トラベルバブル(相互国合意の域内旅行)の実現に必要な4要素を整理した【外電】

2020年は、新しい言葉が世界中であっという間に広まった。「ニューノーマル」とか、もう少し実用的ではあるが、あまり歓迎されていない点では負けていない「ソーシャルディスタンス」など、暗いディストピアを連想させる言葉が多かった。

だが最近、また少し違う傾向の新語が登場。早く出かけたくてウズウズしている旅行者からの期待と、慎重な姿勢ではあるが、コロナ禍からの経済復活を模索する企業や各国政府の関心を集めている。

それが「トラベルバブル(相互国合意の域内旅行)」「トラベルコリドー」「エアブリッジ」といった用語だ(ちなみに「コリドー」という英語は、各部をつなぐ廊下や回廊などを指す) 。要は、政府間の合意の下、相互の旅行者が厳しい検疫なしで、相手の国に旅行できるというもの。社会的、経済的に結びつきの強い隣国が、ひとつの大きな「バブル(泡)」の中に入り、その枠組みの中で新型コロナ感染を防止しつつ、相互の渡航制限を緩和を目指す考え方だ。感染リスクの高い地域からの旅行者が、コロナ第二波をもたらすことが警戒されている現状を考えると、シンプルだが洗練されたアイデアと言える。

様々な可能性が拡がる一方で、安全に守られた「バブル」実現には、技術面や運用面、そして政治的に難しい問題が山積みだ。

安全だが制限もある

世界各地で、渡航制限の解除が始まっているが、同時に、ウイルスが持ち込まれ、再び感染拡大が起きることも危惧されている。当然、各国政府は、国境管理を徹底しながらの外客受け入れ再開を目指すことになる。地域や国ごとに感染リスクの状況が異なるなかでは、水際対策も渡航ルートごとに変えることになるかもしれない。

ウイルス感染のリスクが低い地域では、同じく低リスクの地域との往来を最初に認める動きが始まっている。例えば、オーストラリアとニュージーランドの間では、タスマン海を横断するバブル圏について協議が続いている。これにより両国間の渡航は可能になるが、実現するためには、健康チェック項目の追加や、モニタリング強化によるアウトブレイク回避などが条件となりそうだ。

もう少しリスクの高い国では、「トラベルコリドー」を利用できる人の属性を制限し、業務渡航など特定のカテゴリーに該当する旅行者、あるいは何らかの厳しい条件をクリアした人に限定している。シンガポールと中国間の「ファストレーン」が一例だ。こうした制限付きのトラベルコリドーができれば、スポンサー付きの業務渡航など、必要度の高い人の往来は可能になる。

どちらのモデルケースでも、リアルタイムのデータに基づいた情報によるアプローチは必須で、刻々と変化する状況にすぐ対処できる態勢が求められる。

レイヤード・アプローチ

多くの国が、国境管理にはレイヤード(階層化)アプローチを採用し、旅行が始まるずっと前から手続きを始める。旅客がハイリスクであると判断すれば、渡航を制限する。こうすることで、空港利用客が低リスクの人だけになり、空港や航空会社にかかる負担を緩和できる。

レイヤード・アプローチは、大きく分けて4段階ある。

  • 第1ステップは査証(ビザ)、または旅行者からの入国申請を許可するプロセス。こうした手続きは、パンデミック以降、強化される可能性が高い。また入国申請から出国までのあらゆる手続きにおいて、健康についての情報提供や、健康に関する宣誓書へのサインが義務付けられるだろう。

    さらに旅行中の滞在先についての確認が必要となり、渡航先の国の中での移動も、感染拡大のリスク回避のため、一部地域に制限されるかもしれない。事前に状況が把握できれば、旅行者も計画が立てやすくなる。
  • 第2ステップは、事前旅客情報(API:Advance Passenger Information)と旅程の予約データ、あるいは航空会社がPNR(旅客の個人情報記録)と呼ぶデータを出発前に収集すること。これにより政府当局は、さらに詳しいリスク要因のチェックができる。例えば、その旅行者が感染の高リスク地域出身であるかどうかなど。

    今のところ、このデータには健康関連の内容は含まれないようだが、将来的には、含まれるようになる可能性もある。今後、各国政府と航空会社が協力し、どういった基準を設けるべきか、検討する必要がある。

リスクの判定

  • 第3ステップはチェックイン手続きで、おそらく最も重要になるのではないか。政府当局側は、この段階で旅行者を審査し、渡航の可否を判断する。APP(Advance Passenger Processing、事前の旅客審査手続き)やインタラクティブなAPIなどのソリューションをすでに導入している場合は、リスクが高い旅客や、健康関連の必要書類に不備がある旅客の搭乗を拒否できる。

    コロナ感染が拡大するなか、SITA(国際航空情報通信機構)では、世界各国の政府当局がAPPを導入し、旅行者の事前入国審査ができるようサポートしてきた。例えばパンデミック初期の頃、ハイリスク地域からの旅行者については、自国へのフライトにチェックインできないようにすることで、ウイルス拡散を防いだ。
  • 最後のステップは、渡航先デスティネーションの空港到着時と入国管理局での手続きだ。空港ターミナルには特別レーンを設け、旅客間のソーシャルディスタンスが保てるように対応する。異なる地域やコリドー経由の旅客たち、あるいは感染リスクに差がある旅行者たちが混在することなく、最後まで別々に行動できるような導線をここで確保する。

    低リスクの搭乗客は、入国手続きエリアを含め、空港内をスムーズに通過できるようにするべきだ。バイオメトリクスやモバイル技術を活用し、できる限りタッチレスで各種手続きを済ませられるのが望ましい。また入国管理の際、長蛇の列ができるのも避けたい。行列はそれ自体がリスク要因になるからだ。一方、より詳しいチェックが必要な制限付きコリドーからの旅客には、到着時にもスクリーニングや検査を義務付ける。

渡航時に集めた情報は、旅行終了後も活用できる。旅行中に接触した人の中からウイルス感染者が判明した場合、政府当局から当人に連絡を入れるなどのサポートが可能だ。

例えば、機内の座席データや旅客の連絡先が分かっているので、後日、ウイルス感染が判明した人が出たら、近くに座っていた旅客に連絡し、自主隔離や、検査を受けるよう指示できる。こうしたデータから、トラベルコリドーのリスク度も、常時、リアルタイムで査定できる。万一、アウトブレイクが起きた場合にも即、対処できる。

信頼と協力

トラベルコリドーがうまく機能するためには、国と国、空港と空港、航空各社間での協力が不可欠だ。お互いに、相手が効果的なリスク管理を実行していると信頼できること、問題が起きたらスピーディーに対処できるよう、常にリアルタイムのデータを集めていることが不可欠だ。

また共通のスタンダード作りも重要だ。すべての利害関係者が、同じ目標を共有できるようになり、データのプライバシーも保護できるからだ。実際、取り扱う情報内容には、注意を要するものが多い。健康に関連するものも含まれるので、データをシェアする目的について、法の規制を徹底し、必要な期間を過ぎたら破棄することを義務付ける必要がある。

2020年を境に、これからの旅行は、あらゆる面で今までとは違うものになりそうだ。この新しい状況が、もっと安全でシームレスな空の旅へ、我々を導くものになると期待している。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:How technology can help protect "travel bubbles" from popping

著者:ジェレミー・スプリングオール(SITA 国境管理担当バイス・プレジデント)

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