旅行会社が本音で語った航空券流通新規格「NDC」、浮き彫りになった課題と未来とは?

アマデウスは旅行会社の本音を探る匿名座談会を開催した。コロナ禍からの復活に向けて動き出した旅行会社は、そのNDCの現在地、そして将来をどのように考えているのだろうか?トラベルボイスが協力して開催された座談会のテーマはIATA (国際航空運送協会)が推進する航空券流通データの新規格「NDC」。その内容をレポートする。

NDCでは、リッチコンテンツが充実し、シンプルでスピーディーなオファーにより、旅行者のニーズに合わせたパーソナライゼーションに応えることが可能と言われている。また、旅行会社は、航空会社が自社の顧客向けに造成した特別なNDCバンドルにもアクセスすることが可能で、航空会社のダイナミックプライシングにも対応できるようになる。

NDCは依然として「研究中」または「検討中」

現在、アマデウスがNDC接続する航空会社は、アメリカン航空、シンガポール航空、エールフランス・KLM航空など10社。今後、ユナイテッド航空、LOTポーランド航空も視野に入れている。また、アマデウスのNDC環境にある旅行会社は世界で約2万社になる。

アマデウス以外の旅行系テクノロジー企業、旅行系以外のテクノロジー企業やアグリゲーターもNDCの開発を進めているが、導入をする旅行会社にはまだ課題が多いのも事実だ。では、各旅行会社はNDCの現在地をどのように捉えているのだろうか。

座談会に参加したOTAを含む旅行会社でも、導入について全社が「研究中」あるいは「検討中」にとどまった。大手旅行会社は「社内システムとの連携に課題があり、実用には時間がかかる。現在のマーケット状況では多額の投資がしづらい」と本音を漏らす。

業務渡航系旅行会社は「航空会社との契約でNDCの窓は開けているが、接続のための開発と費用は大変。会社のビジネスモデル変革の中でNDCをどのように考えていくか」と位置付けた。また、OTAは「時期は未定だが、将来的には導入せざるを得ないだろう。しかし、GDSでできることがNDCではできないなど、メリットがあまり感じられない」とこぼす。

アマデウスは「GDSと比べるとまだ差がある」と認める一方で、「NDCでできることをアップデートしている」と現状を報告。ただ、現在のオペレーションフローと合わず、導入しても利益がなければ、旅行会社は重い腰をなかなかあげない。

OTAは「NDCのゴールがはっきりしない。航空会社は、NDCで可能になるこことをアピールするが、それが本当にユーザーが欲しているものなのかどうか。ユーザーが取り残されている感じがする」と手厳しい。

大手旅行会社は「まだ開発途上の技術」との認識を示す。「旅行会社はもちろん、航空会社でさえも営業レベルではNDCを分かっていないのでは」と話したうえで、「既存システムを変更するのは大変なこと。予約だけで、あとは航空会社に頼めば簡単かもしれないが、それでは旅行会社のビジネスモデルは成立しない」と続けた。

業務渡航系旅行会社は、業務渡航ならではの難しさを指摘する。「クライアントの旅費規制を設定しているが、NDCはチョイスが増えると言われるが、反対に設定は落とせない。社内規制に則ったマネージメントをしていくのが難しいと思う」と明かす。

NDCとGDSとの併用は?

ここまでの議論で、旅行会社が投資も含めて積極的にNDCに向き合えない理由の一端が明らかになってきた。その課題を端的にまとめると「現在のGDSが優秀。機能面や効率面でNDCが追いついていない」(大手旅行会社)ということになるだろう。

その大手旅行会社は「NDCは航空会社との契約関係が複雑になる。管理負荷が高く、連携した後のメンテも負担。客へのメリットが感じられない。逆に現場が混乱するのでは」と率直な意見を続けた。

NDCが優秀なGDSを一気に取って代わることはないだろうが、そうなるとGDSとNDCの併用が大切ということになる。OTAは「打ち込むとNDC商品とGDS商品が一つの枠の中で返ってくるようになれば」と希望を話す。

また、業務渡航系旅行会社は、死活問題として「GDSとは異なり、NDCで旅行会社がどのように収益を上げていくのか見えない」と明かした。

それに対して、アマデウスは「GDSとNDC双方をストレスなく使えるのが理想だが、NDCは航空会社ドリブン、GDSは旅行会社ドリブンで技術的な壁があるのも事実。コンソリデーションとして、LCCやフルサービスキャリアのコンテンツなどをまとめていくのが旅行会社へのベネフィットとなるが、併用の具体的な解決法はまだ見つけられていない」と認める。

NDCはビジネスモデル変革の機会になるか

それでも、旅行会社がNDCを積極的に利用していけるためには何が必要なのだろうか。

OTAは「コスト課題が大きいので、開発費を負担しもらえればありがたい」と話し、大手旅行会社は「コスト環境と利便性の向上。そして、利用者へのコンテンツが整うことも重要。機内食、WiFi、手荷物など付帯サービスをわかりやすくメリットとして伝えられる仕組みを構築して、乗ってみたいなと思わせるような付加価値を期待したい」と続けた。

業務渡航系旅行会社は「販売チャネルが増えて、対価が利用者あるいは航空会社から戻ってくる仕組みができれば、導入は進むのでは」との意見。また、別の業務渡航系旅行会社は「NDCの仕組みは新しいビジネスモデル。ユーザーからサービス料が取れる仕掛けができるかもしれない。旅行業界で新しい経済システムを作れるきっかけになるかもしれない」と将来への期待を表した。

加えて、参加者全員が「JALとANAが参入してくれば、日本の旅行会社も真剣に考え出す」ことに同意した。

最後に、今後について意見交換。OTAは「是々非々で考えていく。いずれはNDCをやらなければならないが、問題はそのタイミング」との考え。大手旅行会社も「NDCが否定されているわけではない。将来に向けて考えていかなければならないもの」と位置付けた。また、業務渡航系旅行会社は「収益改善が大きなミッションのなかで、NDCはひとつのターニングポイントになるかもしれない」と話した。

アマデウスは「航空会社の間でも温度差がまだある。NDCでダイレクトに結びたいところもあれば、GDSで結びたいところもある」としたうえで、今後については「これからのリカバリーのタイミングで、定期的に旅行会社とのミーティングの機会を設けて、意見を拾い上げ、NDCの売り方を進化させていきたい」とまとめた。

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