米国とイランとの停戦合意に向けた協議が始まるなか、英国の経済シンクタンクであるオックスフォード・エコノミクスの「ツーリズム・エコノミクス」は、世界の旅行需要について最新の見通しを示した。
まず、世界経済の最大の懸念となっている原油価格について、基本シナリオでは短期的には1バレルあたり100ドル前後でピークに達し、2026年7月下旬頃にホルムズ海峡の通航が再開されれば、60ドル前後へと正常化していくと予想している。一方、ホルムズ海峡の閉鎖がより長期間続くシナリオでは、第3四半期頃に1バレルあたり163ドル付近まで急騰し、その後、下落していくと予測。2028年までホルムズ海峡が事実上、閉鎖されるシナリオでは、原油価格は120ドル以上の高止まりが続くと見ている。
マクロ経済的に見ると、世界的にインフレ率は2020年ピーク時の8~10%から、現在は概ね3~5%で推移(中国は除く)。しかし、原油価格の高止まり、各国の金利政策、個人消費の低迷は経済全体、そして旅行需要に影響を及ぼすとしている。
同社の旅行に対する信頼度の調査では、2026年第2四半期の段階で、短期的(今後12カ月)な信頼度は第1四半期よりは上昇したものの7%止まり。しかし、中期的(今後2年)な信頼度は40%、長期的(今後5年)な信頼度は63%と高い水準を保っている。
旅行への信頼度は回復傾向に(報道資料より)2026年の個人消費全体に占めるレジャー旅行の支出は、欧州では約10%、北米では約6%、その他の先進国では約8%。コロナ禍の時期を除いて、近年は同水準で推移している。このことから、同社リード・エコノミストのクロエ・パーキンス氏は「旅行への意欲は、世界の特定の地域だけでなく、主要な地域全体で依然として強い」と分析した。
同社では、2026年の世界の国際旅行者数の伸び率の予測について、3月26日時点の前年比6%増から6月時点では同4%増に下方修正した。パーキンス氏は「それでも、依然としてプラス成長を維持する意味は大きい」と評価した。
欧州では域内旅行が市場を下支え
地域別にみると、欧州では伸び率が7%増と予測。前回予想の8%増から、ほぼ変わらない。この大きな要因は、欧州域内の旅行需要の増加にある。欧州域内からの旅行者のシェアは前年の70%前後から82%まで拡大すると予想している。パーキンス氏は「航空運賃が高騰していることから、航空機以外の手段で移動可能な域内旅行が増えており、『リージョナライゼーション』が進展している」と説明した。
特に、ギリシャ、イタリア、スペインなど南欧やチュニジアやエジプトへの需要が増加。旅行先として中東の代替地になっているという。
一方、アジアから欧州への旅行者のシェアは前年を下回る7%と予測。これは、中東情勢の影響によって、渡航費用が高騰しているほか、中東経由の需要が減少しているためだとしている。
北東アジア、中国人減も他国からの旅行者が増加
アジアへの旅行者数は、前回予測の同12%増から同9%増に下方修正している。このうち、2026年1月から4月の中国人の海外旅行者の動向を見てみると、日本への需要が依然として低迷。欧州や北米の長距離旅行先の需要の伸びは前年と比較する落ち込んでいる一方、アジアと香港/マカオへの旅行者数は前年を上回っている。
2026年の予測では、日本は同39%減、長距離旅行先は同10%増、アジアは同22%増、全体では同12%増になると予測している。これは前年の同9%増から上昇しているものの、今年3月に予測した同25%増からは大幅に下方修正している。
2026年の日本を含む北東アジアへの旅行者数については、前回予想の同10%増から同9%増に若干下方修正した。パーキンス氏は「中国からの旅行需要は極めて低調で、その影響が地域全体にマイナスになると見込まれていた。しかし、実際はそうはなっていない」と指摘。その理由として、中国に代わり、タイ、韓国、オーストラリア、一部欧州からの旅行需要が高まっていることを挙げた。
2026年のアジア太平洋地域のインバウンド予測(報道資料より)
米国、苦戦が続くも2026年は3%増と予測
米国のインバウンド市場については、「非常に厳しい状況が続いている」(パーキンス氏)。2025年から前年比減が続いており、2026年2月と3月は増加したものの、4月は同14.1%減、5月も同6.5%減と落ち込み、5月までの累計では前年同期比4.8%減となった。
ただ、カナダからの陸路での旅行者は4月ごろから前年比増に転じ、メキシコからの旅行者も増加している。このことから、2026年は同3%増(2025年は同6%減)とプラスに転じると予想している。
米国へのインバウンド旅行者の推移(報道資料より)同社グローバル予測担当ディレクターのヘレン・マクダーモット氏は、「中東を除くすべての地域で、成長は鈍化しているものの、旅行需要の成長は続いている。米国とイランとで正式な停戦合意に至れば、7月以降にも旅行需要の回復が始まる可能性が高い」とまとめた。



