グーグルの旅程管理機能の狙いとは? 受信Gメールで紐づけられる機能の是非、旅行事業者への影響を考えた【外電】

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グーグルによるGメールの旅程管理機能は、便利ではあるが、メリットばかりでもない。ユーザーに誤解を与えるし、グーグルのパートナーである旅行事業者にとっては迷惑な場合もある。

たとえば、Gメールのユーザーが、ユナイテッド航空とエイビスのレンタカー、あるいはエクスペディアのパッケージ旅行を予約したとしよう。すると、先方から送られてきた予約確認メールには、グーグル・トラベル内で管理されている旅程表へのリンク付きモジュールが、グーグルによって付けられている。

旅行者にとっては、便利で気が利いた機能という側面もある。このモジュール内にある「トラベルで確認する(View in Travel)」と書かれたリンクをクリックすると、画面はGメールからグーグル・トラベルに切り替わり、利用予定のフライトや宿泊施設、予約の詳細、さらに過去に利用したり、これから利用予定の旅程に関する情報を簡単にチェックできるからだ。グーグル・トラベルとは、グーグルのサイト(Google.com)内にあるセクションの一つで、フライトやホテル、バケーションレンタル、現地ツアーなど旅行関連の情報が集まっている。

Gメールと、グーグル内に保管されている旅程表が連携する仕組みは、多くのユーザーにとって確かに便利だ。

送信者は誰?透明性に疑問

旅行事業者の間で、この機能が特に問題になっている訳でもない。しかしGメールの親会社であるグーグルが提供しているこの機能には、透明性などの問題もある。

このモジュールは、サプライヤーがGメールを使う顧客に送った予約確認メールに付いている。メール送信者であるサプライヤー名と、送信日時を示すタイムスタンプよりも上に、同モジュールが表示されるのだが、リンク部分がグーグルからという表示は一切ないので分かりにくく、旅行者の誤解を招きかねないことは間違いない。

むしろ、このグーグルから送られたモジュール部分も、メール本文と同様、オンライン旅行会社(OTA)や航空会社が発信者であるように見える。実際、我々が最近、受け取ったGメールでは、オンライン旅行会社からの返信メールに付いたグーグルのモジュール部分に「社名 + 予約受領書」の文字。別のメールでは「他社迷 + 旅行確認書」となっており、いずれの場合も、予約先のOTAでなくグーグルが送信者だと示すものはなかった。

「旅行者に送る予約確認メールを(相手の許可なく)勝手に利用し、他の旅行事業者のプロモーションの場とするやり方は、まるで顧客をハイジャックしようとしているように見える」と指摘するのは、アトモスフィア・リサーチ・グループのヘンリー・ハーテベルド氏。「グーグルには、こうしたことを可能にする技術力があるし、Gメール利用条件に法的な権利も入れてあるのかもしれない。だとしても、こうした手法はいかがなものか」。

以下に示したのは、Gメールに組み込まれたグーグルのモジュールの一例で、ここではジェットブルーの予約確認メールに付いている。「View in Travel(トラベルで確認)」の文字よりも下の部分は、ジェットブルーから送られた内容。一方、特に送信者名がない「JetBlue booking confirmation(ジェットブルー予約確認書)」とタイトルが付いた枠内部分は、ジェットブルーではなく、グーグルからだ。ジェットブルーからの予約確認メールは、送信者情報と送信日時が表示されたところから始まっている。そしてグーグルは同社のメールにタダ乗りしている。

ジェットブルーの予約確認メールに付いているモジュールの例(スキフト記事より引用)

グーグルから送られてきたリンクとは誰も想像できないだろう。だが「View in Travel」の文字をクリックすると、グーグルのページに移動し、グーグル・トラベル内に集められた自分の旅程に関する情報を見ることができる。グーグルが今、旅行関連ではここに一番力を入れている。

次の画像は、実際にグーグル・トラベル内で表示される旅程情報の一例で、ここではユーザーが予約したフライトとホテルが表示されている。異なるサプライヤーで予約した内容を、一か所でまとめて確認できるのは確かに便利だ。しかし航空会社のサイトを見るつもりでクリックしたユーザーは、むしろ不便と感じるだろう。

グーグル・トラベル内で表示される旅程情報の例(スキフト記事より引用)

狙いは?今や、トラベルといえばグーグルか? 

航空会社やホテル、OTAが顧客との一対一の関係構築に力を入れている昨今、こうしたグーグルのアドオン機能が、サプライヤーから利用者を遠ざける障害物になることは明らかだ。

アトモスフィア・リサーチのハーテベルド氏は、ユーザーを第一に考えるなら、まずグーグルからGメールのユーザーに同プログラムを紹介した上で、利用するかどうかは、各個人が選択できる仕組みにするべきだとの考え。だが実際には、ユーザーによく分からない形で、グーグル・トラベルへと誘導している。

ユーザーは、「グーグルの各種プロダクトにおけるスマート機能とパーソナル化機能」というページにアクセスし、同機能をオフにすることもできる。しかし、わざわざそんな手間をかける人は少ないのではないか。サプライヤーのサイトへの直接リンクかと思ったら、まずグーグルに迂回された、というだけ。さらに、この機能を気に入ってくれるユーザーの存在も認めなければいけない。

グーグル・トラベルでは、自分の旅程を見ることはできても変更などはできない。その点から考えれば、サプライヤーのオペレーションにグーグルが介入している訳ではない。またグーグルでは、ユーザーがこの追加機能により混乱していないかを検証するテストも実施している。

スキフトからの質問に対し、グーグルでは「この機能のせいで、ユーザーが混乱しているという兆候は今のところ確認していない」と回答。「それどころか、自分の旅行プランをもっと楽に管理したいと思っていた人から、ポジティブなフィードバックをたくさんいただいている」。

なるほど。

それならユーザーが困っているケースがここに一つある。私自身、サプライヤーからのGメールに付いたリンクを何度もクリックしてしまい、当然、予約した航空会社やOTAのウェブサイトに行くと思ったら、なぜかグーグルに誘導された。このモジュールがグーグル発のものだという表示がどこにもないため、誤解を招くのだ。私はフライトの変更や、座席を選びたいと思ってリンクをクリックしたのに、関係ないページに飛ばされて、余計な回り道をする羽目になった。

サプライヤーからの予約確認メールには、通常、利用客がその内容を管理するためのリンクがついているものだ。またコロナ禍の影響で、必要に応じて、旅行の予約内容をある程度、フレキシブルに変更できる方針を導入する事業者は増えている。ところがグーグルのモジュールのせいで、サプライヤーからのメールが本来の目的からはずれて、ややこしいことになり、ユーザーにもっと自社サイトを活用してほしいというサプライヤー側の思惑にも反することになる。

なおスキフトでは、ジェットブルー、ユナイテッド航空、エイビス・バジェット、ブッキングドットコム、エクスペディアなど複数社に意見を聞いたが、グーグルの同機能について、記事中で引用OKのコメントは得られなかった。

本来なら、「グーグル・トラベル」へのリンクと表示するべきところを、「トラベル」内の予約確認情報をご覧ください、とだけ表示する手法から透けて見えるのは、自社中心で高慢な姿勢だ。一体、どういうつもりなのか?トラベルといえば、今やグーグルのことなのか?

ある意味、それが狙いなのだろう。

※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:Does Google Hijack Travelers in Gmail?

著者:デニス・シャール氏

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