スノーピークが挑む「地方創生」を山井社長に聞いてきた、旅行業も取得、その始まりから関係人口の創出まで

キャンプ用品を中心にハイエンドなアウトドア製品を販売するスノーピークが、近年、地方創生事業に力を入れている。キャンプ場開発を通じた地域活性化を進めるほか、独自の旅行ツアーを造成・催行し、ユーザーと地域との関係人口の創出にも積極的に取り組む。アウトドアブランドの枠を超えて、スノーピークが地方創生に注目するワケとは。「スノーピークの明確なテーマは、人と自然をつなげること。自然のなかで人と人をつなげること」と話す山井梨沙社長に聞いてみた。

始まりは、ブランド価値の可視化

スノーピークの本社は、創業地である新潟県三条市にある。2011年、元ゴルフ場だった広大な敷地に本社機能とオートキャンプ場施設を併設する「Snow Peak HEADQUARTERS (スノーピーク・ヘッドクォーターズ)」を開設した。キャンプ場ではキャンプ用品一式をレンタルする「手ぶらCAMP」を展開。スタッフによる設営サポートなども提供し、キャンプの敷居を下げるサービスも始めた。

社員が仕事をする隣に、ユーザーがキャンプを楽しむ場所を造ったことの意味について、山井氏は「スノーピークのブランド価値を可視化するのが目的だった」と話し、この取り組みが地方創生事業のロールモデルになったと明かす。

その後、地方創生の最初の案件として、大阪箕面市から市管理のキャンプ場の運営管理を請負い、大分県日田市からも依頼が舞い込んだ。「意外な依頼だった」(山井氏)が、スノーピークの体験価値が届けられることを再認識し、地方創生の事業化が本格的にスタート。2017年2月には、キャンプ場の拠点開発、運営コンサルティングなど行う実働部隊として子会社「地方創生コンサルティング」を立ち上げた。

山井氏は2020年3月、32歳という若さで社長に就任した。自社開発の「ローカルウェアツーリズム」とは

その地方創生事業の一環として生まれたのが「ローカルウェアツーリズム」。アパレル産業の上流にあたる地域の生産者を訪れて、実際に地域の地場産業を見学し、体験してもらうツアーだ。

山井氏は、アパレル業界出身。2012年にスノーピークに入社し、2014年にアパレル事業を立ち上げ。2018年には日本各地の服飾文化に焦点を当てた「ローカルウェア」プロジェクトを始めた。その派生型としてローカルウェアツーリズムを始めたのも山井氏自身だ。「アパレルが大量生産大量消費の産業になってしまっているなか、地域の生産者へのその反動は大きく、衰退の危機にある地場産業も多い」と山井氏。「それをなんとか食い止めたい」との強い思いから、消費者と生産者を直接結びつける手段としてツーリズムに目をつけた。

これまで、新潟県佐渡、岩手県一関などで実施。当初は、現地旅行会社による着地型ツアーで催行していたが、スノーピークは今年3月に旅行業第2種を登録。ツアーの企画から催行まですべて自社オペレーションで行う体制を整えた。

訪問するのはスノーピークのアパレル製品で使われている素材の生産者。募集は、ホームページでの直販のみで、スノーピーク会員だけでなく、一般ユーザーも参加することができる。首都圏からの参加者が中心だが、コロナ前はインバウンド旅行者の参加も見られたという。

ローカルウェアのプロジェクトとして始まったツーリズム事業だが、スノーピークは「衣食住働遊」での自然指向のライフバリューの実現をミッションとしていることから、ローカルフードやローカルライフをテーマにしたツーリズムも展開し、地域とのつながりを生み出している。

岩手県一関市の「京屋染物店」でのローカルウェアツーリズム(スノーピーク提供)

高い満足度も「まだ模索中」

参加者の満足度は非常に高い。「ただの体験ではなく、人との繋がりがあるところが満足度を高めている一番大きな要因だろう」と山井氏。佐渡の田植え体験ツアーの参加者には、その後に自分で植えた苗の成長を確認するために、個人的に再訪する人もいるという。「直接、農家とつながったからこそ、地域へのリピーターも生まれた」。人と人をつなげる仲介役としてスノーピークは、関係人口の創出にも一役買っている。

一方、山井氏は「ローカルウェアツーリズムで一番嬉しかったのは、生産者の反応」と話す。アパレル産業の川上に位置する織物などの生産者は、その素材が手から離れると、それがどのような服になり、どういう人が着ているのか全く分からない。しかし、ローカルウェアツーリズムでは、生産者はその実像とリアルにコミュニケーションできるため、仕事へのモチベーションが高まったという。その話を聞いたとき、山井氏は「地方創生に向けて、すごく大きな一歩」と感じた。

ただ、ツーリズム事業では課題もある。今年は、新型コロナウイルスの影響による緊急事態宣言で、催行が中止になったツアーも出た。また、地域によって収益性や協力の姿勢にバラツキがあるのも現実だ。現在の自社による企画・運営から、将来的には地域で自走できる仕組みを作り上げていく方針だが、実際のところ「まだ模索が続いてる」のが現状だという。

コロナでキャンプ需要が前倒し

コロナ禍で、キャンプを始めとするアウトドアアクティビティの人気が上がっている。グランピングやソロキャンプなども新たな旅のスタイルとして注目が高まってきた。

山井氏は「10年ほど前からキャンプ事業は伸びるのではないかと思っていた」と話す。高度に発達した文明社会で、人が自然からどんどん遠のいていくなか、「人間の自然との関わり合いを持ちたいという根源的な欲求は高まっていくのではないかという仮説があった」という。スノーピークの企業理念は「人間性の回復」だ。

そのなかで、コロナ禍はその人と自然との関わり方を再認識するきっかけになり、もう一度自然とリコネクトしたいという欲求の高まりによって、「キャンプ需要が前倒しになった」と明かす。

それは、数字にもはっきりと表れている。スノーピークの2021年12月期の中間決算は売上高は前年同期比77.6%増の116億円。2011年度の約25億円から約4.5倍に増加した。営業利益も同513.5%増の16億円となり、大幅な増収増益を達成。通期の業績予想も大幅に上方修正した。また、スノーピークポイントカードの会員数も、エントリー層を中心に右肩上がりで増えており、2021年6月末時点で58.5万人に達した。

それでも、日本のキャンプ人口は7%ほどと言われており、ほとんどがキャンプ未経験者。日本のキャンプ市場について、山井氏は「潜在的にキャンプをやってみたいが、どのように始めたらいいのか分からない人も多いのだろう」と分析。その潜在層を取り込むためにキャンプへの間口を広げていく考えを示す。

現地宿泊がキャンプとなるツーリズム事業もそのひとつと位置づけるほか、白馬などで展開するグランピング、ヘッドクォーターズなどで提供する「手ぶらCAMP」、新たな働き方として提案する「キャンピングオフィス」などを「きっかけづくり」として挙げた。

来春には、ヘッドクォーターズに温浴施設を中心とした複合リゾート「FIELD SUITE SPA HEADQUARTERS (フィールドスイートスパヘッドクォーターズ)」が開業する。総工費約25億円。10年越しの構想として「かなり気合の入った施設になる」(山井氏)。従来のキャンプ施設だけでなく、宿泊施設やスパ、レストランも併設することから非キャンパーがキャンパーになる入口として期待は大きい。

開業にあたっては、食や体験で地域とのつながりを大切にし、「宿泊者に燕三条のファンになってもらう仕掛けをつくっていく」ほか、地域の人たちにとっては、「地元の魅力を再発見できるような施設にしていきたい」考えだ。

このほか、キャンプ市場の拡大に向けて、スノーピークは47都道府県すべてにキャンプ場をつくるという構想を掲げている。現在、直営と指定管理で7拠点を運営。今年6月には、キャンプ場パートナーの募集を始めた。100件ほどの応募があり、現在その内容を精査している段階。応募者の半数近くが自治体で、宿泊施設からも声がかかっているという。

燕三条に来春開業の「フィールドスイートスパヘッドクォーターズ」。設計は隈研吾氏。(報道資料より)

キャンプも旅も『生きるチカラ』に

「キャンプは旅の価値観と近いと思う」と山井氏。キャンプは、自然の中で自分の判断で動くことが求められ、時には周りの人に助けてもらうこともある。旅も道中でさまざまな主体的な行動が必要になり、現地の人に助けもらうこともある。キャンプも旅も助けてもらった人と友だちになることもある。

「キャンプも旅も『生きるチカラ』になる。ある意味、『人間性の回復』につながるものだと思う」。

山井氏は、海外旅行に自由に行けるようになったら、ペルーを再訪することを楽しみにしている。コロナ前に商談でペルーを訪れ、現地生産者とつながりを持ったが、コロナ禍でそれが中断。「遊牧地の中で自然の原理原則に基づいて暮らしている人たちと価値観を共有して、個人的な関係が持てたことで、仕事抜きでペルーのファンになった」と話す。

「自分で発見して、自分の糧になるような旅が好き」。ペルーでの発見が、スノーピークの新たな糧になるかもしれない。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。