パリ・ルーブル美術館、突然のストライキで休館、オーバーツーリズム対策への職員の不満から

世界で最も多くの来場者数を誇る美術館であるフランス・パリのルーブル美術館は、2025年6月16日、職員による突然のストライキによって休館を余儀なくされた。職員たちは、美術館は大量に押し寄せる観光客に押しつぶされそうになっていると主張している。

このストライキは、定例の内部会議中に勃発した。ギャラリーの係員、チケット売り場の係員、警備員が、管理不能な混雑や慢性的な人員不足に不満を表明。組合が「耐え難い」労働条件と呼ぶ状況に抗議し、持ち場に戻ることを拒否したのだ。

ルーブル美術館の入り口では、チケットを手にした何千人もの来館者が、ガラスのピラミッドの前で身動き一つ取れない列に押し込められているのが現状。「まるでモナ・リザが屋外に展示されているようだ」と話す来場者もいる。

ルーブル美術館が閉鎖されるのは稀なことだ。これまでも、自発的なストライキなどは戦争中、パンデミック中、そして2019年の過密状態や2013年の安全への懸念をめぐって起きていた。しかし、これほど突然、予告もなく、群衆の目の前で起こることは初めてのことだ。

フランス政府は改修計画を打ち出すが

ルーブル美術館は、水漏れ、気温変動、老朽化したインフラ、許容範囲をはるかに超える来場者などさまざまな問題を抱えている。今回の混乱は、マクロン大統領が、まさにその問題を解決するための10年計画を発表した矢先に起こった。

ギャラリーの受付兼ビジターサービス担当者であるサラ・セフィアンさんは、「政府の支援を待つ余裕はありません。私たちは今、プレッシャーを感じています。これは芸術作品の問題だけでなく、それを守る人々の問題なのです」と訴える。

混雑の象徴となっているのがモナ・リザだ。美術館最大の展示室「大広間」には、1日約2万人が押し寄せる。保護ガラス越しにレオナルド・ダ・ヴィンチの傑作にスマホのカメラを向ける人でごった返している。両脇に飾られた傑作に目を留める人はほとんどいない。

マクロン大統領が「ルーブル新ルネサンス」と名付けた改修計画では、モナ・リザは専用の展示室で展示され、時間指定の入場券が必要になる。また、過密状態にあるピラミッド型施設の負担を軽減するため、セーヌ川近くに2031年までに新たな入口を設ける計画もある。

改修計画全体の資金は、入場料収入、個人からの寄付、国庫、そしてルーブル美術館アブダビ支部からのライセンス料で賄われる予定だ。EU域外からの観光客の入場料は、今年後半に値上げされる見込みだ。

しかし、ルーブル美術館の職員たちは、7億ユーロから8億ユーロ(1170億円~1340億円)に上る改修計画は、深刻な危機を覆い隠しているだけだと主張している。ルーブル美術館がフランス政府から受け取る年間の運営補助金は、来館者数が急増しているにもかかわらず、過去10年間で20%以上も減少している。

宙ぶらりん状態のルーブル

ルーブル美術館は2024年、870万人の来館者を迎えた。これは、当初想定されていた収容能力の2倍以上。1日3万人の入館制限を設けているにもかかわらず、休憩所やトイレの数が不足し、ガラス張りのピラミッド内は夏の暑さがさらに増している。

ルーブル美術館のローレンス・デ・カール館長は、「建物の一部は、もはや防水性がない。気温の変動によって、貴重な芸術作品を危険にさらしている、食事、トイレ、案内表示といった来館者にとっての基本的なニーズさえも国際基準をはるかに下回っている」と嘆く。

ノートルダム大聖堂やポンピドゥー・センターといったパリの他の主要施設は、政府の支援を受けて修復工事がおこなわれているが、ルーブル美術館は資金も支援体制も中途半端なままだ。マクロン大統領は、2020年代末までにより安全で近代的な美術館にすると約束したが、それまでフランス最大の文化財であるルーブル美術館は、亀裂を抱えたままだ。

※ユーロ円換算は1ユーロ167円でトラベルボイス編集部が算出

※本記事は、AP通信との正規契約に基づいて、トラベルボイス編集部が翻訳・編集しました。

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