旅行業で「チャットボット」が主役になる日はくるのか? 国内外の事例やメリットを整理した【外電コラム】

海外からの旅客誘致に力を入れる日本では、ここ10年間で、主要駅などで英語の案内表示が飛躍的に増加し、新幹線では日英の二か国語でアナウンスが流れるようになった。道路や交通標識で英語が使われることも増え、日本に行く外国人にとってはありがたい限りだ。しかし最近、さらに便利な新サービスが出現した。

※この記事は、「WTMインサイト」に掲載されたトラベルジャーナリストのスティーブ・キーナン氏の英文コラムを許諾を得て、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

成田空港の「タイムズカーレンタル(Times Car Rental)」で車を借りると、利用客が希望するメッセージング・プラットフォーム上でチャットボット「Bebot」が利用できるのだ。これは、個人向けにコンシェルジュ・サービスを提供するチャットボットで、例えば、レストランや劇場の予約、道案内、よくある質問への回答などをこなす。もちろんすべて英語で、だ。

日本でBebotが提供されるようになったのは今年4月。今ではホリデイ・インなどの大手ホテルチェーンでも利用されている。一方、日系チェーン「変なホテル」では、人間そっくりのロボットがフロント業務を担当している。5月のザ・ガーディアン紙では、こうしたロボットたちが、「人間の感情も理解して話す機械」に進化していくのか、という議論も展開された。

旅行関連のチャットボットはすでに200種類以上に

チャットボットの開発が始まってからもう何年も経過しており、今ではそれほど革命的な存在ではなくなった。2016年にフェイスブックがメッセンジャーを使ったチャットボットサービス機能をリリースしたのが引き金になり、ますます利用の拡大に拍車がかかっている。

事実、2016年だけで3万5000以上のチャットボットサービスが実用化された。チャットボット市場の情報を提供する「チャットボトル(Chatbottle)」によると、旅行関連だけでも、いまや数100種類のチャットボットが登場している。

また、eマーケッター社(eMarketer)の予測によれば、2018年にはスマートフォン利用者の8割がモバイル・メッセージングを使うようになるという。そして、人工知能(AI)と人間の知能の両方を駆使してOTAを検索し、お得なホテル料金を提案する「スナップ・トラベル(SnapTravel)」などの新興企業もここに参入。同社は「A half-bit, half-human service(コンピュータとヒューマンが半々ずつ関与するサービス)」が自社のウリだとうたっている。

基本的に、チャットボットはシンプルな質問のみに対応する。例えば航空会社なら「荷物の制限量は?」、ホテルなら「チェックインは何時から可能?」などが好例だし、天気や遅延に関する最新情報をシェアすることも容易だろう。それからリモートでのチェックインもOK。ただし、質問内容が複雑になってきた場合は、人間が割って入る。

旅行業界では、ホテルや航空会社(常連はKLMオランダ航空)が最も早くこの新技術を取り入れてきた。それによって従業員に余裕が生まれ、顧客のデータベース充実にもつながる。前述のスナップ・トラベルや「ヒップマンク(Hipmunk)」のような情報収集サイトが台頭する一方、「スカイスキャナー」など、すでに確固たる地位を築いたサービスも競争に加わった。チャットボットを使った旅行計画サービスの比較記事「6 Travel Chatbots to Plan Your next Holiday」もある。各社ともこの記事にあるように、将来的には一つのアプリで旅行の計画を立てるようになり、その際はAIと人間の、両方の研究成果が活用されると考えている。

エドワーディアン・ホテルズのチャットボット名は「エドワード」、従業員は複数の社内アプリを日々活用

オンデマンドでやり取りする情報やサービスは、音声経由でもテキストメッセージ経由でも、もはや標準装備だ。必要な作業の大部分をロボットがこなせば、難しいことではない。

アイ・フォー・トラベル(EyeforTravel)社は先ごろ、旅行系ボットをテーマにしたウェビナー(ウェブ上でのセミナー。音声付き動画が表示されます)を開催。ここに登壇したエドワーディアン・ホテルズのIT担当ディレクター、マイケル・ミリニ氏によると、同社のボットが対応できる「よくある質問」は今や600種類。しかもこの数字は、日々更新中だという。

「数年前に私たちは、“さらなるレベルアップを図るには、従業員がもっと余裕をもって業務をこなす体制が不可欠だ”という結論に至った」とミリニ氏は振り返る。現在、同ホテルのスタッフは23種類の社内用アプリを持っていて、勤務当番表、メンテナンス、ハウスキーピングなど、あらゆるオペレーションが細かく管理されている。

この体制はさらに進化し、宿泊客への対応にも活かされるようになった。ゲストに関する情報や嗜好などもアプリに保存し、すべてのホテルスタッフが閲覧できるようにした。「従業員の機動力をアップし、いつでも宿泊客の要望に対応できるようにしたかった」(同氏)。

予約ゲストには、到着3日前にメッセンジャーやメールで連絡を入れる。その時点で、客室を選び、コンシェルジュ・サービスでチェックイン(出発前はチェックアウト)を済ませることもできる。「セルフサービスはゲストの間で好評です。みんな、ホテルに到着してから列に並ぶのは嫌でしょう」とミリニ氏。そうするうちに、ゲスト側にもホテルに聞きたいことが色々あることが分かった。例えば「到着が夜中2:30になるけど、スパゲティ・ボロネーゼを食べられるかしら?」といった具合だ。

エドワーディアン・ホテルズのボットが本格的に稼働したのは1年ほど前。同社の「バーチャル・ホスト」の名前はエドワードだ(ちなみに大抵のボットは名前がついており、90%が女性名だ)。エドワードは同社の予約システムにリンクしており、「客室の準備ができているか」「宿泊料金に朝食は含まれているか」といった質問に答える。その回答内容は、システムを介してルームサービス担当にもフィードバックされる仕組みだ。

チャットボットの最大効用は、顧客理解の進化とパーソナルな対応の充実

ボットを活用する企業の多くは、基本的な質問への対応を考えているが、実情はもっと複雑だ。例えば宿泊客から『妻の誕生日用に花束を手配したいのだが』と相談された場合には、まず近所のフローリスト情報が必要だが、同時にカスタマーサービスにもその誕生日情報を伝える。そして現場はこれを接客の場で活かす。

パーソナルな接客姿勢は、ソーシャルメディア上で宿泊客から高い評価を受けるのに役立つだけでなく、ホテルに対するロイヤルティ向上にもつながる。常に同じ品質の接客ができること、パーソナルな気遣いをさらに深化させることが肝要だ。

当然ながら、データのセキュリティは不安要因だ。相手の顔をみながらのコミュニケーションが一番好ましく、機械に操られるのは嫌、というのは理解できる。カヤックが実施した2017年度モバイル旅行調査では、英国民の半分以上が「チャットボット」という言葉すら聞いたことがないという結果だった。

しかしエドワーディアン・ホテルズでは、ホテルブランドにとっても、宿泊客にとっても、純然たるメリットがあると断言する。

「当社では、ボットを活用したことで宿泊客に対する理解が格段に深まった。例えば、ゲストは夜寝るときに翌朝の朝食について考え始めると分かった。これからエドワードはさらに進化を遂げ、もっと多くのことを学ぶだろう」(ミリニ氏)。

※編集部注:この記事は、世界最大級の観光産業向け国際見本市「WTM(World Travel Market)」の関連メディア「WTMインサイト」に掲載された英文記事について同編集部から許諾を得、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

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