もしあなたがホテルのレベニュー・マネージャーだったら? 売上と利益を増やすテクニック

ホテルコンサルタントの堀口洋明です。

これまで「需要予測を基に 販売を制限することで 収益の拡大を目指す 体系的な手法」であるレベニュー・マネジメント(RM)は、日本では十分に理解されているとはいい難いと説明させていただきました。今回もそんな事例を紹介してみましょう。

前回の「レベニューマネージメント」コラム>>>

例題です。あなたはあるホテルのレベニュー・マネージャー。

次年度予算作成にあたり、増収の戦略を考えなければなりません。幸いにも市場は好調で来年も同じ状態を期待できそうです。

では、どのような戦略をとるのがよいのでしょうか。

増収の戦略を検討するのも、レベニュー・マネージャーの大切な仕事ですね。

  •  客室総数 100室
  •  立地条件 福岡市内に立地
  •  年間稼働率 84.3%
  •  年間ADR 8,961円

ホテル業において戦略を考える最初のポイントは「数量を増やすか」「単価を上げるか」を選択することです。

数量を増やすことと単価を上げることは、ともすれば矛盾し両立は難易度が高いのです。例えば、数量を増やすには安価であっても団体を受注したほうが良いのですが、単価を上げるには安価な団体は受注しないほうが良い、という具合です。

私は数量を増やすことを「数量獲得戦略」、単価を上げることを「単価上昇戦略」、どちらの戦略を基礎とするか決めることを「基本戦略」と呼んでいます。

さて、例題に戻りましょう。

例題のホテルでは年間稼働率が84.3%ですから、稼働率100%にはまだ15.7%もの余裕があるということになります。そこで数量獲得戦略をとる・・・のは、実はあまりお薦めできない判断です。

理由は曜日別に稼働率を見てみるとわかります。

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平均すると稼働率は84.3%ですが、満室になっている日(水・木・土曜日)と十分に空いている日(日・月曜日)に偏って分かれています。そして日曜日というのは、数量を増やすのがとても難しい。ビジネス目的のお客様は日曜日から出張には出かけませんし、レジャー目的のお客様は月曜日が仕事の方が多いために利用はあまり見込ません。

一見、十分に数量を増やす余地があると見えても、実はかなり難しい日・月曜日しか数量を増やす余地がないことも多いのです。

私は稼働率が80%を超えると「単価上昇戦略」を選ぶことをお薦めしています。リゾートのように月毎に稼働率が大きく異なるような場合は、月単位で基本戦略を選ぶとよいでしょう。

実は日付の特性に応じて分けて考えるのが、日本ではあまり普及していないRMの要素のひとつなのです。RMでは「同じ特性を持つ日」をTOD(Type Of Day)と呼びます。RMはTOD毎に分析し戦略を立てるのです。

TODは曜日をベースに考えていただくとわかりやすいでしょう。

しかし曜日だけが唯一の切り口でもありません。

例えば大きなデパートを顧客に持つホテルでは同じ木曜日であっても「デパートの催事がある日」と「ない日」では大きく傾向が異なります。ビジネス利用のお客様を十分に取り込めているホテルでは、火~木曜日の傾向が同じだったりします。リゾートでは「平日」と「休前日」に分けて考えれば十分なことも多いのです。

では例題のホテルで「単価上昇戦略」を取ることにしたとしましょう。

単価上昇戦略には、それを支える下位の戦略がいくつかあるのですが、ここでは構成比を調整するという判断をしたとします。ADRの高い経路の販売数を増やし、ADRの低い経路を減らせば全体的に単価上昇が可能となるからです。

構成を考えるにあたって、皆さんになじみ深いであろう「予約経路」で考えてみましょう。年間平均の予約経路別構成は下記の通りです。

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さて、あなたならどこを増やしてどこを減らしますか?ADRが一番高いのは旅行会社ですから、それを増やせばいいように思えます。しかし、実はこれも間違った判断の場合があるのです。

もう少し情報を追加してみましょう。レベニュー・マネージャーならぜひ活用してほしいDOR という数値です。

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DOR(Double Occupancy Ratio)とは、1室あたりの平均利用人数を表す数値です。何故レベニュー・マネージャーにこの数値を活用してほしいかというと、DORからレジャーマーケットとビジネスマーケットの割合が判断できるからです。

ビジネスマーケットは原則として1室1名利用です。出張で1室2名利用というのはほとんどないと言っても過言ではありません。逆にレジャーマーケットは1室2名以上の利用です。もちろん気ままな一人旅の方もいらっしゃるので、ビジネスマーケットほど断言はできませんが、それでも誤差の範囲と言っていい少数です。

ビジネスマーケットは平日に強く、レジャーマーケットは週末に強いという傾向もあります。そして(日本では)ADRはビジネスマーケットよりレジャーマーケットのほうが高い傾向があります。

ですから、単にADRを上げようと思えばビジネスマーケットよりレジャーマーケットに力を入れるべき、ということなります。一方でビジネスマーケットのピークは1週間に2~4日 、レジャーマーケットのピークは休前日に偏り1週間に1日程度となりますので、ビジネスマーケットのほうがチャンスは大きいとも言えるのです。

DORでどうやってビジネスとレジャーマーケットの割合を判断するか、それは小数点以下の部分をレジャーマーケットの割合と見れば良いのです。DORが1.20であれば20%、1.8であれば80%がレジャーマーケットの占める割合です。

さて、以上の情報を頭に入れて、もう一度予約経路の構成を見てみましょう。

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旅行会社DORが1.94と高く、インターネットDOR1.23、直接予約DOR1.24と低くなっています。つまり、旅行会社のほうがレジャーマーケットを得意としているように見えます。しかし、それぞれのマーケットのチャンスの日数を考えると、「DORが高すぎる=週末しか販売できていない」という可能性が出てくるのです。やはり、経路別の傾向もTOD単位で分析するべきなのです。

経路別の傾向をTOD毎で集計すると下記の通りでした。

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なんとレジャーマーケットのピークとなる土曜日では、却ってインターネットや直接予約のほうが、ADRは高くなっています!この例題のホテルにとって、旅行会社はレジャーマーケットに強いのではなく、ビジネスマーケットに弱いと見るべきなのでしょう。

ここまで分かってくると立てるべき戦略が変わります。

「全体的に旅行会社の構成比を増やす → 旅行会社に提供しているブロックを増やす」のではなく、「土曜日の旅行会社の構成比を減らす → ブロック数を減らしインターネットに割り振る」ほうが、より増収につながるのです。

今回例題として挙げた構成は、すべてのホテルに共通した傾向ではありませんので、必ずご自身のホテルでTOD毎に分析をし、戦略を検討してください。これまでの戦略や置かれている状況によって、ホテル毎に戦略が異なってくるのですから。

今回のポイント

  •  戦略を立てるならまず「単価上昇」か「数量獲得」を選ぶほうがよい
  •  TOD毎に分析し、戦略を検討したほうがよい

おまけ
今回の例題データが確認できるエクセルを公開します。なお、個別のご質問には応じかねますので悪しからずご了承くださいませ。

ダウンロードはこちら

*上記図表は筆者作成。

堀口 洋明(ほりぐち ひろあき)

堀口 洋明(ほりぐち ひろあき)

ホテルコンサルタント。長崎大学卒業後、国内のリゾートホテル、シティホテル、ファンド系ホテルチェーン本部勤務を経て2007年に株式会社亜欧堂を設立。国内系・外資系、シティホテル・ビジネスホテル・リゾートホテルといったホテルの業態を問わない経験を持ち、「ホテルマネジメントをサポートする」をコンセプトに、国内ホテルを中心にコンサルティングを提供中。著書に「ホテルの売上倍増実践テクニック100(オータパブリケイションズ)」など。

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