オーバーツーリズムの影響で生まれた新たな観光政策とは? 世界で注目される「アンダーツーリズム」の事例から【外電】

オーバーツーリズムが世界的に関心を集めるなか、この流れに呼応するように、注目を集め始めているのが「アンダーツーリズム」だ。アンダーツーリズムでは、静かでのんびりしたところだからこそ楽しみがたくさんあり、混雑した都市よりおすすめ、とアピールしている。

アンダーツーリズムが旅行業界の中で意識されるようになるのに伴い、これまでは無名だったデスティネーションや、今までにないストーリー性を持つ地域も、地元のマーケティング活動に乗り出している。その土地ならではの体験にどっぷりとはまりこみ、人と人、あるいは土地、文化、地域コミュニティとの関わりが生まれるような過ごし方を提案している。インスタ映え重視の画像や、マスツーリズムとは一線を画す。

※この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

かつての観光局やデスティネーション当局は、目標とする訪問客数や消費額を達成すれば満足で、地元の経済発展や地域マネジメントといった課題については、他の組織に任せたままだった。

しかしここ数年、オーバーツーリズムへの問題意識が大きくなると、デスティネーションマーケティングの手法について責任が問われるようになり、自治体の観光当局は、バルセロナやヴェネチアの二の舞にならぬよう、コントロール不能の手に負えない状況になる前にプランを策定し、訪問客数の増加をマネジメントする必要性を認識するようになった。

こうした姿勢は、短期的には観光収入を減らすかもしれない。それでも多くのデスティネーションは、節約志向の観光客をたくさん誘致するよりも、限られた人数の富裕層を誘致する方が得策であり、適切な受け入れプランを提供することで地元の消費拡大に貢献してくれるリピーターにもつながると考えるようになった。

混雑した観光地から、近隣のまだ訪問客数が少ないエリアへ、あるいはピークシーズンだけでなく他の季節に旅行需要を分散するのが目標だ、と話すデスティネーション関係者が増えている。ただし旅行者を拡散するだけでは、根本的な問題解決にはならない。まだ観光客の受け入れ態勢が十分に整っておらず、住民も盛り上がっていない、あるいはオフシーズンは閑散としたままなのに、近隣の地域を対象にこうしたアプローチが始まってしまうケースが多いことも問題だ。

例えば、アムステルダム郊外にあるマウデン城では、最近、自らの呼称を「アムステルダム・マウデン城」に変更した。街の中心地に滞在している旅行者にも足を運んでもらおうという戦略で、アムステルダム観光局も同城のプロモーションを行い、マウデン城の公式ウェブサイトでは、旅行者向けに「アクセスは簡単」とアピールしている。ところが実際には、駐車場の数が限られている上、電車やバスを使うと複数回の乗り換えが必要になる。旅行者にとって、交通手段は分かりやすい方がよいに決まっているが、マウデン城の対応は「あとは自分で調べて」と言わんばかりだ。

スキフトがオーバーツーリズムを取り上げるようになって3年ほどだが、この数年間で、ツーリズムに関する様々な計画策定やマネジメントに対する旅行関係者の姿勢は、世界中で大きく変わった。オーバーツーリズム問題に直面しているバルセロナやヴェネチア、京都では問題が起きていることを認めるようになり、そこまで混雑していない他の都市でも、同じような状況を防ぐためにできることを始めている。

最近では、多くのデスティネーションが、アンダーツーリズムを目指す方針を打ち出している。例えばオスロが2017年から開始したキャンペーンは、パリなどの人気都市から旅行者を「避難させる」という内容。ノルウェーの首都なら、博物館は混雑なしでゆっくり楽しめるし、レストランの予約はすぐとれる、公園は広々してスペースたっぷり、という訳だ。

一方、コロンビアでは反政府ゲリラとの和平合意が成立して以来、このチャンスを活かそうと、海外からの旅行者向けに新しいイメージ作りに動き出している。かつては世界で最も危険な街、ドラッグ取引の中心地と恐れられていたメデリンでは、新しい時代の到来を機に、住民向けのインフラ整備に着手。山岳部に暮らす人のためにケーブルカーを建設し、何マイルも離れた中心街やダウンタウンまでのアクセスが便利になった。こうした取り組みにより、街は都市開発の成功事例として注目されるようになった。交通の便が改善したことで、都市の中心部から離れたエリアで暮らす住民にも、観光業の拡大に伴う雇用機会の増加や、文化交流の拡大など、経済発展の恩恵が及ぶようになっている。

「おしゃれな都市に生まれ変わったとまでは言わないが、多くの人がメデリンに関心を寄せてくれるようになった」とメデリン会議観光公社(MCVB)のディレクター、アナ・マリア・モレノ・ゴメズ氏は話す。「以前は、都市からでるごみの廃棄先だった山岳部が、今や緑豊かな田園地帯に生まれ変わった」。

メデリンは、暴力にまみれた過去から脱却し、グリーンエコノミーの実現へと歩み始め、観光政策においては、生態系の豊富さとサステナビリティを前面に打ち出している。そうした姿勢は、気候変動やデスティネーション破壊などの問題に悩む世界にあって、なんとも新鮮に映る。

ゴメズ氏によると、メデリンでは、コーヒー農園を訪れるツアーなど郊外にある観光素材の品揃えを充実させることで、中心街におけるオーバーツーリズム回避に役立てようとしている。「新しいコロンビア政府(イバン・ドゥケ大統領)が期待しているのはオレンジエコノミー、つまりアートや文化などあらゆるクリエイティブ産業を巻き込んだ発展です」(同氏)。

オレンジエコノミーの活性化なくして、ツーリズムがしっかり根を張ることは難しいとの考えから、コロンビア国内の各地で、有名観光名所以外にツーリストが関心を持ちそうな資源を発掘するようになった。こうした取り組みが長期プランとして確定していることも大切だ。「メデリンではツーリズム長期計画を策定しており、この先、執行部が新しくなっても、この計画自体の変更はない」とゴメズ氏は説明する。

もう一つ、アンダーツーリズムに取り組む事例といえば、プエルトリコだ。この島国の観光産業は、一部で今も困難な状況が残っているものの、2017年9月に襲来したハリケーン・マリアの被害から大幅な改善をみせている。政府の観光当局は、カリブ海リゾートアイランドの混雑を嫌う人に、プエルトリコがおすすめだと働きかけている。カリブ海には多くのアメリカ人客がやってくるが、大半はオールインクルーシブな料金体系のリゾートホテルで過ごし、地元の人々や、地場産業との関わりはほとんどない。観光当局は、クルーズのプロモーションも継続しているが、旅行者には、地元コミュニティとの関わりが楽しめるホテルにも一週間ほど滞在するよう促している。

一方、日本の京都のケースは、オスロやメデリン、プエルトリコとは異なる。なにしろこの古都は、日本へ旅行する人なら誰もが知っている有名観光地だ。だが日本政府観光局(JNTO)が、東京など主要ゲートウェイのもっと先へ旅行者を誘致するマーケティングキャンペーンに乗り出すと、京都への旅客数が急増する事態に。同キャンペーンは、旅行者の数を増やすという点では成功だったが、「願い事をするときには気をつけろ」という格言通りの事例とも言える。

京都の住民は、観光客の増加によって起きる交通渋滞や混雑に怒っており、これに対処するべく、行政はスマートフォンのデータに基づく分析調査を開始した。この調査はまだ継続中で、一日の時間帯のうち、いつ、どこに、人が集中しているかをトラッキングしている。通常は、朝から午後3~4時頃までの時間帯に人が多くなる。こうした結果を踏まえ、二条城では開園時間の変更に踏み切った。日本政府はここ数年、観光産業を経済成長の柱の一つとする政策を掲げており、東京五輪を開催する2020年には「外国人客4000万人誘致」を目指している。ところが調査では、ツーリズム拡大を歓迎しているのは、地元住民のわずか18.2%という結果だった。

すでに何年も前から、オーバーツーリズムと戦っている旅行会社もある。その一つ、イントレピッド・トラベル社(Intrepid Travel)では、2019年のアジア旅行でお勧めの「ホットじゃない旅行先リスト」を作成した。例えば「ボルネオ島のかわりにスマトラ島」「アンコールワットよりもブハラ」といった具合だ。

国連世界観光機関(UNWTO)統計によると、2017年には世界の海外旅行人口は13億人に達し、2008~2009年の金融危機以降、7年連続で増加中だ。金融危機の後、多くの国が経済の失速を食い止めるべく、ツーリズムにテコ入れする戦略に転じたことが奏功。例えばアイルランドのような小さな市場規模の国では、ツーリズムが最大産業に躍り出た。

人々の消費行動を予想するのは難しく、旅行という形のない楽しみが、これほど急激に拡大していくとは、各国政府にとっても想定外だった。昨今では、政府や観光産業のリーダーたちが、いつ、どこで、どのように観光マーケティングを展開するべきか、再考を迫られている。その一方で、混雑が指摘されるアムステルダム、バルセロナ、ヴェネチア、京都でさえ、一部の人しか知らない魅力や、未開拓のルートがまだある。困難に直面するデスティネーション各地にとって、これからの課題とは、オーバーツーリズムを理由に受け入れ規模を縮小することではなく、スマートな戦略を取り入れ、旅行者が知らない未知の、しかし魅力たっぷりの新しい楽しみ方を広めていくことではないのだろうか。

スキフトでは、「アンダーツーリズム」ほか、2019年の旅行業における様々な動きを予測した「2019年メガ・トレンド」を発表している。同レポートの全文は以下から無料で入手できる。

※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

※オリジナル記事:Travel Megatrends 2019: Undertourism Is the New Overtourism

著者:ダン・ペルティエ(Dan Peltier)氏

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