
オンライン検索や旅行購買ビッグデータをもとに、ターゲティング広告や効果測定など、デジタルマーケティング・ソリューションを提供するADARA(アダラ)。2年前にインドの旅行テック企業、レートゲイン・グループ傘下に加わったのを期に、次の成長の牽引役としてインド市場攻略にも自信を示す。世界の観光事業者がいま最も着目するデジタルマーケティングとは何か。先ごろ来日した同社の社長兼ジェネラルマネジャー、ジェイ・ワードル氏(写真)に話を聞いた。
デジタル広告と経済効果の相関性を把握
アダラは、航空会社、ホテル、OTA、レンタカー、空港、観光アトラクション施設、チケット代理店など、世界100社・270ブランド以上の観光関連企業との提携により、旅行者のオンライン検索や予約・購買動向に関するビッグデータを構築。これを活用したターゲティング広告や各種マーケティング施策の効果測定・分析をおこなっている。主な顧客は観光局やDMO、そして、ホテルや航空会社などの旅行サプライヤーだ。日本では、JNTO(日本政府観光局)が2018年から同社のソリューションを活用している。
「データ・パートナー各社からは、ほぼリアルタイムでファーストパーティ・データ(旅行者動向の一次データ)を収集している。非常にクリアな状況把握や予測ができる」と同社の社長兼ジェネラルマネジャー、ジェイ・ワードル氏は話す。
データの取り扱いでは世界レベルの基準を設け、GDPR(EU一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)など、個人情報に関わる世界の諸規則にも対応。データ収集ポイントの点と点を結ぶことで、旅行者像が浮かび上がる。
たとえば、旅行の頻度、行き先、目的、利用した客室や座席の金額、予約の際、何を意識しているのか。こうしたデータ解析結果を用いることで、DMOや旅行サプライヤー各社は、地域や自社がねらうべきオーディエンスや顧客セグメントを知り、対象層向けに訪問や購買を促すターゲティング広告を配信。さらに、広告閲覧者が、実際に地域を訪れたのか、自社サービスの予約に至ったのかを追跡して経済的インパクトを可視化し、次の戦略策定をサポートしている。
3桁成長の注目メディアはコネクテッドTV
目下、同社の取り扱いが急成長しているのがコネクテッドTV(CTV)での広告配信だ。CTVとはインターネット回線に接続したテレビ端末に配信される動画広告で、たとえばNetflix (ネットフリックス)、Disney+ (ディズニープラス)、Hulu(フール―)など。「広告主はCTV視聴者が旅行サービスの予約動向、購買金額など、広告効果を検証できるようになった」(ワードル氏)。
同社の2024年実績では、ビジネス全体として前年比2桁増のなか、ソーシャルメディアでのターゲティング広告配信とCTVが最も大きく伸びており、「いずれも前年比3桁増だった」(同氏)という。
また、海外DMOの間では、最近、空港ラウンジや街中の電子掲示板などで配信する動画広告「デジタル・アウト・オブ・ホーム(DOOH)」も、引き合いが増えているという。躍動的なデジタル動画が配信できるようになり、現地に滞在中の人にアピールする効果も高いからだ。
ホテルや航空会社からの相談で多いものの一つは、会員の「ロイヤルティの向上」に関する内容だという。ワードル氏は「たとえば、その会員が頻繁に訪れている国や地域など、関心がありそうなエリアを割り出し、そのDMOと組んでプロモーションを働きかけるなど、サプライヤーと地域が協働するのも一案。さまざまなステークホルダーが組み、データを掛け合わせることで、可能性がさらに広がる」と見ている。
成長著しいインド市場がもたらすインパクト
アダラは2023年、インドの旅行テック会社、レートゲイン・トラベル・テクノロジーズが買収し、現在は同グループ傘下にある。レートゲインは、SaaS事業ではインド初の上場企業で、当初は主にホテル予約業務の効率化や収益管理ツールを提供していたが、旅行・ホスピタリティ向けのマーケティング・テック領域への参入を機に、アダラを獲得した。
インドは2030年までに海外旅行者数が5000万人以上に達し、世界第4位の送客市場になると予測されている。「現在の米国に匹敵するマーケット規模であり、大きなチャンスだ。同時に、これからのツーリズムの様相に与える正負のインパクトも大きく、真っ先に影響を受けるのはアジア太平洋になるだろう」とワードル氏は指摘する。
オーバーツーリズムも念頭に、日本のインバウンド関係者にとっても、「誘致したい顧客セグメンテーションを適切におこない、効果的なクリエイティブを届けることが、これまで以上に重要になる」との見方で、インドの旅行者が考えていることを理解し、この巨大市場を攻略する上で、アダラは力強いパートナーになると自信をみせた。
世界の旅行市場が成長軌道に戻るなか、旅行者誘致をめぐる競争は激しくなっている。サウジアラビアでは、2030年までに1億5000万人の外客誘致を目標に掲げ、巨額の投資をおこなっている。
ワードル氏は「我々の目標は、データ・パートナーを世界中でさらに増やすこと、そして広告配信や効果測定ユーザーの満足度をさらに高めること」とし、デスティネーションや旅行サプライヤーが、それぞれにとって最良の選択ができるようにサポートし、結果につなげていく考えを示した。