMOの公募案件では、より積極的に手をあげやすくなった。従来はクライアント側から「このデータを使いたい」「人流を分析したい」という要望がなければ、データ活用の案件は生まれにくかった。今はJTB側から「この地域課題には、この人流データで、この分析が有効ではないか」と提案できる場面が増えており、事業の潜在性や新規性を発見できる機会も増えている。
例えば、商業施設への提案も、JTBのツアーによる送客にとどまらない。まず、提案の段階で、どの国・地域の人が来店し、どこに泊まってどう消費しているのかを分析し、将来的に施設側が呼び込みたい人流を設計する。宿泊施設への提案も同様だ。どの国・地域の旅行者が、どのエリアから流入するのかが見えれば、館内での体験や周辺観光との連携を考える材料になる。
大塚氏は「営業担当者がデータを持ったことで、行政や企業との対話レベルが明らかに上がった。交流の価値を上げるための強力な『武器』を得た」と話す。
交流創造事業では、JTB内のデータや知見と外部の人流データをかけあわせ、交流の価値を可視化することが重要
協業の事例と今後の展開
両社の取り組みは、すでに具体的なプロジェクトで成果を出している。JTBが運営を受託した国内外から3万人規模の市民ランナーが参加するシティマラソンでは、携帯キャリアの滞在統計データ、アプリGPSデータ、SNS投稿データなどの人流データを複合的に捉え「大会当日と前後数日の移動や滞在傾向」を可視化して分析した。
その結果、日本人と訪日外国人の行動に明確な違いが表れた。土地勘のない訪日外国人ランナーの宿泊地は、会場周辺や交通アクセスが良くホテルが集まるエリアに集中。日本人ランナーは、会場から少し離れた広域に分散していた。大会後は、日本人ランナーは速やかに帰宅する傾向が強い一方、訪日外国人ランナーは翌日、翌々日まで周辺エリアに滞在。多くの参加者が周辺の有名観光地や大型商業施設を訪れる動きが確認でき、スポーツイベントが地域消費に波及する効果が改めて明らかになった。
大塚氏は「従来はエントリー情報から国籍や属性は分かっても、彼らが大会前後にどう動いたかまで、地理空間的にデータで分析することは難しかった」と話す。
データがあれば、特定市場へのプロモーション強化や、大会後に地域で周遊を促すアフターイベントの企画、周辺施設との連携など、次年度以降の提案が具体的になる。例えば「香港のランナーは翌々日まで残る方が多いから、来年は香港へのプロモーションを強化しよう」、あるいは「大会後の身体をケアする近郊の温泉地でのマッサージ付きプログラムを作ろう」などだ。
イベント運営の改善にも生かせる。ランナーや観客の動きを把握することで、更衣室や仮設トイレ、ボランティアの配置など、次年度の運営精度を高める材料になる。実際、同大会ではJTBが運営業務の継続受注に成功した。
大塚氏は、人流データの取得・分析について「次の提案に深みが出ることが大事なポイント」と強調する。「仕事が終わった瞬間から次の仕事がはじまる。我々が『NEXT DOOR』と呼ぶこのサイクルのレベルが上がっている」。施策終了後の報告書も、次の提案を生むインテリジェンスになるということだ。
ナイトレイは多様なデータパートナーと連携し、目的に応じた複数データの組み合わせで人流を分析できる今後は、蓄積された組織の知見をもとに、アジア圏での日本人旅行者の人流予測を含めたグローバル展開も視野に入れる。大塚氏は「将来的に『交流創造Intelligenceレポート』を定期的に発行し、未来のトレンド予測を共有するとともに、オピニオンリーダーとしての地位を確立したい」と意欲を明かした。
ナイトレイにとっても、JTBグループへの参画は事業の可能性を広げる契機となる。中立的にデータを組み合わせる独自性を生かしながら、大規模プロジェクトやグローバル領域に携わる機会が増え、その経験はデータパートナー企業にもメリットをもたらす。
石川氏は「データとテクノロジーの力で世界中にポジティブな『驚き』を届けていくことが、当社のビジョン。JTBグループとの強力なタッグが実現したことにより、新たな仲間とともに、多方面へアイデアやサービスを展開できる」と期待している。
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参考:
問い合わせ:株式会社ナイトレイ 広報担当 info@nightley.jp
記事:トラベルボイス企画部




